*薬研視点
大将の初期刀は,何と三日月だったらしい。選べるはずの初期刀を選べないまま本丸に来て,ヤケクソで鍛刀して出来たのが三日月だったとか。でも,三日月が来てから暫くの間,大将は鍛刀ができなくなっちまったそうだ。理由を聞いたが,大将にもわからないらしい。
「あの頃,本当に大変だったのよ。」
遠い目をして三日月と2人(正しくは1人+1振り)きりの頃を語る大将。出陣させられて,三日月が重傷を負うこともあったとか。
「なあ大将。鍛刀できるようになったきっかけは何だ?」
「・・・何,だったかな・・・。」
それ以上のことを聞き出すことはできなかったが,何かあったのかもしれない。大将は,月の半分を三日月を近侍にする。そして,残りを2振りの刀剣男士が1週間ずつ近侍に就く。三日月以外の刀剣男士を近侍にするのは,全員と交流を持ちたいという大将の希望からだ。三日月のヤツは,自分が近侍の時でも大将をほったらかしにして,縁側で茶をすすっている。大将は,三日月が傍にいないくても気にしてない。ぺっとぼとるの茶を飲めと小言は言うが。
(本来の三日月ってこうだったのか。)
演練に出た時に他の本丸の三日月を見て,うちの三日月との違いに驚いた。うちの三日月は大将に平気で悪態をつくが,他の本丸のヤツはそんなことはしない。ニッコリと微笑み,穏やかそのもの。ギラギラした目で大将を挑発することもない。顔を赤らめて,大将に歌を贈るヤツや貢ぎ物をするヤツまでいたぐらいだ。うちの三日月も・・・と考えて,気分が悪くなったのは言うまでも無いが。
「ほれ。他の俺から渡されたものを出せ。芋を焼くのに使う故。」
「焼き芋?甘味のことしか考えてないんだから・・・。」
大将と三日月の関係は,俺が想像する主従からかなりかけ離れている。正直,大将と三日月が,2人きりで仲良くこの本丸で生活してたとは思えなかった。
あれを見るまではーーー。
ある日,大将が,現世で行われる政府の会合に行くことになった。現世のお土産を頼もうと,大将の部屋に行って俺は見ちまった。
「紅くらい差していけ。女子の嗜みであろう。」
「政府の会合だし,別に・・・。」
「軽く口を開けろ。」
三日月は筒状の紅を薬指にとり,大将の唇に指を這わせた。
(・・・っ!)
大将は僅かに開いた唇を三日月に委ね,三日月は大将の唇を紅く染める。紅を差す。たったそれだけのことなのに,見てはいけないものを見た気がした。
「紅い唇で物欲しそうな顔をするのは,俺の前だけにしておけ。」
そう言って大将の唇に指を這わす三日月の目が,どの三日月よりも優しかったから。
04 秘密