*主は出て来ない,色々と酷い


「やったね!!"この絵図がすごい!"で1位取ったよ!主,喜んでくれるかなー。」
「下馬評では確実と言われてましたが,実際に決まると嬉しいものですね〜!」

稲荷寿司を食べながら大盛り上がりする加州とこんのすけ。そんな彼らを長谷部は冷めた目で見ていた。

「ふん,そんな下らんもので浮かれるな!怠慢だぞ!どこの馬の骨ともわからぬ者どもに選ばれたとて何の価値もない。そんなやつらに俺の何がわかるというのだ!俺は,主ただお一人に認めて頂きたいだけだ。」
「同士よ,そう熱くならず。審神者様も無関係ではないのですよ?審査員は,全本丸の審神者なのですから。」
「何だと!?同士,それを先に言えっ!!!」

この絵図がすごい!とは,毎年万屋が主宰する漫画イベントである。いくつかの部門に分かれているのだが,全本丸の審神者のアンケート結果によって順位が決まる。ちなみに,彼ら"あるじ”は,婦人向け絵図部門だ。

「主のご寵愛は,どの絵図に向いていらっしゃるのか・・・」

長谷部は,自室の壁に貼ってあるおびただしい枚数の主人のイラスト画に目をやり,物思いに耽った。そんな長谷部に,加州がそう言えば。と声をかける。

「他の長谷部に注意してよ!この前,他の本丸の長谷部達が,主を取り囲んで大変だったんだから。俺達が“あるじ”だってこと,主にバレるんじゃないかと冷や冷やしたよ。」
「ほう。珍しいですね。へし切長谷部といえば,主人以外はゴミ屑ぐらいにしか思ってないのに。」
「当然だ!それがへし切長谷部だ。しかし,主はそれすらも超越された存在。何と罪作りな方なのか・・・」

長谷部は,頬を染めてうっとりとした表情で筆を走らす。彼は今,1位受賞記念として万屋で懸賞プレゼントにするTシャツのデザイン画を描いているのだ。

「春画部門1位は,画狂老人三日月!?男性審神者の圧倒的支持!?主が知ったら,ばり暴れるばい!恐ろしか・・・」

“この絵図がすごい!”の受賞作品をまとめたムックを見ていた博多は頭を抱えた。横から覗き込んだ加州も顔を青ざめさせる。

「全く,三日月のヤツはどうにもならんな!あいつのせいで,他の本丸の審神者から卑猥な文が届いているのだ!クズ審神者どもめ,首を洗って待っていろ!主命がなくとも俺は圧し斬りに行く!!!」

自分のことは棚に上げて三日月を非難する長谷部をまあまあと,こんのすけが諌めた。

「同士よ。そろそろ,次作のネタについて話し合いましょう。そういえば,ワタクシは見ましたよ?同士の本体を使って,勇ましく三日月様に斬りかかった審神者様を。あの時の同士,実に良い顔をしてましたな!」

こんのすけの思わぬ暴露に顔をしかめる長谷部。そこに,はいはーい。と挙手した加州が畳み掛ける。

「主を抱きかかえた時,主の乳の谷間見たでしょ?あと,今剣に酒を浴びせられた主の尻もがっつり見てたでしょ?酒で白い衣が透けて,乳当てと腰巻きが見えてたじゃん!尻に食い込む“丁ばっく”のやつ。長谷部,やっぱり主は生娘じゃないよ。生娘であんな腰巻き付ける女子いないって!絶対やってるって!」
「五月蝿いっ!!俺は見てないぞ!赤い腰巻きなんて・・・!!!」

どつぼに嵌まる長谷部。見てたじゃん。と突っ込む者は誰もいなかった。せめてもの情けである。

「“丁ばっく”は・・・使い方によったらいけるかもしれんけん!売れる!!」
「確かに。長谷部によってどんどん淫らに開発される審神者。大胆な腰巻きを身につけ,長谷部を不器用に誘う。しかし,結局は長谷部の思うがままにくんずほぐれつと。これはありですな!」

加州が陸奥のカメラを使って隠し撮りした主人の丁ばっく写真を指差し,脚本について熱く語り合う博多とこんのすけ。依然として,長谷部は顔を丁ばっく色に染めたままである。

「主,凄く誉めてたよ?忠犬先生は神の領域だって。勿論,俺のことも誉めてくれたけど!2作目の抜き身の刀の下りあったでしょ?あれ読んで死んでもいいって思ったんだって。あの場面,りあるに書けたもんね。俺,嬉しいよ。俺達が“あるじ”だとわからなくても,主は俺達を愛してくれてるんだなって!」
「・・・加州,それは本当か?本当に,主がそう仰ったんだな?」
「間違いないよ!万屋に行った時,主が褒めてくれたんだ!あ,そうだ。懸賞用の絵図さ,丁ばっく描いてよ!主に褒められた筆さばきで,丁ばっくを真っ赤に塗りたい!らいんすとーんでデコっちゃおうかな??」

突然,長谷部はもの凄い量の桜を散らせ始めた。掃除機が一瞬にして詰まりそうな量である。

(ああ,主!貴方という方はっ!!あの時は,お顔の色一つ変えずに振る舞っていらっしゃったのに!そうですか,そうですか!お心の中は,死んでも良いと思う程に乱れていたと!何があろうと冷静沈着!流石は,我が本丸を統べるお方!!)

「これからも主のため、全力を尽くして絵図を描く所存です。最良の結果を,主に。」

盗撮した写真に向かい,長谷部は両膝を畳に付けて座り,両手を胸の前で組んで誓いを立てた。

「え?え?長谷部どうしたの?」
「こら!そこで泣いたら,涙で写真が濡れるばい!!」

口元に前足を付けたこんのすけが,加州と博多を制す。指が短くて分かりにくいが,人差し指を口に当てているつもりらしい。

「しっ。お静かに。同士の決して枯れぬ才能の泉から,作品が生まれ出ようとしているのです。ワタクシ達は今,再び伝説が生まれる瞬間に立ち会っているのですよ・・・」

軍議2



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