「すまねえ,大将。体はどこも悪くねえが,原因はサッパリだ。」
薬研ならと思い診察を受けさせたが,やはり三日月ミニマム化の原因はわからないままだった。唯一わかったことは,じじいは健康だったということ。あれだけストレスフリーの生活していて不健康だったら,長谷部はとっくに過労死してるはずだ。
「思い当たる節はないか聞いても,首を傾げるだけでさ。中身も小さいなら,記憶ねえもんな。でも,いいよな。童になりゃ大将に抱いて貰えるんだからよ。なあ大将。俺が童になったら,あんたは俺を抱いてくれんのか?俺は今でも構わねえが。」
ーーーけしからん。眼鏡を外して流し目一つを決めてくる様は,実にけしからん。白衣からはみ出す太腿が目に入り動揺すると,小さい三日月がグリグリと胸に顔を埋めてきた。
「こめがおちてたべられないぞ。あるじ,くわせてくれ。ちゃんとふーふーしてからだぞ。」
あーんと口を開ける小さい三日月。雛鳥みたいで,なけなしの母性がくすぐられてしまう。昼餉は燭台切特製の親子丼なのだが,どうも子どもには食べにくいらしい。米粒まみれの紅葉のように小さな手をほれと見せてくる。ウエットティッシュで綺麗に拭き取ると,あるじにせわをされるのはすきだと言ってくれた。
「自分で食えないなら,食うな!貴様ごときが,主の安らぎの一時を邪魔する権利はないっ!」
真向かいに陣取る長谷部が,小さい三日月に怒鳴りつけた。子ども相手でも容赦が無い。
「まあまあ長谷部。今の三日月は子どもだからさ。」
「お言葉ですが主。大きかろうが小さかろうが,三日月は三日月です。三日月である以上,“近侍兼主お世話係”の俺の指示には従わせます。俺の指示は主の指示と同義ですから。」
「目の上のたんこぶが小さくなったから,長谷部くん,張り切りに拍車が掛かっちゃってさ。彼,権力を与えたら駄目になる典型だよ。嫌だ嫌だ。」
大げさに肩をすくめる白い割烹着姿の燭台切。しかし,長谷部は余裕綽々で親子丼を食べている。大きい三日月がいない中での“近侍兼お世話係”という立場は,彼に余裕をも与えているらしい。立場が人を作るとは,このことを言うのか。
「きょうのかんみは,しょくだいきりとどらやきをつくることにした。あるじのぶんもつくるゆえ,いいこでまってるんだぞ?」
コテンと首を傾ける様が何とも可愛らしい。待ってるね。と言って抱き締めると,小さい体が抱き締め返してくれた。するとそこへ,食後のほうじ茶を持った燭台切が,小さい三日月の横に腰掛ける。
「ねえ主。こうして川の字に並んでみると,親子みたいじゃないかい?僕は主が奧さんなら大歓迎だよ。主,格好いい旦那様はいかがかな?」
ーーーけしからん。長い前髪から垣間見える切れ長の色っぽい瞳が,実にけしからん。金色の瞳とかち合い動揺すると,またしても小さい三日月がグリグリと胸に顔を埋めてきた。薬研といい燭台切といい,今日はどうしたのだろうか。けしからんにも程があるぞ。三日月以外の刀剣男士にも異常が生じてるのかもしれない。
「ーーー首を晒せ。家臣の手討ちは俺の仕事だ。」
燭台切を斬りかからんと抜刀寸前の長谷部。完全に目がイッてしまっている。
長谷部,異常なし。
06 三つ子の魂千までA