蒼い夜が明けない

ーーーまた,駄目だった。三日月を降ろして以降,私は鍛刀すらできなくなってしまった。
理由はわからない。しかし,何度やっても鉄くずにしかならなかった。鍛刀すらできない審神者などいるはずもなく,政府もお手上げの状況だ。このままだと出陣することができない。一体,何のためにここへ来たのか。

「俺がいるのだから,良いではないか。」
「このままじゃ出陣できないでしょ。」

ふむ。と言ってる割には,鍛刀ができないことに何の興味もなさそうだった。むしろ,鍛刀できないこの状況を喜んでる節すらある。
私と三日月の1日は,鉄くずを作っている以外は,平和そのものだった。一緒にご飯を食べ,お茶を飲む。眠るまでたわいのない話をする。

「煎茶は,甘味の味を最大限に引き出しているとは思えんなあ。」
「苦みが少ないからじゃない?玉露か抹茶にしたら?」
「それは良い。主の勧めに従おう。」

三日月は,茶葉と甘味に拘りだした。あれこれ試行錯誤した結果,寝起きは玄米茶,食事中は煎茶,食後はほうじ茶,甘味には玉露か抹茶に落ち着いた。玄米茶は,寝起きに煎茶を飲むと胸焼けがするというので私が勧めた。そこら辺は,見た目が若いといっても所詮,じじいである。

「ああ。この香りは“侍従”だな?」
「当たり。己の立場をわきまえて貰おうと思ってね。」

三日月は,人の世話をすることが苦手らしい。当初は,何から何まで私が行っていた。いつの間にか,衣に薫きしめる練香まで作る域に達した。しかし,あの面倒臭い狩衣は頭痛の種だった。新人審神者用の冊子には,着せ方について何も書かれていない。口だけは達者な三日月の手ほどきで,何とか着せられるようになった。

「ふむ,畑仕事か。で,この道具はどう使う?」
「!!!私のショー・・・腰巻き!!!どこから持って来たの!?」

薄っぺらい布が畑仕事に使えそうもないことぐらいわかるだろう。世間知らずというか,浮き世離れしてるというか。
しかし,段々と,馬の世話や畑仕事をこなせるようになってきた。家事も積極的に手伝ってくれるし,近侍としても申し分ない。彼は人の生活に慣れ始めているのに,私は何も出来ないまま。

「審神者様,どうか気を落とさず。焦らずいきましょう。」

こんのすけは,親身になって励ましてくれた。だから,余計に辛い。どんどん歯車が噛み合わなくなるような日々。

(“崖っぷちありがとう!最高だよ!” “今日からお前は富士山だ!”あー・・・。何度読んでも,励まされる・・・。)

現世から持参した,ポジティブの伝道師松○修造の本に書いてある言葉だ。私の愛読書である。今まで何度助けられてきたことか。しかし,今回ばかりは,この本をもってしても乗り越えられる自信が無い。鉄くずを生産する生活が,何ヶ月か続いた。



「大変申し上げにくのですが,出陣の命が下りました。」
「出陣か,わかった。」

こんのすけの言葉にあまりにも驚いて,腰を抜かしてしまった。新人審神者のもとに初期刀として現れた三日月。どれほどのものか一度出陣させてみようというのが政府の結論だった。冗談じゃない。検証目的の出陣なんて,何を考えているんだ。

「1振りでなんて無理に決まってるじゃない。三日月に何かあったらどうするのよ・・・」
「お気持ちはわかりますが,拒否権はありません。ワタクシも出来る限りのサポートをしますから・・・」

申し訳なさそうに言うこんのすけ。三日月はというと,優雅にお茶をすすり,夕餉のデザートに私が皮を市松模様にカットした林檎を食べていた。何を考えているのか全くわからない男(刀)である。

(どうしよう・・・私のせいだ。)

私のせいで三日月が,危険な目に晒されるかもしれない。出陣寸前まで鍛刀を試みたが,やはり出来たのは鉄くずだった。