主と主お世話係と赤い舌

【 へし切長谷部 と相手の体に舌を這わせないと出られない部屋に閉じ込められました。へし切長谷部 は先に謝ってから、こちらに向かって近寄ってきました。(自力で出られなかった場合)45分後に、通りかかった蜻蛉切が外から開けてくれました。】


「主っ!鍛錬場の掃除が終わりましたら,今日こそは鍛刀していただきますからね!」
「今日?もういいよ,今日は・・・」

私は,ガミガミ説教する長谷部を尻目に鍛錬場の水拭きをする。日頃は“鍛刀せよ”と言うくせに,いざしたら“新しい刀の収集ですか”と嫌みを言ってくる始末。どっちかにして欲しい。鍛錬場の端を拭いていたところ,床に取っ手のような物を見つけた。床下収納だろうか。

(真っ暗で何も見えないや)

中の様子を伺おうと床に這いつくばって中を覗き込んだところ,バランスを崩して穴の中に落ちてしまった。落ちた瞬間,ぱふんと落ちた自分の体を支えるマットのような物にぶつかった。おかげで体は痛くない。恐る恐る立ち上がると,天井と頭の間にはかなり余裕があるようだ。一体,ここは何なのだろう。とにかく暗くて何も見えない。鍛錬場から漏れる僅かな明かりだけが頼りだ。

「長谷部!長谷部!床の穴に落ちちゃった!はしご持って来て!!」
「ああ!主っ!!何てこと!ただ今,参ります!!!」

鍛錬場の床の穴からひょっこり顔を出した長谷部は,はしごを持ってこいとの主命も聞かず,飛び降りてきてしまった。すると,長谷部がマットに着地した瞬間に穴の中に光が灯った。私達が降り立った場所は,コンクリート作りのトンネルのようなものだった。50メートル先に赤いドアが1つあった。私達はそのドアに向かって進んで行く。

「主。俺の後ろへ。扉は俺が開けます。」

長谷部は私を匿うように立ち,赤いドアを開けた。開けた瞬間,パアっと明かりがついた。眩しくて一度目を瞑り,再び開けると,そこは10畳ほどの部屋だった。部屋の中には,モニターらしき物,ベッド,冷蔵庫,ソファなどまるで一人暮らしの部屋のような造りになっていた。何だここは。と,部屋の中を見て回る。

「主っ!!!」
「な,何?どうしたの?」

長谷部が突然,大声で私を呼んだ。振り返って彼の顔を見ると真っ赤になって,こちらを凝視していた。私が穴に落ちた事を怒っているのかもしれない。小言は懲り懲りなのに・・・。

「先に申し上げておきます。このような無礼を働くこと,お許し下さい。全ては貴方をここから安全に脱出させるためのことなのです!!!」
「え?え?え?」

長谷部はその機動力を無駄に活かし,ズンズンとこちらへ近寄ってくる。私は,長谷部の気迫に圧倒され,その場で固まった。長谷部の背後にモニターが光るのが見えた。何やら文字が書いてある。

「相手の体に舌を這わせないと出られない・・・?」

何ということだ,冗談じゃない。ここがどこかもわからぬ上に,いかがわしい事をせよとは。本丸の地下にあることからすると政府の仕業か?大体,誰が条件をクリアしたと判断するのか。隠しカメラがついているのかもしれない。

「おいっ!!!いい加減にしろ!!!早くここから出せ!!!」

ーーー“NO!”私の叫びに呼応して,モニターに文字が浮かび上がった。条件をクリアしたら出られるのかと聞いたら,“YES!”と出た。腹が立って仕方ないが,リアルタイムで誰かが監視している辺り,安全は保障されているということか。

「よし!長谷部,手を出して。私がちゃちゃっと済ませるから。申し訳ないけど,ちょっと我慢してね。」
「何を仰いますか!家臣である俺の体に,貴方の玉体の一部であられる舌を這わすなど許されるはずないでしょう!!」
「ぎょく・・」

生娘をとうに卒業した私にとって,長谷部の手を一舐めする位なんてことない。朝飯前である。しかし,我が本丸最高の忠臣を自負する長谷部には許せないようだ。長谷部は意を決したように,片膝立ちになった。

「主の玉体に触れさせて頂くことをお許し下さいっ!!!」
「・・っ!ちょっと待った!て,手を洗わせてっ!」

私は,我が本丸で三日月と双璧をなす潔癖なのだ。先程まで掃除をしていた手を舐められるなんて冗談じゃない。長谷部のは良くても,自分のを舐めさせるわけにはいかない。大急ぎで手を洗いに行った。

「主,俺は全く気にしませんが。」
「長谷部は良くても私が駄目なんだって・・・」

長谷部は,失礼します。と頭を下げて私の手を取った。手の甲にゆっくりと唇に近づいていく。そして,手の甲に浮き上がる血管に沿って,長谷部の赤い舌が滑り始めた。つうっと,中指の根本の骨から手首に向かって。最後に,ちゅっときつく吸われた。

「ちょっ,」

吸われた所を見ると,キスマークが付いていた。何をしとるんだ,長谷部。何というか,開けてはならない禁断の扉を開けてしまった気がしてならない。長谷部から目を逸らすようにモニターを見ると,“OK!”と表示され,赤いドアが自動的に開いた。

「は,は,長谷部!やったよ,ドアが開いた!!」

気まずさを打ち消すようにわざとはしゃぎ,長谷部に声をかけた。顔を上げた彼は,藤色の目を細めにっこりと微笑んでいる。ーーードキン。やけに色気のありすぎる笑顔を見て,顔に熱が集まっていく。色男すぎやしないか。条件はクリアしたというのに,長谷部は私の手を握ったまま。男らしい少しごつごつした手。きゅっと握りかえすと,更にしっかり握られた。不覚にも,私は彼を男として意識し始めてしまったようだ。長谷部は,部屋を出て赤いドアを閉める間際,もう一度私の手に舌を這わせた。

「ご馳走様でした。」



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