天下五剣の不機嫌すぎる夜@

*三日月がいつもより毒舌。主従が逆転。



「「「「「かんぱーい!!!!」」」」」

なまえの本丸の恒例行事である満月の宴会が始まった。現世で買ったハイボールの缶を開ける。キラキラと光る黄金色の缶を見ているうちに,あの忌々しい出来事を思い出した。そう,三日月に夜這いを掛けられた挙げ句,肩を噛み千切られかけたあの夜の事だ。同じ徹を踏むことは許されない。決意をあらたにハイボールを流し込んだ。

「大将,気をつけろよ。湯浴みしたばかりだろう?水を飲まねえと脱水で酔うぞ?」
「ははは。気をつけるよ,ありがとう。」

水を差し出す薬研と言葉を交わす。紳士だ。あの忌々しき夜にもこのようなやり取りがあったような。気を引き締めねばなるまい。なまえは,グラスに入った水を一気に飲み干した。彼女の困った酒癖も気を引き締める原因だ。酩酊状態になると目の前の男に欲情してしまうのだ。なまえは己の酒癖を自覚し,男士とのサシ飲みは極力しないなど細心の注意を払っている。

(まあ。今日は宴会だし,大丈夫。)

大勢でわいわい飲む宴会なのだから,1人と1振という状況になるはずがない。じじいにさえ気をつければ大丈夫。後に,この慢心が悲劇を生むことになるなど,この時のなまえは知る由もなかった。


「主も飲もうよ。お酌してやるからさ〜。」
「・・入れすぎって!あーヤバイ。酔ってきたかも・・」

次郎が,ドバドバとワインをグラスに注ぎ込んだ。男士は皆,自分がお酌した酒をなまえに飲ませたがる。自分の為に注いでくれた酒。大して強くもないくせに,"男士馬鹿”のなまえは律儀に毎回飲み干していた。相当な量をすでに飲んでいる。

「さーあ!次郎さん,暴れちゃうよ!」
「戦えば,必ず片方が悲しみに沈むことになります」

宴会ではいつも,男士が気ままに盛り上がっている。その中で,毎回行われるのが野球拳だ。一応主人は女であるはずなのだが,なまえも男士も気にしていない。しかし,なまえは武士の情けとして,誰かが裸になる時は目を逸らしていた。今まで幾多の野球拳を見てきたなまえだが,流石に意表をつかれる。まさか江雪がやるとは。相当酔っているのではないか。勝負の行方を固唾を呑んで見守った。


「和睦の道は・・・ないのでしょうか・・・」
「江雪兄様!!そこで諦めては戦は終了ですよ!!!主っ!あのへたれに何とか言って下さい!」

残すは下着のみというところで,江雪が泣きを入れた。酔っ払った宗三が,まだ戦うようヘタレの兄を説得しろとなまえに絡んでくる。素面の時には考えられない言動だ。

「野球拳に和睦の道はないんだけどねえ。ま,今回だけは許してやったら?」
「これはこれは。涙が出るほどお優しいですな。主。お手合わせ,お願い申し上げる」
「・・・ほう。この私を相手に和睦なき道を進もうってか?いいね,やろう。」

泥酔した一期が,恭しく胸に手を当てた。だが,なまえを射貫く瞳はギラギラと慇懃無礼に輝いている。彼は癖が強い上に酒癖が悪かった。大きな盃に溢れ出すほど酒を注いで,飲んで見ろと言わんばかりに差し出す。酔っ払いの安い挑発に乗って,なまえはぐいっと飲み干した。


三日月は,皆がいない隙にゆったりと入浴を済ませた。潔癖症の彼は,男士がごった返す芋洗い状態の中で入浴をすることを避けている。火照った体に夜風が心地良い。廊下を歩く足を止めて満月を見上げた。その姿は,光源氏も嫉妬する程の貴公子ぶりである。

「忍び通う夜としてはちと明るいな。だが,月明かりの下,かぐや姫の羽衣を脱がすのもオツだろう。」

頭の中は単なる助平じじいだった。かぐや姫を迎えに宴会会場の大広間に向かうと,大きな歓声が巻き起こっていた。男士達が取り囲むように正座をして,何者かの一挙手一投足を見守っている。パンツ一丁姿の一期と襦袢姿のかぐや姫ことなまえだった。

「あるじぃ・・・お覚悟。」
「わかって・・るって。野球拳に和睦の道はなーし!!」

酩酊状態のなまえは,もぞもぞと動き出す。襦袢の裾から白い脚へ,そして爪先に塗られた紅色を伝って,何やら黒い布が現れた。おおっ!と響めきが起こる。なまえは足下の黒い布を掴むと,三日月に向かって投げつけた。彼は,顔面に当たって床に落ちた黒い布を拾い,そして広げた。

「何だ,丁ばっくか。」

ていッ!と長谷部が叫ぶと同時にバタリと倒れた音で,三日月の脳はすうっと冷えていった。直ぐさまなまえを見る。両手を腰に当ててふんぞり返る彼女は,前屈みに跪いて顔を真っ赤に染めた一期を見下ろしていた。

「一期よ,たて。和睦の道は・・・」
「一期はすでに勃っておる。この勝負,主の勝ちで良いな?主,ねんねの時間だぞ。」

三日月は,皆の返事を待たずになまえを抱き上げる。勝負を中座されたことに腹を立てたなまえが抗議の声を上げると,ピシャリと彼女の白い脚を叩いた。

「俺は初期刀として主に叩き込まねばならんことがある故,今宵は何人も閨に近づくな。」

大広間が水を打ったように静まりかえる。初めて見せた三日月の初期刀らしい振る舞いに皆は驚くはずだった。しかし,検非違使も泣き叫ぶ程の殺気が,驚く余裕を殺す。"三日月宗近史上最凶”の看板に偽りなし。

「みかづき,どこ行くの?まだ,一期のパ・・」
「ねんねする前にじじいが怖い話をしてやろう。うんと肝が冷えて眠れんぞ。」
「いらない。一期のパン,」
「泣いても止めんからな?やあ楽しみだ。さあさあ,参ろう。」


三日月はなまえの自室の襖を閉めた途端,彼女を床に投げ捨てた。床にゴロンと転がったなまえは,襦袢の裾が捲れ上がって尻が丸出しだ。

「俺の足元に跪け。直ちに跪け。」
「一期,あとパンツだけだったのに!」
「斬られたいか?うん,斬られたいのだな。なまえ,さらばだ。」

刀を持って仁王立ちで凄む三日月の足元に正座で項垂れるなまえ。完全に主従が逆転した。

「斬ら,ないで・・」
「黙れ。斬るか否かは俺が決めることだ。」

目をとろんとさせたなまえは,呂律の回り具合が怪しい程の酩酊状態。三日月相手に見せるいつもの強情っぷりは消え失せている。

「自分の酒癖を忘れたか?この鳥頭が。一期の魔羅をしゃぶって股に咥えて腰を振って子種を撒き散らされたいと思ったのではあるまいな?」
「まっ!?そんな!思ってないっ!」
「ふん・・どうだか」

今夜は大勢いるからと気を弛めた結果の悲劇。天下五剣様の怒りは凄まじく,地を這う様な声でなまえを激詰めしている。その証拠が,普段は彼の口から決して飛び出すことのない隠語だ。

「さっさと寝ろ。俺は自室に戻るぞ。明日は鶴丸達と茶会なのだ。まだ読み終えていないごしっぷ雑誌を読まねばならん。」

茶会とは,噂話好きの平安じじいの井戸端会議のこと。三日月は,井戸端会議という情報収集のために,ゴシップ雑誌を読んで情報収集をしているのだ。明日の話題は,なまえのTバック一色だろう。腹が立って仕方ない。

「先の演練で,なまえを口説いた審神者がおったろう?あやつ,女に刺されたらしいぞ。分不相応にお前を口説いた罰が当たったのだな。良い気味だ。」

舌滑らかに聞いてもいないゴシップを語り出す三日月。一通り話すと満足したのか,持っていたTバックを床に放り投げてなまえに背を向けた。

「いかないで」

なまえが三日月の夜着の帯を掴む。振り返ると,目を潤ませて見上げてくる女の姿。機嫌取りかと怪しむ。だが,なまえがその様な真似をしたことは,今まで一度もない。所謂,手練手管とは無縁の女のはず。そもそも,千年以上も至宝と持て囃されてきた天下五剣様に,人間ごときの手練手管が通用するはずがない。黙って彼女を見下ろした。

「離れたくない」

なまえの下に顕現した三日月宗近は自由を愛する。噂話や花鳥風月を好み,歌を詠み絵図を描く。茶や香に拘る。なまえとの情事に全力投球。人の身を謳歌する彼にとって束縛とは忌むべきもの。余所では,主人の供でない限り外出できない自分がいると知った時は,天下五剣の最美である我が身を憂いた。「私と仕事のどっちが大事?」という永久不滅の台詞も,当然大嫌い。

「朝まで,一緒のお布団で・・だっこして」

なまえが三日月に干渉することは殆どない。せいぜい内番をサボった時ぐらいだ。束縛しない彼女の性格を気に入っていた。余所の自分達に,"俺の主こそ,三日月宗近の隣に侍る資格のある女子よ。”と自慢しまくる程に。そんななまえが今,抱いてと強請っている。欲情の矛先は彼に向いていたのだ。

「鶴丸が泥酔して助かったな。そうでなければ,今頃穴に嵌められていたぞ。何の穴かは,鳥頭でもわかるだろう?」

鳥頭のなまえは,彼が言わんとする事を理解したらしい。恥ずかしそうに目を伏せた。かぐや姫は,自ら羽衣を脱ぎたいと志願している。平時の彼女では絶対ありえない事態。だが,甘やかすわけにはいかない。仕置きが必要だ。

「方角が悪かったな。方違えか・・仕方あるまい。」
「みかづき」

三日月の胸元にその身を預けたなまえは,甘えるようにすりすりと頬を寄せた。彼の帯を手で遊ばせながら。襦袢から溢れる柔らかい胸を,くにゃりと体に押しつけてくる。生娘にはできない手管。かなりの使い手と見た。いつどこで身につけたのか。

「仕置きを始めよう。」

天頂の満月を背に負う刀の瞳が妖しく光る。全本丸一腹黒い三日月宗近の長い夜が始まった。



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