無い袖は振れぬ

【 三日月宗近とお互いの好きなところを1つ言わないと出られない部屋に閉じ込められました。三日月宗近は照れくさそうに後ろ頭を掻いています。(自力で出られなかった場合)1時間後に、通りかかった鶴丸国永が外から開けてくれました】


近侍としての任務を疎かにしすぎる三日月に誘われ,私は庭を散策していた。庭に綺麗な花が咲いたから見せたいのだという。仕事もせずに花を愛でるとは,いと雅なじじいですこと。茶屋で飲んだ抹茶が不味かったなど,じじいの至極どうでもいい話を適当に聞き流していたところ,変なものを発見した。本丸の石垣にドアが付いているのである。

「ねえ,三日月。あんなのあったっけ?」
「ほう。ちと調べてみよう。」

好奇心旺盛な三日月は,何の躊躇いもなくドアを開けた。中は薄暗いトンネルになっている。彼を先頭に中を進むと,正面の赤いドアと突き当たった。一体,ここはどこだろうか。またしても,彼は何の躊躇いもなく赤いドアを開けた。突然眩しい光が目に入ってくる。目が慣れてドアが開いた先を見ると部屋があった。日常生活を送るのに何の支障もないようなそこ。

「何なの,ここは・・・」
「なまえ,何やら文字が浮かび上がっているぞ。」

部屋の中を見渡していたところ,三日月に声を掛けられる。振り返って,彼が指さす先を見るとモニターに文字が現れていた。

「お互いの好きなところを1つ言わないと出られない・・・」

三日月は,参った。と言いながら照れくさそうに後ろ頭を掻いていた。パラパラと桜が舞っている。じじいをよそに,私はかなりの危機に直面していた。それは何かというと,@爛れた関係の彼との間で,“好き”というワードは一度も出たことがない。A私は,彼の好きなところなど1つも思いつかない。ということだ。一生,この部屋から出られないのではないだろうか。ん,待てよ?好きかどうかなんて内心のことをどうやって判断するのだろうか。適当に言えば出られたりして。

「やあ嬉しいな。なまえ,俺の心の準備は出来ておるぞ。さ,言うてみよ。」

気味が悪いほどにご機嫌な三日月に後ろから抱きすくめられる。第三者が納得するような答えを捻り出さねばならない。何かないかと,彼の腕の中にある我が身を捩って顔を見た。

「顔」
「あなや」

モニター画面には“否!”と出た。一体どういうことだろうか。私の心が読まれている?それもそのはず,私は三日月の顔が好きというわけではないのだ。恐ろしいほどに美しいとは思うが,それを上回るだけの無体を働かれているので全体としてマイナス評価である。

「はっはっは。なまえが,俺の顔目当てでないと知れて嬉しいな。」

そこ喜ぶところか?普段,天下五剣で最も美しいとか寒々しいことを自分で言ってるくせに。他には何かないかと必死に考える。なまえまだか?と大はしゃぎする三日月。申し訳ないが,全く出てこない。

「股引」
「冷え取り」
「茶」
「甘味」

ーーー全部“否!”本当に心が読まれているのかもしれない。やはり,ここから出られないのではないか。急に恐ろしくなってきた。全ては三日月のせいである。

「これが告白というやつだな?寺子屋の裏に呼び出して思いを告げるという,一騎打ちの戦。こうなると知っていたら戦闘服で来たのになあ。」
「全く違うから。マジで黙ってくれる?」

三日月が言っているのは,おそらく少女漫画に出てくる告白のことだろう。微妙に間違えている気がしないでもないが。

「・・・なまえは,経験済みか?」
「私から告白したことがあるかってこと?ないけど・・」

三日月は私の返事を聞いた途端,目を大きく見開いて両手で顔を覆った。気味が悪いことに,どうやら照れているらしい。

「・・そうか。うん,俺もだ。お互いに初陣ということだな,よし。」

至極どうでも良い。いや,あったらあったで驚くが。意を決したような表情をする三日月にひょいと抱え上げられ,そのままベッドに組み敷かれた。嫌な予感しかしない。

「まだ片手で足りる程しか契っていない俺達だ。なまえが俺のどこが好きなのかを良く知っておかないとな。では,俺が質問する。それに答えて貰おう。全て好きと答えてくれ。」

三日月の打ち除けが緩やかに歪められた次の瞬間,口付けが落ちてきた。軽く触れたり,下唇を唇ではむはむと挟まれたり。じっくりと感触を味わってから舌が入ってくる。毎回手口は強引であっでも,必ずキスは優しいのが三日月の特徴である。全く役に立たない豆知識だ。

「俺の口吸いは好きだろう?」
「っ,好き」

ーーー"否!”断定的な聞き方をしてくるあたり,自称天下五剣で最も美しい刀様は気位が違う。はっはっは,ざまあみろ!爛れた関係のお前とのキスを好きと思うほど,私は落ちぶれてなどいないのだ。

「よいぞよいぞ。なかなかに焦らしてくれるな。さて,今度はこちらを。」

三日月は何の断りもなく,装束の合わせを緩め肩から脱がしブラに手をかけた。スルッとホックを外されたそれ。いつの間にそんな技術をとギョッとして三日月を見た。

「・・・マジか。」
「ああ,まじだ。」

要らぬ所で向上心を発揮したじじいは,どうだと言わんばかりの顔をしていた。いわゆるドヤ顔である。ふにゃりと形を変えるように揉まれる胸。乳首をクリクリと摘まれてぷっくりと膨れたそれを口に含まれた。チロチロと舌の生暖かい刺激が襲ってくる。毎回手口は強引であっでも,必ず胸への愛撫も優しいのが三日月の特徴である。これまた全く役に立たない豆知識だ。

「俺に乳を弄られるのは好きだろう?」
「んっ,・・・好き」

"否!”おいおい,そこは"肯”でいいだろう!この先の展開を予想すると,ここで勘弁して頂きたい。目の前の三日月は,無表情で私を見下ろしている。歴史修正主義者との戦いではこんな顔をしてるのではなかろうか。パラパラ舞っていた桜が止んだ。じじいのご機嫌は急降下中のようだ。

「・・・おい。」
「いや,おいって言われましても・・・」
「あのなあ。これでも我慢しているのだぞ?ここから先は,湯浴みを済ませてからだ。」

出た,潔癖神経質刀。そういう事をする前には必ず風呂に入るのが三日月の特徴である。しつこいが,これも全く役に立たない豆知識だ。まあ、私もシャワーを浴びない限りしたくない質なのだがって,今はどうでもいい。三日月は,はあ。と溜め息をつくと,ぎゅっと私を抱き締めた。彼の内番服からは,私が調香している練香の匂いがする。 

「内番服にも,香を焚きしめてるの?」
「ん?ああ。俺はあの柔軟剤とやらは苦手でな。天下五剣のこの俺が,皆と同じ香りなど面白くなかろう。なまえが用意してくれた香が一番落ち着・・・」

三日月は突然会話を切り上げて,私の首元から顔を上げた。そして,ニヤリと笑って言う。

「俺の香りが好きだろう?」
「・・・・・・好き」

"肯!”全く自覚がなかったため,モニターの表示に唖然とした。三日月の台詞を借りれば,"あなや”である。私は彼の香りが好きだったのか?そんな馬鹿な。彼を見ると,再び桜を散らせてニコニコと笑っている。非常に気分のアップダウンが激しいじじいだ。

「いやあ,参った。何ともいじらしいな。自分が調香した香を身に纏う俺が好きとは。可愛いなあ。」
「いやいや,三日月じゃなくて香りが・・・」
「さて,これで本丸に戻れるぞ。」

全く人の話を聞いてない三日月は,私をベッドから降ろして赤いドアへと手を引いていく。ドアの前に立ったところで,彼が何も答えていないことに気がついた。

「ねえ。三日月,」
「大丈夫だ。しばし待っていてくれ。」

ひんやりと冷たい手が私の両耳を包み込んだ。そして,瞳の打ち除けをとろんと溶かした三日月の唇が動く。耳をすっぽりと覆われてしまったため,何も聞こえない。チラチラと桜が舞う。耳を手で覆われたまま口付けを交わす。聴覚を奪われた分だけ舌に神経が集まって,いつもより舌に乗る彼の感触が生々しい。最後に抱き締められ,彼の香りに包まれる。嗅ぎ馴れた香りはいつもより甘く香った気がした。

「出るぞ。」

モニターの表示を見ると"肯!”と出ている。三日月を見上げると,彼は首を軽く横に振った。聞くなということらしい。これは告白なのかと納得がいかなかったけれど,触れられた耳と舌が熱を持っていた。



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