*続花丸ネタあり・ややお下品


「おやおや。じょうしのめいれいに,はむかうおつもりですか?」
「随分と偉くなったものだね,新人君。」

執務中,"特別訓練を行う故,じゃーじに着替えて庭に集え。”という面倒臭い文が届いた。送り主は警部こと今剣だ。とりあえず着替えた。しかし,仕事が忙しいから勘弁してくれと言った途端にこれだ。

「警部。お言葉ですが,私が忙しいのには警部にも責任があるかと。万屋浄化作戦の度に茶屋に行ってますよね?膨大な数の領収書を私に回すの止めて下さい!三条警察の業務はプライベート。茶屋代は経費で落ちません!!」
「・・・はいはい,どうどう。」
「前にも言いましたが,それは馬です!」

痛い所を突かれたのか顔を顰める警部。そこへ,まあまあ。と先輩が割り込んできた。

「領収書の件はこれにて解決。さあ,特別訓練を始めよう。」
「先輩。お言葉ですが,私が忙しいのには先輩にも責任があるかと。浄化対象の三条刀相手に無理矢理お祓いをやって,初穂料をふんだくってますよね?余所の審神者からクレームは来るし,政府からは始末書を命じられるしで,寝不足で死にそうなんですけど。」
「・・・この,罰当たりめ!」
「それ,私に言います?」

2振に背を向け執務室に戻ろうとしたところ,はー。と態とらしい溜息をつく警部に呼び止められた。

「こんなこといいたくないですけどね〜。もとはといえば,あるじさまのせきにんですよ?」
「その通り。あんな三日月を鍛刀したのは新人君じゃないか!製造物責任。」
「・・・・」
「では,はっじまっりまーす。きょうかん,こちらへ!」


「じゃ,始めよっか」
「加州,何・・で,」

パカリパカリと赤いリボンでデコられた竹馬に乗った加州が現れた。まさか,私にこれをやれというのか。

「ちょっとー!警部に巡査部長!部下の教育がなってないんじゃない?」
「こら!さいきんのわかものは,けいごをしらないのですかね。あるじさま,けいさつはたてしゃかいなのですよ?」
「新人君!教官は,君に竹馬の乗り方を教えて下さる方だぞ?頭が高い!」

すっかり教官になりきっている加州に見下ろされる。一体どこから突っ込んだら良いのか。

「教官って呼んでね。新人君,竹馬に乗れるの?」
「そんなに高くないものでしたら。教官,何故私が竹馬なんかに・・・」
「え。竹馬を馬鹿にしてる?可愛くないとか思っちゃってる?可愛いくデコってるのに!?」
「こら!しつれいですよ!!さいきんのわかものは・・」
「君,見張りや尾行しか出来ないでしょ?竹馬に乗って,より早くより遠くを見渡せるようにならないと!窓際巡査のままでいいのかい?」

私って窓際巡査だったのか。地味にショック。猟奇的にダサい2振に馬鹿にされたままでいるわけにはいかない。私はジャージの上を脱いで竹馬を手に取った。

「あ!ある・・新人君っ!その丁しゃつ!!」

加州教官が突如,桜を散らせ始めた。私は自慢気にTシャツを引っ張る。

「懸賞プレゼントのTシャツが当たったんですよ!これは,忠犬先生から頂いた全先生のサイン入りです!そうそう,おかしな事がありましてね。当選しても1枚しか貰えないはずなのに,万屋から20枚も送られてきたんですよ〜。何でだろう?」
(万屋に圧力かけたとはいえ,20枚はやりすぎたな。ま,いっか!主,良く似合ってるからね!丁ばっくのらいんすとーん,可愛くデコれてるでしょ??)

加州とあるじについて語り合っていると,長谷部が凄い勢いで走ってきた。

「おいっ!貴様ら!主がお怪我をされたらどうするんだ!?」
「長谷部,良いところに来た!私の竹馬を支えてくれたまえ。」
「主!?お止め下さい,お怪・・がっ!!!!」

長谷部は私のTシャツを見た瞬間,顔を真っ赤にして桜を大量に降らせ始めた。漫画とはいえ,自分が下着姿の女を抱き締めている絵は恥ずかしかろう。純粋無垢な彼には少し刺激が強かったか。

「主。とても・・いえ,一番星よりもお美しいですよ。」
「ええ!?長谷部は大袈裟だなー!」

真っ赤な顔の長谷部に支えられて竹馬に乗る。顔に飛び交う桜が貼り付いて視界が遮られてしまった。

「あっ!!ごめん!!」
「っ!!!・・・・・」

バランスを崩して前につんのめってしまった。とっさに長谷部の頭を抱き込んだおかげで,何とか倒れずに済んだ。

「長谷部が主の乳で顔をぱふぱふしてるっ!こりゃ,動画撮らないと♪“らっきーすけべ”は売れ筋だよ!!長谷部,丁しゃつ越しの乳にもっと食らいつけ!!」
「こら!またがしゃきーん!となったら,すぐにはめる!さいきんのわかものは・・。しかも,ちんぷなくどきもんくですねえ。あれで,あるじさまのまたはぬれるのでしょうか?」
「彼,機動力はあるはずなんだけどな。あれで股を濡らすような感性では三日月に勝てないよ。彼の和歌は超一流だから。敵ながら天晴れだ。先日の歌会は完敗だったね。新人君には男を落とす訓練も必要だ。」
「かおをみせぬおとこに,おんなをとられたかなしきおとこのこいごころ。・・あれはなけましたねえ。」


「あっ,っ・・はあ,うっ!」
「ああ!主ぃ!もう濡れ濡れではありませんかっ・・」

加州による訓練は壮絶だった。竹馬での50メートルダッシュに始まり,反復横飛びやら電柱に隠れる練習やらを散々やらされた。ダラダラ流れる汗を長谷部が甲斐甲斐しく拭いてくれる。

「新人君,お疲れ様!随分上手くなっちゃって!やっぱり俺って愛されてる♪」
「さて,あるじさま。ここからがほんばんですよ?くんれんのせいかをかくにんします。」
「三日月が畑当番をしているから監視をするんだ。それが出来たら,次回からは万屋に行けるからね?」

先輩が双眼鏡を私の首に掛けた。何が悲しくてじじいの監視をしなければならないのか。しかも竹馬で万屋?冗談じゃない!そんな生き恥を晒す位なら死んだ方がマシだ。反論すると,警部に警笛を鳴らし威嚇された。権力と正義を振りかざして主人を威嚇するとは。警察を名乗って良いのだろうか。


「あいつはどこ・・・んん?」

パカリパカリ。竹馬に乗って三日月の居場所を探す。本丸の畑は途方もない広さだ。双眼鏡を使って辺りを見渡すと,畑を呑気に散歩するじじいを見つける。案の定,サボっていた。特別訓練の成果を発揮すべく,間合いを詰めすぎないように慎重に尾行する。

「あれっ!?いない・・」

薪を保管する木造の小屋を横切ると,目の前は植え込み。行き止まりだ。良く見ると,植え込みの下に小さな抜け穴がある。三日月は,ここを通ったのだろうか。竹馬を抱えて匍匐前進して穴を抜けた。抜けた先も広大な畑が広がっていたが,三日月はおろか誰もいない。ポケットからウェットティッシュを取り出し手を拭く。竹馬の乗って探すかーーー

「もう竹馬は良いだろう?どうせ乗るなら俺の上にしてくれ。うんと良くしてやる。」
「・・・っ!!!」

ぬっと後ろから伸びてきた三日月の腕に絡め取られた。そのまま抱え上げられ,芝生が生い茂る所に寝転がされる。覆い被さると,私の唇に吸い付いた。

「ちょっと,やめてよ!誰か来たらどうす・・」
「こんな所に誰も来るわけなかろう?邪魔者がいなくなってせいせいしたぞ。なあ・・ここでするか?」
「ばっかじゃないの!?あっち行けよ!絶対無理!!!」
「湯浴みがなあ・・」
「そこじゃねーよ!湯浴み以前の問題っ!!」

ジタバタと暴れて三日月を引き剥がそうとするが,寝不足に加えて特別訓練の疲労で力が出ない。彼は私を腕の中に閉じ込めると,目の下をするりと撫でた。

「少し寝たらどうだ?」
「警部と先輩のせいで仕事が溜まりすぎて。本丸に戻って先輩の始末書を書かないと・・」
「逢瀬の邪魔をしおって,毎度毎度忌々しい奴らだ。石切丸の件は俺が片付けてやるから,もう寝ろ。」

嗅ぎ馴れた香りに包まれて,リズム良く背中を叩かれる。瞼がじんわりと重くなり,意識がどろりと溶けていく。三日月の囁きが遠くの方で聞こえた気がした。

「褒美を貰わんとな。今宵は閨で可愛い声を聞かせてくれるか?」
「・・ん,ーーー・・・」
「敵味方に分かれた男女の逢瀬の約束。密やかに,されど激しく燃え上がる。女の乱れる髪。男が漏らす吐息。これは・・最高傑作の歌が出来るぞ。やぁ,後朝の文を書くのも楽しみだ。」

私は,意識を手放して夢の中へと旅立った。三日月に“褒美"をあげる約束をしてしまったことなど知らずにーーー

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