*連隊戦ネタ,「茶と大包平への道は1日にしてならず」の後につき,大包平がいます。


「超難の稀ドロップが大包平!?こんのすけ,知ってたの!?」
「まさか!ワタクシも存じ上げませんで・・・」

連隊戦の資料に書かれた大包平の名前。先日,鶯丸と探索して入手した刀だ。入手した直後に公式の"大包平クエスト”が開始されるとは。知らないはずないだろう。ジロリとこんのすけの顔を見ると,気まずそうに目を逸らされた。

「俺が何だと?」

内番を終えた大包平が,お茶とマフィンを持って部屋に入ってきた。今日のおやつにと一緒に作ったマフィンだ。プレーンの他,チョコや抹茶味もある。連隊戦に出陣した男士達にも持たせた。団子は飽きたらしい。

「今日から始まった連隊戦の超難をクリアすると,稀に大包平が入手できるんだって。」
「・・・お前は,安直な俺が欲しかったというわけか。」
「安直な・・俺?」

"安直な大包平”とは一体。平安じじい太刀は謎のワードを口にする傾向にあるが,彼も例外ではないようだ。本人は,マフィンを睨み付けたまま黙り込んでいる。特別に作った稲荷寿司味のマフィンに齧り付いていたこんのすけが口を開いた。

「稀どろっぷの事ですよ。鶯丸様と探索して入手したご自分ではなく,安直に入手出来る他の大包平で良かったのかと。平たく言うと,探索したことを後悔しているのかと大包平様はいじけていらっしゃ・・」
「っ,いじけてなどいない!」

オブラートに包むということを知らないこんのすけの容赦ない指摘。顔を真っ赤にして吠える大包平を見て,漸く"安直な大包平”の意味を理解した。しかし,審神者として承服することはできない。

「そんな事言ったら全本丸の審神者に折られるよ?大包平を手に入れるために,皆,破産上等で小判突っ込んでるわけ。私が探索許可を得るために,一体どれだけ徹夜で働き続けたか知ってる?」
「・・・・・」
「池田輝政が見出した刀剣の美の結晶は鍛刀不可。どこぞの三日月宗近みたいに,資材と富士札突っ込み続ければいつか入手出来る刀とは違うの!ヨッ!グレートカネヒラ!!」
「フッハッハハハ!」

大包平のご機嫌を取るためには三日月より勝っていると言うに限る。鍛刀出来ない点で三日月より入手困難なのは事実だ。ご機嫌取りが功を奏し,彼はプレーン味のマフィン片手に桜を散らせ始めた。

「ところでお前!一体その格好は何だ!?足が丸見えだぞ!祝言がまだとはいえ人妻だろう!?」

初夏の連隊戦の主役は蛍丸。彼が出陣する時はお揃いの短パンを履く決まりだ。蛍丸曰く,テンションが上がるらしい。それに便乗した愛染に,自分が出陣する時には愛染明王のTシャツを着てくれとせがまれた。そんなわけで,彼らが出陣している今日は,あのど派手なTシャツに短パンという出で立ちなのだ。

「人妻!?鶯丸とのことは誤解だって,何回言わせれば気が済むの!?」
「お前達は本気のまぐあいをしたのだろう!?あの胸当ては,本気のまぐあい用の防具だとあいつが言っていたぞ!」
「本気のま・・」
「あいつが毎日,どんな気持ちで握り飯を作っていると思ってるのだ!?さては・・あいつの体と握り飯が目当てだったのか!?」
「おい,大包平!いい加減黙れよ!!」

鶯丸に何を吹き込まれたのか知らないが,とんでもない事を口にした大包平。こんな事ならご機嫌など取らずにいじけたままにすべきだった。大包平探索後,鶯丸が毎日梅干し入りお握りを作って寄こす。理由を聞いても教えてくれない。凄まじく美味なお握り。無下に断るわけにもいかず,毎日昼ご飯として食べている。

「まあまあ。ところで審神者様。ワタクシ,連隊戦の説明に行った時に気になった事があったのですが・・・」
「あっ!そう言えば,交代なしチームが帰って来てない!」

どの男士も連隊戦への参加を希望したため,交代なしと交代ありの編成にわけて皆を参加させることにしたのだ。先陣を切って出て行ったはずの男士達がまだ帰って来ていない。

「皆様,ご一緒に帰還されるとの事です。そうではなくて,交代ありの部隊の夜戦についてなのですが・・・」
「夜戦?それがどうしたの?」
「三日月様を筆頭に平安太刀の皆様が夜戦に出陣されるそうです。」

私は耳を疑った。当然,夜目の利かない太刀に夜戦を命じた覚えはない。しかも,どんなメンバーが良いのか幾晩も徹夜でシミュレーションを重ねたのに。あの鉄クズじじいは,私の努力を無駄にしたということか。

「更に気になったのは,皆様が十倍籠をお持ちだった事。『普通の瓶や三倍籠は自分達に相応しくない』と仰っていて・・」
「じゅ・・十,倍・・籠・・・」

十倍籠。言わずもがな,蛍の獲得数が格段に増えるあの馬鹿高い籠だ。1出陣につき1個で足りるはずの籠を何故いくつも持ち歩いているのか。1日1個しか買えないはずなのに,連隊戦初日に何故いくつも持てるのか。購入資金は一体どこから捻出したのか。普段であれば,男士お世話係の加州が三日月達の悪行を監視している。しかし,肝心の加州は極修行で不在。その隙をつかれた悪行に,私は加州のありがたみを痛感した。

「金庫・・確認してくる・・・。博多,あとで蛍の獲得ノルマと消費小判の計算をやり直そう・・」
「まーかせときんしゃい!」

小判を消費する連隊戦に加州の極。我が本丸では,極になった男士と写真館で写真を撮り,ご褒美をプレゼントする決まりがある。金がかかるイベントが被った挙げ句,新イベントも始まる。長谷部や博多と必死に取り組んできた金策。これで金庫が空だったら私らは死ぬぞ。

「さて大包平様。本気のまぐわい用の胸当てとは,これいかに。」
「おい新入り!先輩にしっかり話を聞かせるばい。誰と誰が本気のまぐわいをしたと?」
「っく,何て力だ!これが極の剣・・・」


「れんたいせん,がんばりました!」
「お帰り。遅かっ,何で酔っ払ってるの!?一期に江雪!服は!?」

ぞろぞろと連れだって帰還した男士達。酔っ払って足が覚束ない者が多い。一期と江雪に至っては上半身裸である。皆,本丸の中には入らず庭へと向かって行った。

「あるじさま,えんかいですよ!けまりでかったあとのさけは,たまりません!」
「宴会?蹴鞠?」

千鳥足の警部こと今剣に手を引かれ庭に行くと,連隊戦に出陣していた男士達が庭の中央にある池に集まり,飲み始めていた。ちらりちらりと緑色の光が浮かんだ庭。数が少なすぎるそれを見た瞬間,嫌な予感がした。

「主君。申し訳ありません・・・不覚をとりました」

前田が今にも泣きそうな顔で話しかけてきた。中に何かが入った極の兜を大事そうに抱えている。嫌な予感しかしない。

「蛍が浮かぶ夜戦の場で蹴鞠大会と酒宴を開いたのです。そこで三日月さんが籠の蛍を全部放してしまって。」
「・・・・・・・・」
「あの池に浮かぶ蛍は,僕が外套の中に隠した瓶に入っていたものです。残りは兜の中に隠したこの瓶だけ・・・」
「・・・・・何匹?」
「全部で・・300匹程かと。」

いくつも十倍籠があった。小判も沢山突っ込んだ。それにもかかわらず,たったの300匹。前田が機転をきかせてくれなければゼロだっただろう。前田にはご褒美をあげることを約束し,丁重に労った。戦場で蹴鞠大会に酒宴。蹴鞠大会は,現世で行われているワールドカップに影響されてやったのだろう。一期と江雪は酔っ払って野球拳をやったに違いない。ちらちら光る蛍を見ながら金庫の中身に思いを馳せる。失神しそうだ。

「蛍が集まってくるよ」

指先にちょこんと蛍を乗せた蛍丸が話しかけてきた。前田といい蛍丸といい,荒んだ心を癒やしてくれるアロマの様な刀。お揃いの短パン同士,並んで芝生の上に座った。

「俺のためにやってくれたんだ。夜戦の場にいた蛍が俺に集まってきてさ。『仲間は共にいるのが一番だ』って,三日月が。」
「・・・・そっか。私も見たかったな。」
「明日から頑張るよ。いっぱい持って帰って来て見せてあげる。本気の俺は,すげえんだからね」

ぎゅっと私に抱きついてこちらを見上げる蛍丸のエメラルドグリーンの瞳。蛍の様にきらきらと輝いていた。


「これのために夜戦に出たの?」
「ああ。蛍が舞う景色が何とも幻想的でな。どうしてもお前に見せたかったのだ。」

差し出されたデジカメには沢山の画像が保存されていた。無数の蛍に包まれた蛍丸や酒を酌み交わす男士。ジャンケンをする一期と江雪や蹴鞠に勤しむ警部と三日月。あれ?じじいが映っている。

「夜目がきかないことをすっかり忘れていてな。手ぶれが酷いのを見るに見かねた前田が撮ってくれたのだ。はっはっは。」
「前田・・・!」

由緒正しき兜や外套に蛍が入った瓶を必死に隠した前田。カメラマンの真似事までさせられていたとは。さぞかし無念だっただろう。ただでさえ夜戦ではお荷物なくせに,ここまで足を引っ張っていたとは。呑気な三日月は,ただの虫籠と化した十倍籠を手に持つと私の寝室の小窓を開いた。そして,私も来るよう手招きをする。

「この二匹だけはずっと籠から出なくてなあ。でも,お前達もそろそろ外へ出る時間だ。」

十倍籠の窓を開くと,淡い緑色の光を震わせた二匹の蛍が,寄り添いながら外へと飛び出ていった。そして,同じ色の光の海へと消えていく。後ろから私を囲うように抱きすくめる三日月の唇が,耳から首筋を伝い肩へと触れた。

「虫とはいえ,閨に俺以外がいることはどうにもな。」

後ろから伸びた三日月の手が,私の夜着の帯に掛かる。するすると解けていく帯を見つめながら,私は口を開いた。

「・・・給料から天引きするからね,十倍籠の代金。」


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