*連隊戦ネタ・交代ボイス注意
「ここは夢か幻か。はぐー。ワタクシは桃源郷にいるのですね・・・」
「こんのすけ,どこもバリバリだよ?」
「任務の延期に端末のばぐ。関係各所に土下座行脚で過労死寸前ですよ。あっそこそこ!はぐー。ここにきて,中二病のへし切が・・・」
「やっぱり喧嘩してたの?早く帰って来てねって10回言わなきゃ出陣しないのに,今日は6回で出陣したから変だなと思ってたんだ。早く仲直りしなよ?」
イベント続きで疲労困憊のこんのすけ。少しでも癒やしになればとアロママッサージを施す。頭,首,腰,肉球。社畜の体はどこも凝り固まっていた。互いを同士と呼び合うこんのすけと長谷部だが,こんのすけが“へし切”と呼ぶ時は喧嘩している時なのだ。
「脳内で主と助平な新婚ごっこやってるんだよ。そういう拗らせた所が俺達をいらっとさせるわけ。あー俺も肩凝っちゃった。揉んで〜。」
「いつになったら中二病を卒業して真の男になるんだか。寝取られは売れ筋だとワタクシがあれほど!」
何だか良くわからないが,彼らの間で意見の相違があるようだ。加州の肩を揉むと,いてっ。と声をあげた。加州の肩もバリバリに硬い。男士お世話係として要らぬ苦労を掛けさせているからだろう。全ての元凶である現在出陣中の三日月宗近とかいう悪魔が脳裏を過ぎる。
「またしても安直な季節がやって来たな。」
時間は丁度おやつ時。燭台切お手製のドーナツを持って来た大包平が入室するなり口を開いた。どかりと座ると,洗練された所作でお茶を煎れ始める。さすがはグレートカネヒラ。だが,拗らせの登場にアンチ拗らせ達が舌打ちをした。タイミングが悪すぎるぞ。
「マジで全審神者を敵に回す事言うのやめてくれる!?なかなか発動しない乱の稀ドロップ狙いがどんなに大変か!」
「ふん。粘り強く出陣すれば入手出来るだろう?安直だな。」
「おいコラ。喧嘩売ってんのか!?前回の連隊戦で1振りも来なかった挙げ句,十倍籠の買いすぎで財政難になった審神者がここにいるんですけど〜!?」
「フッハッハハハ!刀剣の美の結晶は1振りで十分だ!」
何が可笑しいのか。大包平だけでなく,うちの男士は己を複数所持する事を許さない。入手した刀については,顕現させず連結などに回すという協定を結んでいる。この前のシールイベントは地獄だった。入手しにくい刀を交換しようと言ったところ,レア5勢はストライキだと蔵に閉じこもってしまった。長船派には,“今すぐ孕ませるから本気出すよ?”と異口同音に脅された。ドロップ変更後,格段に入手出来しづらくなった長谷部に至っては,切腹すると泣き出して大騒ぎ。そんなわけで我が本丸は習合が進まないのだ。笑い事ではない。
「拗らせというのは,どいつもこいつも自己分析出来ていないのですねえ。」
「おい管狐!何が言いたい!?」
「大包平様。あなたこそが安直という事ですよ。」
バチバチッ。睨み合う大包平とこんのすけの間に火花が散る。表情が全面に出る大包平と異なり,常に無表情のこんのすけだが実は気が短い。相当イラついているようだ。
「主と鶯丸がまぐわってる時に顕現したんじゃないの?気持ち良い事して入手出来るって,これ以上の安直はないでしょ。」
「俺はこいつが懸命に探索した末に顕現したのだぞ!?そこらの剣とは一線を画すのだ!確かに,再会した時には,まぐ・・一騎打ちの最中だったが。おいお前!はっきり言ってやれ!!」
「お前こそ,まぐあいの所をはっきり否定しろよ!!次にシールイベント来たら交換するぞ!?」
「何だと!?この刀剣の横綱を安直な貼り物で入手したら天罰を下すぞ!!」
大包平は,私がどら焼きの材料を買いに行ったついでに見つけたという事を知らない。私が女の身でありながら危険を顧みず一人で探索し,天下五剣を特別視しないと誓いを立て三顧の礼をもって顕現させたと勝手に思い込んでいるのだ。三日月に匹敵するご都合主義の思考回路。だが,後ろめたさから彼の思い込みを否定できずにいる。まぐあいの一点を除いて。審神者垂涎のイベントであるシールイベントを安直な貼り物呼ばわりしてきやがった。絶対に交換してやる。しかも天罰を下すとマウント取ってきたぞ,拗らせてるくせに。私は素早く足払いをし,仰向けにひっくり返った大包平の上に乗った。
「邪魔だ!何て女だっ・・!鶯丸に見られでも」
「殺生は好きじゃないが,好き嫌いは無しか」
頭上から声が落ちてきた次の瞬間,大包平の顔が青ざめる。今にも抜刀しそうな鶯丸だった。私が立ち上がってお帰り。と声を掛けると,大包平のお腹を踏みつけた彼に手を引かれた。
「俺とのまぐあいでは,どっちが上か教えてやろう。乱れた夜戦だ。出陣する!ついてこい!」
「それは俺のせり・・うぐっ!」
「この雄感ですよ〜天晴れ!!動画を撮ってへし切に・・」
「はいはーい。俺達,見学希望でーす!」
見学料ですと鶯丸に油揚げを渡すこんのすけに,のんびりするといいさと受け取る鶯丸。平然と行われるまぐあい見学のやり取り。付喪神に羞恥心はないのか!?加州が動画を撮影させろと交渉している隙に逃げようと執務室の襖を開けた。すると,勢い良く飛んできた物体が体にへばり付き,今度は私が仰向けにひっくり返る。下敷きになった大包平が呻き声を上げた。ざあまみろ!
「れんたいせん,がんばりました!ごほうびにだっこしてくださ〜い!あるじさまのちちにつつまれると,つかれがとれて,もうひとがんばりできるのです。」
「・・・・・警部」
日頃,トラブルしか起こさない警部。こんなにも健気で可愛らしい一面が!油揚げ一枚で公開まぐあいの刑に処されそうになっていた私の胸は激アツだ。心臓の鼓動を聞くと落ち着くと聞いたことがある。こんなもので疲れがとれるならいくらでも聞いてくれ!
「あるじさまのがーどは,ゆるゆるです。おとしだま,はんぱながくじゃゆるしませんよ?」
「・・・ああ。行くぞ!俺に続け!」
私から離れた警部は,後ろにいた長谷部とひそひそ言葉を交わし,パチンとハイタッチをした。長谷部は突然大声を出したが,彼の後ろに続く者は誰もいない。
「・・・主。俺にも褒美を下さい。」
「・・・・・へ?あ,どうぞ。」
私は膝立ちになって両手を広げた。ありがたき幸せ。と呟いた長谷部が私の胸に顔を埋める。すると,大量の桜がズドンと落ちてきた。御歳魂集めで疲れたことだろう。労う様に煤色の髪を撫でると,ふっと息を吐くの音が聞こえた。暫くすると,長谷部は三つ指を突いて頭を下げてから立ち上がる。
「俺だってやる時はやるさ。だがな,寝取られだけは折れても描かない。現実だろうが絵図だろうが,主に仇なす敵は斬る!寝取られるわけがない,わかったな?」
「ど,同士ぃぃ・・・」
「長谷部っ!立派な男になって,ぐすっ」
鶯丸に渡したはずの油揚げで滝のように流れる涙を拭くこんのすけと加州。彼らのやり取りについてはサッパリだが,どうやら仲直りの兆しが見えたようだ。
「よくわからないけど,もう今日はオフで良いから。灘の酒,一本持っていきな。」
「審神者様っ!!我が同士を真の男にして下さったこと伏して御礼申し上げます!ワタクシのぽけっとまねーで本日分から十倍升を進呈致しますので,のるまの心配はご無用!本日は全員出陣終了と皆様にお伝えして来ますね。」
見た者全てが振り上げた拳を必ず下ろすと名高いこんのすけの土下座。完璧な土下座を決めたこんのすけは,加州や鶯丸らを引き連れて颯爽と出て行った。これから毎日,十倍升が手に入るとは。棚からぼた餅である。
「ぱふぇを食いに行くぞ。兵糧丸は超一流の舌には合わなくてなあ。口直しが必要だ。」
こんのすけ達と入れ替わりで,我が本丸の悪魔こと三日月宗近が入ってきた。ずかずかと私室に入り込んで着物を見繕い始める。鬱陶しい男だが,この本丸では男士平等。私は襖を閉めて腕を広げた。
「ね・・・ほら。早く来て。」
「な,な,何だ?どういう風の吹き回しだ・・・」
「癒やされるんでしょ?だったらほら,早く。」
大きく目を見開いた三日月は,箪笥を漁る手を止めて固まった。ぷすぷすと小ぶりな桜が咲いては散ってを繰り返す。さっさとしろ。こちらはノルマの再計算をしなければならなのだ。
「癒やされる?・・まあ,すっきりはするが。だが湯浴みがまだだろう?」
「お風呂?そんなのいらないよ。さっさとしよう?」
「待て待て待て!頭脳明晰な俺でも理解が追いつかん・・・」
いちいち自画自賛を挟んでくる三日月は,額に手をやり何やら唸りだした。ぼすんぼすんと桜が大爆発を繰り返す。そして,うんうんと頷くと袖で口元を隠して流し目を寄こして来た。品と艶を含んだ仕草は人間には真似出来そうにない。
「名物中の名物である俺の心をここまで熱くさせるとは。お前の熱烈な誘い,全身全霊で受けて立つ所存。出掛けるぞ。すぐ脱ぐのだから着替えは不要だ。」
「脱ぐ?何言って,」
先の言葉を紡ぎ出すことは出来なかった。私の舌は三日月の舌に絡め取られ,用を成さなくなってしまったのだ。この蒼い男はいつだって,私の全てを奪い去って行く。反論する余地など残してくれやしない。
「ゆくぞ。俺についてこい」
目の前に浮かぶ二つの黄金の月。月に照らされた私には,こくんと頷く以外に何も残されていなかった。
08