Peeping Toms<前編>






「これは・・主宛てだぞ!急ぎ,返しに参ろう!」

この週,近侍を任された膝丸は,自室の文机で書類の整理をしていた。明日の執務を円滑に行うための下準備だ。すると,書類の中になまえ宛ての文が紛れていたのを見つける。夜も大分更けた時に彼女の自室へ赴くのは気が引けたが,送り主は政府。いつも夜遅くまで執務に励むなまえの不便になってはならないと届けることにした。
なまえの自室は,男士達の部屋がある建物と渡り廊下で繋がった別の建物にある。なまえは男士達の往来を自由にさせていた。とはいえ,彼女は女盛り。膝丸を含めた男士は皆,夜の訪問を極力控えていた。

(まだ執務をしているのか・・・。)

なまえの自室の障子からは,ぼんやりとした明かりが漏れている。彼女はまだ起きているようだ。膝丸は障子の前で正座すると,周囲に響かぬよう控えめに声を出した。

「君に文が届いていたぞ。」

何度か声を掛けるが,なまえの返事も無ければ物音もしない。しかし,明かりはついたまま。我らが惣領に何かあったのではと心配になった膝丸は,躊躇いがちに障子を開けた。障子を開けた先は広い執務室。そこに彼女はいない。不審に思った膝丸は,執務室と襖1枚で隔てた先にあるなまえの寝室へと歩みを進めた。襖は僅かに開いて明かりが漏れていたので,膝丸は襖の隙間から中を覗き込んだ。視線の先に広がる光景に息を飲む。

「!!!」

寝室の敷かれた布団の上になまえはいた。ショーツ1枚だけを身に着けただけで,つんと上向きの豊かな乳房を露わにした姿。どうやら風呂から出たばかりのようだ。髪はきちんと乾かされているが,晒された肌は赤く色づいている。丸い容器の蓋を開けると中身を指で掬い取って,手首から二の腕にかけて滑らせた。

(あ,主・・・)

女盛りのなまえが,湯上がりの肌の手入れをしている光景。女性が身なりを整えることは当然なのだろうが,何と艶かしく美しいことか。何事に対しても非常に禁欲的な膝丸にとって,この光景はあまりにも扇情的だった。なぜなら,彼はなまえに恋心を抱いていたからである。女手一つで本丸を切り盛りする彼女。惣領として頼もしくもあり,守ってやりたいとも思っていた。そんななまえに後ろめたさを感じながら,幾夜も頭の中で彼女の肌を暴いた。膝丸の頭の中で淫らに乱れる彼女の裸体が今,目の前にある。下腹部が急速に疼き出した。

(あれは・・・)

なまえが膝丸の存在に気付く気配はない。容器から掬い取った白いクリームを肌に滑らす度に,ふんわりと麝香が香ってくる。膝丸にとって覚えのある香り。この日,共に執務に励んでいたなまえと膝丸。彼が書類を差し出した際,彼の手が少し乾燥していたのをみとめたなまえが塗ってくれたものと同じだったのだ。麝香の香りであれば,男性が付けても大丈夫だと。手入をすれば元通りになる膝丸を人らしく扱ってくれる彼女の気持ちが嬉しかった。自分の手に塗られた麝香が今,彼女の裸体を包んでいく。

(・・・ッチ!)

ずきずきと疼く下腹部に目をやると,そこは夜着を大きく押し上げていた。なまえの裸体を見て自慰に耽るなど言語道断。本来なら見なかったことにして,この部屋から立ち去らなければならない。しかし,どうしても我慢できない。夜着の衽(おくみ)を広げて下着の中に手を入れ,いつもより硬く反り上がった怒張を上下に扱き始めた。たちまち,今までの自慰では味わったことのない快感が自身から頭へ稲妻の様に突き抜ける。なまえの首や胸に塗られていく白いクリームを見ていると,彼女を犯して自分の子種をその肌に撒き散らしているような錯覚に陥った。その錯覚は膝丸の欲望そのものだ。恋慕する主人の裸体を盗み見して欲望で汚す背徳感。荒れ狂う欲望と背徳感が手の動きを強めていった。

「・・・,!」

こちらに背を向けたなまえが,するするとショーツを脱いで片足に引っかけた。薄い背に細く括れた腰,そして円い尻。白いクリームをたっぷりと乗せた掌が尻の上を滑っていく。あの尻の奧にある秘められた所を見たい。そして己の雄を突き立てて啼かせたい。彼女の肉はどんな感触なのだろうか。どんな声で啼くのだろうか。なまえの体を食い入るように見つめながら必死に扱いていた膝丸は,とうとう下着の中へどくりと白濁を吐き出した。脈を打って生暖かい不快感が広がっていく。しばし唖然としたが,白濁がついた右手を見た途端,罪悪感に襲われ始めた。なまえが白いクリームを塗ってくれた手を今,己の白い欲望で汚してしまった。明日からどの面を下げて近侍を務めたら良いのか。すると突然,触れてもいない目の前の襖が無音で閉まった。

「気持ち良かったかい?」
「・・・あ,にっ」

髭切だった。口元に人差し指を付けてニンマリと笑っている。一体いつから見ていたのか。兄の存在に気付かないほど自慰に夢中になっていたとは。醜態を晒したことに膝丸の体から血の気が一気に引いていく。それに反比例して,罪悪感は更に膨れ上がった。

「あの子が欲しいよね?ほら,抱きに行こう。あの体を見てしまったらもう我慢出来ないでしょ?」
「兄,者・・!そんなっ,」
「お前は盗み見だけで満足かい?だったら,そこで指を咥えて見ているんだね。僕は抱くよ,あの子を。」

膝丸の欲望を引き摺り出す様に,髭切の大きな金色の光が禍々しく蠢く。欲しい,抱きたい,食い尽くしてしまいたい。なまえに向ける己の欲望に抗いようがなく,彼は沈黙を選んだ。髭切は膝丸からふと目を逸らすと,何の躊躇いもなく襖を勢いよく開ける。

「やあやあ我こそは,源氏の重宝,髭切なり!」

肌の手入れを終えたなまえは,片足に引っかけていたショーツを履こうとしていた。そろそろ執務を再開しようと思った矢先,聞こえるはずのない声が耳に入る。驚いて襖の方へ振り返った。

「・・っ,・・」

場違いすぎる髭切の名乗りに,なまえは目を見開いた。金縛りにあったかのように体がピクリとも動かないため肌は晒されたまま。唯一動く見開らかれた目が,驚きと恐怖と羞恥で揺れていた。

「麝香かい?この香りで惹きつけられた弟は,君の体を盗み見しながら夢中で自慰に耽ってね。僕に全く気付かなかったよ。」
「・・え,ひ・・・」
「うん。ここにいるのは僕と弟丸だよ。ほら,お前もきちんと名乗らないと。夜這いをしに来たんだから。」

冷や汗ではり付く前髪を優しく梳く髭切の手。美しい唇から夜這いという衝撃的な単語が紡がれた。驚いたなまえの口から発する音は意味を成さない。恐る恐る髭切がいる方向に目を動かすと,髭切の後ろに控えた膝丸がを見つけた。とんでもない秘密を暴露されてしまった彼は,羞恥で顔を真っ赤に染めている。

「・・主,・・・・・すまん」
「何だい,名乗ることも出来ないのかい?情けないな,ほら。その手に付いたものを主の口に含ませておやり。」
「な,・・に・・・」

髭切は,なまえの背に腕を回して彼女を起こすと背後から抱えた。今まで知らなかった髭切の逞しい体が,これから身に起こる危機への恐怖を駆り立てる。何故,どうして。恐怖も相まって,なまえは何の抵抗も出来ず固まったままだ。なまえと視線を合わさぬよう目を伏せる膝丸は,髭切の言葉に躊躇いを覚えたようで握り締めた右手を震わせている。だが,次第にゆっくりと右手が開いていき,人差し指が彼女の口に近付いた。ぬらぬらと光る指先がふくりと膨れた赤い唇に触れる。次の瞬間,彼らの目が合った。

「・・・主,」
「っ,!!」

目を伏せていた膝丸の瞳孔が,いつの間にか蛇の様に縦長になっていた。ゆらりゆらりと欲情の炎がちらついた,なまえが初めて見る彼の瞳だった。驚きのあまりなまえが口を開けると指が滑り込んできた。舌に塗り込めるように指が円を描く。舌に乗る青臭くて苦い味。刀の付喪神という異形の存在から放たれた人の味。それは紛れもなく,膝丸が放った残滴だった。

「これが今から君を抱く男の味。僕のものも後で味わせてあげるね。君は今夜,僕達のものになるんだよ?」


アンケートで需要が多かった「複数」「無理矢理」エロです。長くなりそうなのでここで区切ります。Peeping Tomとは覗き見という意味なのですが,兄弟で覗いていたのでPeeping Tom“s”としました。