よしなしごと

▽2020/05/11(Mon)
夕闇が辻
夕方の空気に身をゆだねるように、ふらりと散歩に出た。
あてもなくあぜ道を歩きながら考える。
初めて体をもらった日のこと。
誉を取った時のこと。
仲間たちとの再会。
たくさんの喜びを与えてくれたあの人と、これから先もずっと共に歩いていきたいと心の底から思う。
血と砂にまみれ、疲れきって帰ったとしても「おかえり」と笑顔で迎えてくれる彼女のすべてを守りたい。
燃えるような空を見上げれば、太陽が静かに沈んでいく姿が目に映る。
深い藍が立ちこめ、世界が闇に飲まれていく瞬間ふいに風がささやいた。

あの人のこと、忘れるの。

「ちがう、」
ちがうんだ。
俺はあなたを忘れたわけじゃない。
ほとばしる血の熱さを、不屈の魂を、この身を最後まで大切にしてくれたあの懐かしい人を、忘れることなんてできるはずがない。
だけど、許してくれるだろうか。
自分の影が夜の一部になっていくのを見つめながら、誰もいないはずの場所に向かって呟く。
「愛してくれてありがとう」


category:刀剣
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