よしなしごと

▽2020/05/18(Mon)
真夜中ふたり
白い息が澄んだ空気に漂う。濃紺の空にきらめく数多の星の光。
そのどれもが尊く儚い存在。
「君にもひとつ、僕にもひとつ」
ぽつりと呟いた夜天の言葉が耳に残る。
「君の星の優しい光が好きだよ」
「夜天には見えるの?」
「感じる。あたたかくて心地良い。ずっと触れていたい」
ふと触れた彼の手が冷たくて、
「冷えてるからそろそろ戻ろうか」
と提案すると彼は首を横に振った。
「もうちょっとだけ。・・・どうせ戻ったら邪魔されるの目に見えてるし」
「邪魔なんて言ったらかわいそうだよ」
「だってほんとのことだもん。ね、」
次の瞬間、
「!」
強く抱きしめられて戸惑っていると、彼の腕はなおもきつく私の体を包みこむ。
「夜天」
「今だけ。どうせ誰も見てないよ」
「そうだけど」
心臓の音、聞こえていたらどうしよう。
すると夜天は言った。
「ずっと一緒にいられたらいいのにね」
「・・・うん」
少しだけ丸くなっている夜天の背中に腕を回して頷いた。
ささやくような夜天の声が静かに言葉を紡ぐ。
「プリンセスだけが僕のすべてだった。あのふたりも大事。だけど」
君はもっと特別、という言葉が静かに響く。
「夜天」
「なに」
「ありがとう。嬉しい」
ん、と彼が小さく笑うのが聞こえた。
「ねえ。キスしたい」
エメラルドの瞳が覗きこんでそう問う。
「私も、したい」
冷えた唇がそっと触れた。長いような、短いような時間が流れていく。
「君を絶対に失くしたくない。分かってよ」
切なそうに細められるまなざしが愛しい。
きっと彼も私も、こんな気持ちを抱くことは初めてなのだ。
自分の気持ちが全部伝わっているかは分からない。
けれど、もしかしたら自分が思う以上に伝わっているかもしれない。
そうだったらいいのに。
「夜天が好き。大好き」
答えの代わりに落とされた二度目のキスは、さっきよりもずっと長く感じた。


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