よしなしごと

▽2020/05/30(Sat)
Re:Valeやりとり
芸能界での処世術を熟知している百。自分の幼馴染を百が好きなことを知った千は葛藤する。
「・・・あのさ、百」
「なあに千」
なまえのこと好きなの、と千は分かりきったことを尋ねた。
「あれ、知らなかった?結構アピールしてたつもりだったんだけどな」
「気づくよ、それくらい。でも百から直接聞きたい」
すると百は「好きだよ」とあっさり口にした。
「俺は名前ちゃんが好き。大好き。誰にも渡したくない・・・千にもね」
「・・・へえ」
「なまえちゃんのこと、絶対に傷つけないし守ってみせる」
絶対?と千はくり返した。
「絶対なんてそんなの無理に決まってるだろ」
「できるよ」
百の瞳が千を見つめる。
「・・・本気なのか」
「当たり前でしょ!?もしかして冗談だと思われてたわけ?心外だなあ」
千は己の心に問う。
大切なパートナーの百。彼になまえを任せることを自分は本当に納得できるのだろうか。
「(そんなの、いいわけないだろ)」
やっと見つけたあの子。
小さな女の子でしかなかったなまえ、彼女を傷つけてしまったことをずっと後悔していた。
再び会った時、大人になった彼女に惹かれていることに気づいたと同時に、二度と傷つけたくないという気持ちが主張した。
ファンに愛されるアイドルとなった自分の気持ちが重荷となるなら、打ち明けなくてもいい。
そう思っていたのに。
「ずるい」
「へ?ずるい?」
「そうだよ。百は・・・百は、彼女との間になんのわだかまりもないから。羨ましい」
「珍しいね、千がそんなふうに弱気なのって。それを言うなら、俺だって千となまえちゃんみたいな繋がりが羨ましいよ」
「繋がりなんて、そんなの」
「・・・なまえちゃんはさ、悔しいけど千のこと頼ってるよ。遠慮がないっていうか。俺はそっちのが羨ましいよ」
わだかまりなんて解消できるじゃんか、と百は言った。
「それに、きっとなまえちゃんはそんなのもう思ってないよ。千だけがずっと負い目を抱えてる。ちがう?」
「実際に負い目だからね。被害者が立ち直ったように見えても、それは上辺だけのことかもしれない。加害者が先に負い目を手放していいはずがないんだ」
「だから!負い目なんてそんなの、」
「謝って、それで?傷つけた僕はいいよな。謝っていいよって言ってもらえたらそれでおしまいなんだから。だけど彼女は本当はそうじゃないかも」
自嘲気味に笑う千を、百はじと、と睨む。
「あのさ」
「うん。なに?言いたいことは僕にも分かる」
「千は結局どうしたいの?別に俺はなまえちゃんのこと好きになるために許可とるつもりはないけど」
「悪いけどなまえは渡さない」
「・・・っ」
本気なわけ、と百は問う。
「すげーやなこと言うけど、千は前科あるじゃん」
「そうだね。だから?」
「だから、って・・・言ってることさっきと違わない?」
そうね、と千は答えた。
「でも、あの子を誰にも渡したくない。百にだって。なまえの笑顔を一番近くで見ていたいんだよ」
真剣なまなざしを向けてくる相手に、百は思わずため息をついた。
「はー・・・そんな綺麗な顔でイケメンな台詞言うの反則」
俺が女の子だったら落ちてた、と言う百に千は笑う。
「そう?百にそう言われると嬉しいな」
「もう!でもだめだかんね、俺も譲らない」


category:アイナナ
タグ: