よしなしごと

▽2020/09/02(Wed)
無題
夢 職場 当たり前のように仕事 納期に追われ 窓の外 こんな日に過ごしたら気持ちいいだろうなあ 同期 飲み会 今日は遅くなると出勤前に行った お土産買ってくるね 目覚め 泣く 日常を思い出す
箱学サイド


今年のレギュラーの顔ぶれはしっかり頭に入っている。
「なまえー黒田くん来てるよ」
友だちの声にぎくっとする。
「呼ぶ?」
「あ、大丈夫」
私が行くね、と答えて席を立つ。
ドアまでの短い距離の間、心臓がばくばくと激しく鳴った。
ちゃんと話せるだろうか、そもそも何を話すの?黒田くん私になんの用?
そもそも私と彼はほとんど面識がない。なのに付き合っている。
「あの」
「あ、黒田くん」
いや彼氏ってなんだっけ?

自転車競技部に迂闊にかかわるといじめられるのではないか。
始めはそんな考えを抱いてびくびくマネージャー生活を送っていたが、そんな考えは杞憂だった。
筆頭が東堂尽八だ。
他校の生徒からはパフォーマンスと顔面偏差値の高さで人気を誇っているが、同学年からはむしろ箱学名物の烙印を押されているらしい。
3年生の先輩(女子)曰く、
「あー東堂くん、顔はいいけどなんか中身がすごいよね」
「あれをガチでやっているとしたらちょっと彼氏は考えられない」
など散々な評価だった。
くわえて巻ちゃん巻ちゃんだ。だけど明るく性格がいいため好かれている。
鉄仮面と荒北に言われている福富寿一は、意外と分かりやすい気がした。
口数は多くはないけど、少なくとも喜怒哀楽は分かる。大口を開けて笑うことはないけど。
新開隼人、彼は相当モテるんじゃないかと思う。
なんてったって優しい。たとえ相手が私みたいな挙動不審な後輩であっても。
だけど直線鬼のイメージがすごいので、それで引いてしまう子もいるらしい。
いい人なのにな。いやあれはあれでなかなかやばいけど。あと、いつもなんか食べてる。
びっくりしたのは荒北だった。
思っていた以上に口が悪い。口を開けば前置詞にバァカが付く。
けれど何より驚いたのは、まわりが彼の罵倒にすっかり慣れっこだということだ。
そして目つきもすごい。だけど笑った顔はなんか可愛く見えるから不思議だ。
・・・そんな感じで観察をしていると1日が終わっていることが多い。

***

 
2限の文化史はナルサス先生の授業だ。
卒業したゼミの先輩から、「目の保養になるから絶対に履修したほうがいい」と勧められるがまま選択したクラスだった。
必須科目の半分の単位しかもらえない教養科目だから不人気なのかと思いきや、大半の席が埋まっている。
ほとんどの理由はきっと先輩と同じだと思う。
ナルサス先生は顔がいい。それに、意外にも授業は分かりやすいという。
中東文化史などというとっつきにくそうな分野にもかかわらず、彼の説明は明快らしい。
「(面白いかどうかは別としてね)」
ふわ、とあくびがこぼれる。
昼休みの後の授業は眠い。

気持ちよく晴れ渡った空に、箒にまたがった飛行隊が群を成して飛んでいる。
その背中が次第に小さくなっていくのを目を細めて見送った。
「私も飛べたらなあ・・・」
いつか誰かの背中につかまってゆっくり浮かんでみたい。
箒の柄はあんなに不安定なのに、まるで弾丸のように猛烈なスピードで駆け抜けていく子たちだっているのだから魔法って不思議だ。
私たちにとってのバイクみたいなものかとも思ったけど、それにしても安全基準が低すぎやしないか。
この世界にも法定速度とかがあるのかな、などと思いながら仕事先へと向かった。
「おはようございます、サムさん」
「おはよう、レディ」
今日も可愛いね、とサムさんはさらりと褒めてくれる。
「ありがとうございます」
「まだ言われ慣れてないって顔してるね」
「はい・・・あまり」
「そういう反応も新鮮で可愛いねえ」
サムさんは「今日はこれね」と積まれている木箱を指した。
「中身はお菓子なんだけど、いい感じにディスプレイしてくれない?こういう販促ってアイデアが出るまで意外と時間がかかっちゃうんだよねえ」
「はい」
魔法を使えばきっと一瞬で終わってしまう


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