よしなしごと

▽2020/09/30(Wed)
無題
役者を続けている理由は惰性かもしれない。
子役と呼ばれなくなった頃から、この世界から離れる機会はいくらでもあった。けれど、こうしてだらだらと事務所のお世話になっている。
華やかさの裏に何があるかを知ったうえで離れられないのは、きっと私がこの場所しか知らないからなんだと思う。
「・・・やだな」
ぽつりと呟いた声を大和くんが拾った。
「なんですか?」
「あ、ごめんね集中してたのに」
「別にいいですよ、俺はもうほとんど撮り終わったんで」
「いいなあ」
いいなあって、と彼は苦笑する。
「なまえさん、これから見せ場のシーンじゃないですか。気合入るでしょ」
「入んないよ」
入るわけない、惰性なのに。
「・・・なんかあったんですか?て、別に俺が聞くことじゃないかもですけど」
大和くんとの付き合いは10年になる。彼の父親に呼ばれて自宅を訪れたのがきっかけだった。
大人たちに囲まれる中、年齢がそう変わらない私たちは自然と会話をするようになった。
彼の中に負の感情があることをなんとなく知ってはいたけれど、深く知ろうとは思わなかった。
どうせいつか他人になるのだし、別に今だって友だちじゃないし、なんてはすっぱな考えでいたあの頃の自分を思い出すと情けなくなる。たはーって感じだ。
「あの時は友だちじゃないなんて思っててごめんね」
「ひっで。てかいつの話だよ」
大和くんの口調が元に戻る。
彼がこの世界に入ったため、必然的に私たちの間には上下関係が生まれた。だけどたまに、今みたいに話をする時がある。まるで昔に戻ったみたいに。
「大和くんだって私のこと、友だちとは思ってなかったでしょ?」
「まあ、ガキの頃って女の子の友だちって感覚あんまないしな」
「そっか。そうかもね」
話戻すけど、と彼は言った。
「マジでなんか悩んでる?」
「悩み・・・っていうか、辞め時をなくしたなって思っただけ」
「あー、そういう・・・」
すると彼は「辞めてみたら?」と口にする。
「いや、いやいや・・・だって、ねえ?」
しがらみとかさ、恩義とかさ、と私は答える。
「なんかあるじゃんそういうの」
「##NAME1##さんでもそういうの考えるんだ」
「考えるでしょ、普通」
「いや、なんていうかさすが星影だなって感じがして」
言われてみればそうかもしれない。
「いいんじゃない、別に。今からそういうのに縛られなくたって」
「簡単に言ってくれるなあ」
「戻ってきたいなら別だけど。俺にはさっきの言い訳に聞こえた」
私が黙ったのを見て、
「すいません、言い過ぎた」
と大和くんは謝る。
「ううん、違う。そのとおりだなあって思っただけ」
まだ若いんだからさ」
うならに役に入り込むのってきつくない?と尋ねれば、大和くんは「あーまあ」と苦笑いを浮かべる。
「なまえさん憑依型って言われてますもんね」
「自分じゃそうは思わないんだけど、重い役だとちょっとね」
「じゃあ俺のとこに回ってくるようなのはしんどいですね」
「あそこまで現実とかけ離れてたらかえって楽かな。もうちょっとリアルな感じ」
観ているとナーバスになるような作品のオーディションや出演依頼が多い。
だけどそうやって声をかけてもらえるのは、お世話になっている事務所のおかげだ。そうして積み上げてきた実績を評価されてオファーをして頂けているのだからありがたい。
でも、時々逃げ出したくなる。
誰も私を知らない場所で生きるってどんな気持ちなんだろう。


取り込んだタオルをぽいぽい放り込んだカゴを抱えて歩いていると、
「あの、」
と遠慮がちな声が聞こえた。
振り返ると、銅橋くんが立っていた。身長差があるので自然と見下ろされることになる。気にしているのか、彼は心なしか猫背だ。「オレ持つんで」 いいの?ありがとう ッス 優しいなあ、助かる いつもありがとね や、べつに 後輩なんで 真面目でまっすぐ  今日、タイム良かったよね ! はい やったじゃん うす すごいなあ 来年もいられたらなあ いなくなってほしくないっす 同じ学年だったらねえ 来年もインハイ、ぜってー出るんで 見に来てもらえないですか 行くよ。絶対行く 私、銅橋くんが走ってるとこ見るの好きなんだ !なんで、 勢いがあっていい なんかすごいんだよ ゴールまで一直線でぜってー俺が1番になるって熱意がすごい伝わってきて 見ててうおおってなる はあ 変なこと言ったかな いや、全然…!普通に嬉しいす あの ん?ふたり ずっと好きでした…! えっ あ、だから付き合えとか全然そんなんじゃないんで!や、なんつーかホント、その、 しどろもどろ 自分かなんで言ったのかついていけない顔だ 私も、好きだと思う っえ 私はちゃんと付き合いたい、かな いんスか、俺なんかで なんかって言うな でも 俺は何度も問題起こして、 知ってるよ、全部。不屈の精神 いんスかマジで うん よろしくお願いします 真っ赤 うん、…よろしくね タオルを受け取る時に指先が触れる ! 静電気の時みたいな反応 崩れるタオルたち あーあ… スンマセンッ あわてて拾う 私もしゃがむ 銅橋くん ッ、 ありがとう …ッス

親に入部の許可 勉強がんばる 寝る時間あるんだろうか・・・ 入部届 マネの仕事ってなに?今は部員がやっているので、直接聞いたほうが早い 部誌を書くだけでもきっとみんな30分は早く上がれるでショウ みょうじいるかァ よォ 部活、一緒に行こうぜ さみぃなあ  

リップクリーム
こいつちょっとワガママなんだよ(うさ吉
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