よしなしごと

▽2020/10/24(Sat)
無題
ノックをすると「はーい」と返ってきたのでドアを開けた。
「ん?」
甘くてふんわりした香りが漂う部屋の真ん中、悠人から凝ったヘアアレンジをされるがままの。
「なに隼人くん」
「いや、ミステリー読み終わったからに貸そうと思ってさ」
読みたい、とが振り向こうとした瞬間「だめ!」と檄が飛ぶ。
「今オレが編んでるんだからじっとしてて」
「えー・・・はい」
「すげえな悠人、こんなことできるんだ」
普段とは違う凝った髪型にされたに本を手渡しながらまじまじと眺める。
「オレこういうのけっこう得意だから」
「へえ、学校でも女子にやってあげてたりするのか?」
「いや?頼まれればまあ・・・でもオレはちゃんの専属だからやっぱなしで」
「悠人、ちょっと頭痛い」
「うそごめん、ちょっと引っ張りすぎたかも。緩めるから・・・じっとしてて」
そうささやいて繊細な手つきで髪に触れる悠人と、なすがままになっている。

「・・・てことがあってさ」
「そーかヨ」
「で結局、なにが言いたいのだ?」
「いやあ、なんだか妹が2人いるみたいだなって思っただけだよ」
どーなってンだよオメーの弟、と靖友は言った。
「オレにはよく分かんねえけど、少女願望がどうとか言ってたぜ」
「そういえばフクはどちらも知っているんだよな?隼人に似ているのか?」
尽八の問いに寿一は「似ている」と答えた。
「ふむ、隼人と同じ顔が3人・・・」
「いや、オレと悠人はまあまあ似てるけど、はそうでもないぜ?女の子だからな」
「オメーの顔した女いたらヤなんだけどォ」
「そうですか?ボクは美人だと思いますけど・・・」
「そりゃひいき目だろ泉田ァ」
尽八は「一理あるな」とうなずく。
「ところで写真は持っていないのか?見てみたいぞ」
あるぜ、とオレは携帯を取り出した。
「オレはそっくりすぎて鏡かと思ったら姉だったことがあるぞ」
「ンだそれ最悪じゃねェか」
「そう言う荒北こそ妹がいるだろ」
「あーうちも似てるって言われンな、口悪ィとことか特に」
「なんだそれは、最悪ではないか!」
「まあまあお二人とも・・・」
「あった。これだよ」
どれ、とみんなは覗き込んだ。
「おーっ、美人ではないか!」
「だろ?やっぱそうだよな」
「つか弟オメーに似すぎじゃね?」
あっつ ボトルをあおる スポドリを嚥下する喉仏 
羽根の名残りの君の骨 インハイの後 引き継ぎ 部室に忘れ物
あれ 真波「どうしたんですかー」 なんか、変な感じ 東堂さんも福富さんも、新開さんも荒北さんももう来ない 先輩も そうだね 受験、忙しいですか?それなりに 推薦で決まればラクなんだけどねー 推薦、と彼は呟いた もうすぐシーズン終わるね 走れなくなっちゃいます、つまんないなあ オレ、室内練好きじゃないのに 来年につながると思えば でも、来年は先輩たちいないし 拗ねたような口調 お願いあって お願い?ボトル作ってくれませんか 先輩のドリンク、好きだったから 私が作るのを彼は黙って見ていた たまに味薄かったり、濃いめの時もあって え、ごめんね ありがとうございます 他のみんなは?走ってます オレ、ちょっとだけ不調で うまく走れなくて 真波の走りが好きだよ ほんとはずっと見ていたかった もうすぐ追い出しだね 私も見に行くから 本当にこれが最後 夏の思い出を置いて、目標を引き継いでいく 2年後の彼らも同じ オレ、走りに行きます 先輩 ん?ありがとうございました 追い出しまでは部員だから そっか 薄いサイクルジャージ 成長期の体を包む かすかに浮き上がった背中のおうとつ 期待 プレッシャー 頑張れ 頑張れ真波 絶対にできる くちにはださずにこぶしを堅く握った
「そういえば今日のお昼は自転車部が食堂にいたよ」
帰り支度をしながら友だちが言った。「そうなんだ」「いやー眼福って感じだったわ。なんかあそこきらきらしてたもん」分かる分かる、と心の中で深くうなずく。「特にあんたの彼氏と新開くんが一緒にいるだけで注目の的っていうかさあ」ホントに東堂くんの顔はめちゃくちゃきれいだよね、と彼女は語る。「性格はたまにすごいけどね」「あーうん、分かる。東堂くんはあの美形あってこそ成り立つキャラだよ」キャラだと言われているぞ、尽八くん。「人気があるのに彼女一筋ってのがまた拍車をかけてるらしいよ」「そうなの?」愛されてる自覚がないとは言わせないぞー、とこづかれる。「まあ、いや、うん」「毎晩電話とかしてるの?」答えはイエスだ。あんまりトークが途切れないのでよく話題があるなーと感心する。「なに話すの?」「部活のこととか、自転車とか、あと巻島くんのことかなあ」「巻島くんって、東堂くんのライバルなんだっけ?」そうそう、と答える。ちなみに彼女は尽八くんが彼に電話をかけまくっていることを知らない。いつもすまんね、巻ちゃんよ・・。その時「おーい##NAME2##、呼ばれてるぞ」と声がかかった。「ウワサをすればじゃん」じゃーね、と言い残して彼女は帰っていった。「ごめん、誰かな?」2組の、と声をかけてくれた子は答える。「2組?」「ごめん、俺」入口の向こうに立っていたのはバスケ部の男子だ。「あのさ、ちょっと用があって」「用事?」なんだろう。特に話すような人でもないんだけどな・・・。「部活ある?」うん、と答えれば彼はふたたび歯切れ悪く「あのさ」と口にした。「部活終わったら裏門に来てくれないかな」「え、」言いたいことあって、と彼ははにかむ。え、いやまさか、え?「俺も部活終わってからだから、18時半くらい。無理かな、」「あ、うん。大丈夫・・・」よかった、と彼ははにかんだように笑う。「じゃあまたあとで」心臓がばくばく言っている。これはどう考えても、告白というやつが待っているのでは?いやでも私と尽八くんが付き合っていることはわりと知られている。あっそうか、私の友だちの誰かを好きなんだな?それで仲を取り持ってほしいとかなんかそういう感じだよねきっと、なんてことを考えながらのろのろと荷物をまとめる。分かってる、自意識過剰、そう言い聞かせても頭の中でさっきのやりとりがくり返し流れていた。***無心になってボトルの準備をしていると突然、「よっ元気?」「ひっ・・・!」膝裏をかくっとされてノドから心臓が飛び出るかと思った。「あ、新開くんか・・・」「なんか驚かせちまったみたいだな、ごめん」おめさん今日はやけに静かだからさ、と新開くんは言った。「なんかあった?」「いや・・・」するどい。だけどカンの良さが今はありがたい気がした。「あの、誰にも言わないでくれる?」「ん?いいけど」まわりを確認した彼は「どうした?」と尋ねる。私はさっきあったことをぽそりぽそりと報告した。「私の友だちの連絡先が知りたいとかじゃないかなーと思って」「いや、それはどうかな・・・ていうか##NAME2##も気づいてるんだろ」「でも、自意識過剰かもしれないし」「いやいや、多分あってるから。・・・断るんだよな?」「もちろん。もしそうだとしたらね」「よかった。うーん、だけど尽八には内緒にしといていいのか?」「勘違いだったら相手に悪いから、そうだったら事後報告みたいな感じにしようかな、と・・・」



category:未分類
タグ: