ときめき☆ミッドナイト



きらめく夜の窓辺。
淡いピンクのネグリジェをまとった少女の手は、可愛らしいマグカップに添えられている。
シトロンの紅茶、パステルのマカロン、思い思いのパジャマを着た少年たち。
おとぎ話のようなスイートルームの中で交わされている会話に、星たちもそっと耳を傾けている。
「なあ紫龍、その丸いやつなに?」
「龍髭糖といって、龍の髭を模した飴だ」
へー、と興味深げに身を乗り出した彼は、
「なんでできてんの?」
と尋ねる。
「外側は蜂蜜ともち米、中身はピーナッツが入っている。食べてみるといい」
差し出されたそれを、星矢はためらいなく口に放り込む。
「!うまっ」
「今夜パジャマパーティーをすると言ったら老師がわざわざ取り寄せてくださったんだ。アテナもどうぞ」
「ありがとう紫龍。繭みたい、とても可愛らしいわ」
大切そうに受け取った沙織はそっと光にかざす。
「熱で溶けちまわないか?早く食べた方がいいと思うけど」
「そうね、いただきます」
上品に口元に運ぶ姿は、まるで本物のお姫様みたいだ。
「(それどころか、女神様なんだよね・・・)」
クッションを抱いてぼんやりしているなまえに、瞬は身を寄せてささやく。
「見過ぎだよ、なまえさん」
「え?そうかな・・・あんまり綺麗で可愛くてつい」
あら、と沙織は微笑むと、
「でも、お姉さまだってとっても可愛らしいわ」
となまえの胸元に指を伸ばした。
「あ・・・」
「ボタンが外れかけていてよ。ふふ、いけないわ。男の子の目があるんですもの」
私たちふたりきりなら別ですけれど、そう言って口元に笑みを浮かべながら、沙織はゆっくりとボタンを留める。
なんとなく、見てはいけないものを見ているような気がして星矢たちは思わず目をそらした。
「はい、できたわ」
「あ、りがとう・・・」
心なしか、なまえの頬は赤く染まっている。
沙織よりも年上であるはずなのに、初々しい反応だった。
「・・・ていうか、なまえさん聖域にいてほんとに大丈夫か?」
星矢が心配するのも無理はない。
こんな彼女を前にして、黄金たちは理性を保てるのだろうか。
うんうん、と紫龍も氷河も頷いている。
「させませんよ、星矢」
きっぱりと沙織は宣言した。
「私の目の黒いうちは、なまえお姉さまを不埒な輩の手に落とすなどありえません。絶対に」
「黄金聖闘士を不埒な輩って決めつけちゃったよ、沙織さん・・・」
じゃあ、と瞬は言った。
「誰だったら、なまえさんにぴったりの相手だと思う?」
「瞬くん、」
あわてる彼女に対し瞬は「いいじゃない!」と笑う。
「もしもの話。だから安心して、無理やりくっつけようだなんて思っていないから」
それを聞いてほっとしたのか、なまえは頷いた。
「俺は絶対アイオロス!男らしいし頼りがいがあるし。どうかななまえさん」
「いや待て。なまえさん、それなら我が師カミュが一番だ」
絶対零度のクールで冷静な性格と、情熱的な部分をあわせ持つ懐の広い男だ。
シベリアで生き抜く実力もあるし、それにボルシチが美味い。
突然始まったプレゼンに、星矢も開いた口が塞がらないでいる。
「どうだろうか、なまえさん」
「え、うーん・・・どうかな・・・」
カミュのほうで遠慮されちゃうかもしれないし、とやんわりかわそうとするも、氷河は「そんなことはない」と言い切る。
「まあまあ。紫龍は?」
瞬が尋ねると、彼は真面目な顔をして答えた。
「・・・迷っている」
海のように深い愛情と、山のように高い志を持ち、大地のごとくすべてを受け止めることができる器の大きい老師。
冷静沈着でありながら、すべてを投げうつ覚悟を持つ情熱的で男らしいシュラ。
「選べない・・・俺には、とても・・・!」
「あ、うん、まあ無理にとは言わないけど・・・」
苦笑した瞬は、「兄さんはどうかな、なまえさん」と尋ねる。
「え?それって・・・一輝くんのこと?」
「そうだよ。兄さん、男らしいじゃない?だけどピンチの時には必ず助けに来てくれるし、すこしぶっきらぼうだけど情の熱い優しい人だよ」
年下よ、と沙織はおっとりと口を挟んだ。
「お姉さまは年下でも良いの?」
「年下・・・なくはないとは思うけど」
あらためて考えてみると、誰が自分のタイプに当てはまるのだろう。
「あんまり考えたこともなかったかも」
「きっといつか、素敵な人とめぐり合うわ」
沙織の言葉に少年たちも頷く。
「結婚式には呼んでくれよな、なまえさん!」
気が早すぎるよ、と笑っているなまえの隣で沙織は、
「世界で一番素敵な花嫁になるわね。だけどとにかく、私の兄弟たちにだけは絶対にあげないけれど」
と言って笑った。


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