カノンの恋



一目見た瞬間、電流が駆け抜ける。
振り返って相手の背中が小さくなるのを呆然と眺めながらカノンは思わず、
「なんてマブいんだ・・・」
と呟いた。

***

地を這うようなため息が聞こえる。
サガは「いいかげんにしないか」とカノンに言った。
「さっきから何度もうっとおしい。財布でも落としたのか」
「うるさい。そんなどうしようもないことではないわ」
遠くを見つめ再び「はあー・・・」と息を吐いたカノンは、
「可愛かった」
と呟く。
「は?」
「この世のものとは思えんほどマブい女に会った」
まさか、とサガは目を見開く。
「一目惚れでもしたと言うんじゃないだろうな?」
「一目惚れ?ああ、そうかもしれん」
「お前が?まさか人の心を持っているとは思わなかった」
「おい、どういう意味だ」
貴様に言われたくない、と彼は立ち上がる。
「邪悪な人格を生み出した男がよう言うわ」
「だがお前はデスマスク同様、女性をただの女としか見ないではないか」
ぐっ・・・とカノンは言葉に詰まる。
「そんな冷え切った男にとても温かな家庭が築けるとは、」
「うるさい!俺と彼女がけ、け、結婚などまだそのようなことは!」
うろたえる相手にサガは「これは重症だ」と考える。
その時、
「!いた・・・」
「なに?」
彼女だ、とカノンは窓に張り付く。
「どれ・・・ああ」
「知ってるのか!?」
「先日からこちらに来た、アフロディーテの従姉妹だそうだ」
イトコ、とカノンはくり返す。
「そうか、どうりで・・・」
「似てはいるが、アフロディーテほど高飛車で華やかな印象ではないな」
「その奥ゆかしさが良いんではないか!・・・決めた」
そう言って出て行こうとするのをサガはあわてて引き止める。
「なにをする、離せ!」
「貴様正気か!?あの!アフロディーテの身内だぞ!」
「それがどうした!」
「逆鱗に触れてもいいのか!?」
「フッ、かまわん・・・愛とは障害が大きいほど燃え上がるものよ」
本人のいない所で障害と言われたアフロディーテは思わずくしゃみをした。
「大丈夫?」
「ああ。誰かが噂してるらしいな」
燃え上がる愛が一方的なものであることにカノンはまだ気がついていない。


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