宇宙人襲来




宇宙人襲来。
近頃、世間をおおいに賑わせているニュースだ。
せっかく初めてこの国へ旅行に来たというのに、テレビは同じ内容ばかりで面白くない。
「彼らは私たちの生活を脅かす存在です。断固とした対応をとらなければいけません。このままでは、地球がのっとられてしまいます」
「具体的にはどのような方法を?」
司会者が尋ねる。
「おそらく高度な知的生命体でしょう。しかし目に見えない。だからこそ怖いんです。私たちが危害を加えるつもりがないことを、なんとかして伝えなければなりません」
どうやら、彼らは姿が見えないらしい。それに会話もできない。けれど、触れることはできる。波長がうんたら、反射がなんたらと解説されているものの、難しい言葉は分からない。
しかし彼らはなぜ、自分たちも地球に住んでいる宇宙人なのだとは考えないんだろう。ここへ来てからずっと不思議に感じている。
考えてみてほしい。
真夜中、ふとトイレに行きたくなってベッドを出る。次の瞬間、誰もいない暗闇でふいに誰かと体がぶつかる。オット、スミマセン。
携帯でメールチェックしながら歩いていると、突然ぽんと肩を叩かれる。振り返る、誰もいない。アブナイデスヨ、キヲツケテ。
美味しいシチューに舌つづみをうちながら会話をしている家族。テストどうだった?まあまあかな、ねえママあれ取って。お、今日の肉は柔らかいな。圧力鍋で煮込んでみたのよ、いいでしょう?オイシイデス、タイヘンケッコウ。開いている鍋のフタ、減っているシチュー。
まるでルーのように、日常へ溶け出した非日常。ちょっと面白いではないか。
「私たちの築いてきた平和が脅かされようとしています。体を乗っ取られるおそれもある、いや、すでに遅いかもしれない。いずれにせよ政府は早急に対応すべきだ!」
突飛な発想に思わず笑ってしまう。そんなことするわけがない。
私たちはただのツアー旅行者で、できるだけ友好的に振舞おうとしているのだ。もちろん、たまに失敗はする。
平和が脅かされていると感じるのは、人間同士がいつまでもケンカをしているからだ。
同じ言葉ばかりくり返されるのがいいかげん煩わしくなって、私は無人の部屋のテレビを消した。


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