うだるような夏のある日
じじじじ、と外から蝉が鳴いている声が聞こえる。梅雨が終わったと思ったらあっという間に夏が来てしまった。青い空がどこまでも続いていて、太陽の日差しが容赦なく降り注いでくる。
ここは涼しくて良いなあとアスファルトから立ち上る陽炎をぼんやり見ていると、周りが騒がしくなったので教室へと視線を戻した。
「じゃあ、決めるからねー!」
壇上に上がった学級委員である彼女が声を掛けるとそこら中から同意の声が上がった。
高校最後の文化祭。何をするのかを夏休み前に決めてしまうのだ。三年生はどのクラスも劇をやっているのがこの高校の伝統になっているので、おそらく劇になるのだろう。
劇の人、という声に沢山の手があがる。それは私もなのだけれど。
「では、劇に決定です! 次は何をするかを決めよう、何か案のある人ー!」
じゃあね、と部活に行く友達と別れて下足箱へと向かう。最後の大会が迫っているのだという友達は、最後に悔いが残らないように頑張るんだ!と息巻いている。その姿を見ていて、正直羨ましかった。
「部活か…私は、この高校で何も、青春っぽいことしてないな」
私は部活にも入らず塾に行くだけの生活だ。中学生の時に部活が大変だったから、高校ではもうやらないと心に誓った。にも関わらずこうして羨ましいと思っているので、どうしようもない。
下足箱まで辿りついて、自分のロッカーを開けた。
その時に廊下を歩いていく人物を見て思わず声が漏れてしまった。
「……あ」
思ったよりも自分の声が大きく出てしまって慌てて口を噤んだ。
その人物は声に気付かなかっただけなのか、それとも無視しただけなのか私の横を通り過ぎて遠ざかっていく。
「小泉八雲、くんだ」
日本では目立つ銀の髪に、片目はいつも医療用の眼帯をつけている彼は同じクラスにいる、男子だ。学校に来ること自体あまりなくて、来たとしても別室登校をしているのかクラスに顔を出さない。単位はなんとかやりくりしているらしく、学年は上がってきている。外国の血が入っているらしく、普通に話すことも出来るけど少し話し方が変わっている。
いくつかは噂で流れてきたことだ。あまりにも端正な容姿と誰も知らない小泉くんの性格に、こうして度々噂が流れてくる。時には学校に来ないのは親がいないからだ、とか実は不良なのだとか失礼なものも沢山。私は噂を聞くだけで小泉くんの人となりを知らないので、その噂は真に受けていけない。
「こんな時間から学校…? もしかして呼び出されたのかな」
そういえば文化祭、彼も参加するのだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えながら靴を履き替えて、学校を後にした。