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 家になかった食材をスーパーで買い足して、ストレス発散のための献立を考える。
 24時間のスーパーが近所にあるのはありがたいなぁとマンションのエントランスに入ると、驚きの光景が飛び込んできて自分の目を疑った。

「えっ、……トラファルガーさん?」

 エントランスにある石の椅子にトラファルガーさんが項垂れて座っていたのだ。大きな体は心なしかゆらゆらと揺れているようにも見える。
 私から出た驚きの声は結構大きかったと思うのだけれどトラファルガーさんが顔を上げる様子はない。恐る恐る近寄って声をかけてみる。

「トラファルガーさん、大丈夫ですか?」

 どうやら様子が可笑しい。荷物を床に置いて、彼の前に屈むと顔を覗き込んだ。起きているのだろうと思ったのだけれど。
 瞼は閉じられている。寝ているのかと思うけれど、やはり変だ。

「トラファルガーさん、起きてますか」
「……」
「立てます?」
「……」

 アカンわ、これは。



「お、おも! トラファルガーさん、でっかすぎ!」

 玄関の扉を閉めてから、じんわりと額に浮かんだ汗を手で拭ってひいふうと息を整える。
 このマンションにエレベーターがあって助かった。いや、あったからこそこんな暴挙に出たのかもしれない。
 買い物した袋や仕事の荷物を一旦置きに帰り、動きやすい服装に着替えてからエントランスに戻っても、トラファルガーさんは項垂れて座ったままだった。力には自信があったけれど、自分よりも大きい男の人を運ぶのは流石に大変だった。二度とやりたくない。

「取り敢えず、靴を脱がして……高そうな靴」

 ピカピカに磨き上げられていたであろう革の靴は、私が引きずったからかつま先の辺りが傷付いていた。怒られるかも、と思いながら靴を脱がして両腕を持つ。腕すら長いな、この人は。

「ベッドには上げられへんな…布団敷こか」

 布団を敷いて、その上にトラファルガーさんを転がしてみたものの足がはみ出した。トラファルガーさんの身長は180センチ以上あるのだろう。バレーボールやバスケットボールの選手並みの身長だ。

「こんなにやっても起きひんねんから、やっぱりおかしいな…連れて帰ってきてよかった」

 トラファルガーさんが寝ている隣に座って、寝顔をぼんやりと見つめる。
 眠っているというよりは、まるで眠らされているようだ。薄く開いた唇からはすうすうと寝息が聞こえる。
 それにしても彫りの深い顔だなぁと、ついつい観察してしまう。藍色の髪に、それと同じ色の整えられた顎髭。形が整った顎から耳にかけてのラインがとても綺麗だ。ゴールドのピアスがよく似合っている。眠っていればそれなりに穏やかな顔をしていて、目元にある酷い隈を差し引いてもやはりこの人はイケメンだと再確認する。起きている時の表情が、彼の威圧感を出しているのだろう。

「起きて怒られたらどうしよ。……まぁ、なんとかなるか」

 仕方ない。それもこれもエントランスで無防備に寝ていたトラファルガーさんが悪い。
 腹が減ったと、自分のお腹が音を出して主張してくるので、仕方ないと膝に手を置いて立ち上がった。