向いてないと思う、今の仕事。
前々から感じてはいたが今日改めて実感した。
慣れない10センチ近いピンヒールを履いて、ジンの選んだセンスの悪い真っ赤なドレスに身を包んで情報収集の為に参加したパーティー。
ベタベタと無駄にボディタッチの多い男達に最大限の笑顔を振りまいて、クタクタになりながら帰宅路についた。
そして家に帰ってすぐ、玄関に脱ぎ捨てられてる男物の靴を見て同じくパーティーに参加した同居人の男も今回ばかりはお疲れらしいと静かに悟り、私はリビングの扉を開ける。

「ちょっとバーボン。靴くらいちゃんと揃えてよ、脱ぎ方汚い」

「…家でまでその呼び方はやめろ、なまえ」

床に放られたスーツのジャケットに椅子にかかったネクタイ。
持ち主は白いワイシャツ姿のままソファに寝そべっていた。

「……相当お疲れの様ですね、降谷さん」

彼のその姿を見て、私もやっと組織の一員である偽りの姿から本来の姿であるなまえに戻った。
ジンから貰った高価そうな指輪を外し、ベルモットが器用に結い上げてくれた髪を解く。


「まさか、お酒に酔ったわけじゃないですよね?」

「当たり前だ。匂いの方に酔ったんだって」


ああ、なるほど。確かにあの会場にいた女性の大半からは女の私でもキツイと思うくらい甘ったるい匂いがした。
今の降谷さんからも同じ匂いがする辺り、私と同様相当密着されたのであろう。

「お先にシャワーでも浴びてきたらどうです?」

「いや、なまえが先に入れ。お前はかなり煙草くさい」

「…………仕方ないじゃないですか。身体に染み付いちゃったんです」

降谷さんの一言にムッとした表情をすれば降谷さんもまた仏頂面をして、横目で私を見た。

「そんな格好してたら勘違いして男が寄ってくるのは当たり前だろ」

「このドレスを選んだのはジンなんだから、文句なら奴に言ってください」

「文句じゃない、呆れてんだよ」

疲れのせいもあってか今日はやけに突っかかってくる降谷さんに「あーそうですか!」と私もついムキになって、そのまま風呂場へと向かった。







降谷さんと例の組織に潜入をしてからもうどれくらい経っただろうか。
公安では上司という立場だが、組織では同じ探り屋として行動を共にしている私達。最近では仕事を終えてからも組織の目を欺く為にと偽名で借りている共同のマンションにお互い入り浸る事が多くなり、同時に一緒にいる時間も前より増えた。おかげで所有している本当の自宅は掃除も疎かになり大分埃も溜まってきたがそれでもここに帰ってきてしまうのはきっと、

「降谷さんお風呂空きましたよー…って寝てるし」

多分、この時間がとても落ち着くからだ。

「こんな所で寝たら風邪引きますよ!…降谷さん!」

耳元で声をかけてみても返事がない。
仕方なく肩を大きく揺すってみたら薄っすらと開いた瞼、降谷さんの透き通る様な空色の瞳に私が写ってそのまま腕を引かれた。

「あ、あの…」

「なに?」

「もしかして狸寝入りしてました…?」

降谷さんの上に倒れこみ、その腕の中で石の様に固くなる私。必死に言葉を紡いで平静を装う。

「気付くのが遅い。そんな隙だらけじゃいつ襲われても文句言えないな」

「っ私だってそう簡単にやられたりしませんよ…!これでも一応警察ですから」

「………全く意味を理解してないなお前は……まあいい」

深く息を吐いて降谷さんが私の首筋に顔を埋める。生暖かい舌が素肌に触れてピクンと身体が跳ね上がった。同時に一瞬針に刺された様な鋭い痛みを感じて、

「っ!?あ、の…!ふふ降谷さん…!?」

「少し黙ってろ」

「…っ、」


これ、絶対キスマークつけてる!
気づいた頃にはもう遅く、身体をがっちりホールドされ逃げる事も叶わなかった。
明日も私は同じドレスを着てまた別のパーティーに潜入する事になっている。それを理解した上で印をつけるって、ほんとにどんな神経して、


「だから言ったろ、そんな隙だらけじゃいつ襲われても文句言えないって」


顔を上げた降谷さんが涙目になる私を満足気に見上げている。
もっと警戒心を持て、と付け加える様に呟かれた一言。余計なお世話だし第一…

「降谷さんはもっと責任感を持ってください。軽い気持ちでこんなことして明日のパーティーどうするんですかこれ…」

「いいんだよ、元々行かせるつもりはないからな」

「…な、なんで」

「さあ、強いて言うなら」


独占欲?なんてとぼけてみせる降谷さんに細く長い息を吐く。
他人事見たいなその態度にちょっと呆れた、けど隙を見せた私に非があるのも事実だし本気で嫌だったら抵抗すればよかっただけの話だ。…まあ、それをしなかったのは

「………降谷さん」

「ん?」

「降谷さんも…早くお風呂入ってその香水の匂い、落としてきてください」

「なんで?」

「………強いて言うなら独占欲です」

降谷さんが相手なら抵抗なんてする理由もなかった。……それにきっと、私も同じ気持ちだから。

ただ、それだけだ。

露草

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