友人が最近ホストクラブへ通いだした。
独身+会社と家の往復で出会いなしの彼女曰くそこはまさに天国らしい。
一緒にどう?という誘いを何度も断って、寧ろ心の中ではいい年してホスト狂いなんてみっともないと冷めた目でみていた私、なまえではありますが。
その日は仕事でミスをして上司にこっぴどく叱られた後だった。

疲れ果てた私は最早正常な判断が出来ずその友人の誘いがとても甘い蜜の様に感じてしまい、踏み入れてしまった夜の世界。
酒と欲に塗れたその場所で、私は彼に出会った。出会ってしまった。

一目惚れ、まさにそんな言葉がぴったりなくらいに私は彼に一瞬で心を奪われたのだ。









「なまえさん」

名前を呼ばれるのが好き。
その甘く耳に響く声が私をダメにする。
彼目当てで頻繁にお店に通う様になった私を今度は友人がじとりとした目で見てくる様になったが気にしない。ただ、お酒を飲んで彼に酔いしれたい。

ワイングラスに口をつけた時、隣に腰掛けてきた彼に私は問いかけた。

「ねえ沖田くん、沖田総悟って本名?それとも源氏名?」

「それ聞いちまいやすかィ?」

「だって、ちょっと気になったから…」

「じゃあ一晩相手してくれたら教えてやりまさァ」


予想の台詞にグラスを落としかけた。
飲んでいたワインが気管に入りむせる私を「大丈夫ですかィ?」なんて言いながら沖田くんは呑気に笑ってる。


「まさかなまえさん処女?」

「っち!がうけど!!流石にそれは…」


その一線だけは超えてはならないと、なんとなくだけど思うのはきっと、


「他の女なら簡単に股開きやすぜ」


側から聞いたら最低な台詞。それは私も重々承知していた、だから渋った。
沖田くんはホスト、どんなに足掻いても彼の特別にはなれやしないのに。
それでもお客さんの前で、今私の前で笑ってる沖田くんの全てが知りたくて。


「いいよ、…沖田くんが望むなら」


バカな私は結局彼の手を取ってしまったのだ。






****





欲望のままにガツガツ腰振ってむちゃくちゃに犯されて終わりかな、ホストとのセックスなんてと勝手に思ってた。けど実際は全然違った。
近くのホテルに着くなり沖田くんは私を優しく抱きしめてまるで恋人にするみたいに甘いキスをした。
その後もずっと私の身体を気遣うように、愛おしいものを扱うような愛撫が続いて。
計算の優しさなのか、素の優しさなのかはわからないがどちらにせよそんな風にされたら余計に好きになってしまう、抜け出せなくなってしまう。


沖田くんしか見えなくなっちゃうのにー…そんな思いを最後に私は意識を手放し、次に目を覚ました時には眩しい朝日の中、まだ沖田くんと同じベッドにいた。


「…………6時」


ゆっくりシャワーを浴びてご飯を食べても出勤には余裕で間に合う。
私は顔を上げ隣で眠る沖田くんを見た。……幼い天使の様な寝顔だった。
店にいる時の沖田くんはまるで夜の帝王と言わんばかりの立ち振る舞い、今と大違いだ。
…沖田くんのこんな無防備な姿を知っている女性は世の中に何人くらいいるんだろう、考えるとじくじく痛む胸に手を当てて大きく息を吐く。
独占欲、なんてくだらないものがなければこんなに苦しまずに済む、傍にいると欲しくなる。私だけのものになってなんて言えるわけないのに。

二人分の体重がかかりギシッと軋むベッドから抜け出そうと静かに起き上がった。同時に掴まれた右手は、簡単に振りほどけそうにない。


「何処行くんでィ」

「起きてたんだ……ちょっとシャワー浴びようかなって」

「逃しやせんぜ」


ぐっと掴まれてる腕を引かれ背中からベッドに倒れこむ。
覆いかぶさってきた沖田くんの顔が視界いっぱいに広がりピンク色の天井がぼやけて見えた。


「今逃したら、なんかもう二度となまえさんに会えない気がしまさァ」

「そんなこと…またお店行くよ?」

「そんな泣きそうな顔しながら言われても説得力もくそもねーや」


沖田くんは私の髪を乱す様に撫でながら唇を重ねた。
口内を犯す生温かい感触に息することを忘れてしまうくらい溺れてしまう。クラクラする。
唇を離した後、私達を繋ぐ銀色の糸がプツンと切れて耳の後ろを辺りに吸い付かれ残る紅い跡。自分だけつけるなんて卑怯だと心の中で呟いた。


「俺のこと、忘れようたってそうはいかねーやい」

「っ、」


本当は終わりにしたかった、これ以上好きでいるのが苦しくて。
けど沖田くんは全て見抜いていたらしい。


「俺がなまえさんを覚えてるのにあんただけ忘れるなんてフェアじゃねェ」

「じゃあ、沖田くんも忘れていいよ…っ」

「無理でさァ。知ってやす?客の中で俺のこと「沖田くん」なんて他人行儀に呼ぶのなまえさんくらいなんですぜィ」


首筋を伝う真っ赤な舌がまるで自分のモノだと主張するように次々に印を残してく。
鈍い痛みが走るたび、ピクンと揺れる私の肩に沖田くんは満足気に口角を吊り上げていた。


「当たり前の様に下の名前で呼んで蛇みたいに纏わり付いてくる女より、俺ァなまえさんのがいい」

「っ、」

「俺の本名は沖田総悟、まんまでさァ。なまえさんが知りたいって言ってたんだからよく覚えときなせェ」



「そう簡単には離してやんねーから」


耳元で囁かれた台詞は甘い毒の様に全身を駆け巡って、なまえさんの方がいい。それだけで胸を締め付ける苦しみが解消されていくようだった。
バカな私はきっと、これからも彼の囁きに溺れ騙され続けてしまうだけなのに。




(ただ、あなたが欲しかった)
ホストなんつー職についてると、全部が営業トークに聞こえていけねえや

露草

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