人生は重要な選択肢の連続だ。
いつしか耳にしたその言葉は、実際その局面に陥った時に毎回思い出すくらいには共感できるし、だったら少しでも悔いのない道を選ぼうと悩んで葛藤するのは最早人間の摂理なワケであって、
「わかったからさっさと決めてくんない?たかがアイスにどんだけ悩むんだよお前」
「だってチョコもイチゴも好きだからさあ、そういう銀ちゃんだっていつもファミレスでうだうだ言ってんじゃん」
「もう俺が二つ食うわ」
「待ってそれだけはない」
「俺的には溶けたアイスを食う選択肢が一番ねぇの」
そう言って銀ちゃんは机に並んでたアイスカップのピンクの方を迷わず手に取って蓋を舐めると(汚い)テレビを観ながら黙々と一人で食べ始めた。
仕方なく私も向かいのソファに座り直してチョコアイスに銀色のスプーンを突き刺そう…としたらすぐ沈んだ。確かに、かなり柔らかくなっていた。
神楽と新八がいない内に食っちまおーぜ、と銀ちゃんが子供みたいな顔でキッチンの方からアイスを二つ持ってきた時、彼が人に甘味を分け与えるなんて珍しいなと思った。しかも両方、私の好きな味。
そんなに落ち込んでるように見えたのだろうか。
わりと長かった仕事を体調を崩して辞めて以来、家に引き篭もってた私に暇なら来れば、と今日声をかけきたのは銀ちゃんだ。
自分では出来るだけ明るく振る舞ってるつもりだったんだけど、無駄に心配かけてしまったかもしれない。
「明日野良猫探しの依頼入ってっけど、暇ならお前もくる?」
「銀ちゃんほど暇じゃないよ」
「いや暇だろ、無職なんだし」
買い被りすぎていた、言葉を選ぶほどの優しさはないらしい。今更気を使う仲でもないから別にいいけど、いいんだけどね?
「無職ってさ…思ったより辛いよね。今後の未来になんの予定もないんだよ…不安になる」
「予定ないのなんてしょっちゅうだけど」
「相談相手を間違えてました」
「そう言う時はなぁジャンプを読め。少年誌はそんな全ての不安から救ってくれっから」
「銀ちゃんはもっと現実見た方がいいよ」
「無駄な事うだうだ考えるよりはマシなんじゃねーの?」
「…そうだけど…そりゃそうなんだけどさぁ」
自分でも悪い癖だとは思う。その時は最前だと思って出した結論も、暫く経ってから後悔したり悩んだり。私はいつもそうだ。そんなたられば考えたって、何にもならないのはわかってるけど。
なんなら今だって、銀ちゃんが取ったいちごアイスもまだ未練がましく食べたいし。
「これからは迷った時鉛筆でも転がしときゃいいじゃん」
「期末テストか。流石にやだよ」
「終わり良ければ全て良しって言葉知らねーのお前」
「結果的に今無職だもん」
「なら聞くけど、」
空になったアイスのカップを机に放った後、ソファの縁に肘をついて、ずっとテレビに向いていた銀ちゃんの視線が初めてこちらに向いた。
「なまえちゃんは俺と一緒にいる事も、後悔したりすんの?」
「それは…するね」
「マジかよ。今の流れは普通それだけは後悔しないよ!つー流れじゃね?」
「だって銀ちゃん酔うとしょっちゅうゲロ吐くし、靴下も裏返さないしだらしないし稼ぎも少ないし」
「もういいわ、わかったから。銀さんもうHP 0だからやめて」
「でも、それ以上に一緒にいてよかったって思う事のが多いかな。…あ、これが終わり良ければ全て良しってやつか。」
ふふっと笑って戯けて見せたけど、銀ちゃんが珍しく真面目な顔して聞いてきたから内心かなりドキッとしてた。
悟られないように口角は吊り上げたまま、残りのアイスを掻きこんだら頭がキーンと冷たくなる。
「…じゃあまずは明日の野良猫探しからな」
「え、なんでいつの間にか参加する事になってる?」
「記念すべき初仕事じゃねーか。朝早いから寝坊すんなよ」
「まだ行くなんて行ってないし、というか初仕事って」
人生は重要な選択肢の連続である。
今まで私の仕事の愚痴とか悩みなんて聞いてるのか聞いてなかったのかよくわからなかったこの男。
だがしかし必要な時には必ず手を差し伸べて、無理やりにでも陽の射す方へと連れ出そうとする。そういう人だった。だから私は、
「俺的には永久就職でも構わねぇけど。…行かねーの?」
「い、行く!」
自分でも驚くくらいの大きな声で、即答した。でも初めてなんの躊躇いもなくて。
その後、用事があって留守だと思っていた神楽ちゃんと新八くんは実は意図的に銀ちゃんによって万事屋から追い出されたと知った時、初めて悔いのない選択肢をしたような気がしたのであった。
露草
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