「え、沖田くんが風邪?」
「ああ、だから今すぐ来てくれ」
土方さんからそんな電話があったのは昼下がりのことだった。
だから来てくれって、なんで私がと口を尖らせると「お前医者だろ」という土方さんの言葉が電話越しにぐさりと刺さる。
真選組御一行様の面倒を見るのは確かにもう慣れたけど、私は街はずれにある小さな病院のしがない女医であり訪問サービスまでは行ってないわけであり。
「本日は休館日です」
「ほう、それは残念だ。謝礼はそれなりにしようと思ってたんだが」
「よし、10万で手を打とう」
「お前に10万の価値はねえ。今度飯奢ってやっから」
「まじ?やったぜ」
「いいのかよそれで」
10万はいかなくても叙々苑繰り出して肉だけバカ食いしてやればいいや。
この時はそんな事を考えて甘くみてた。ウイルスに犯されたあのドSを。
「しねえええ!土方ぁアァアアア」
「なんだ、随分元気そうじゃないですか」
「いや、あれでも熱は40℃近くあるんですよ」
顔を引き攣らせながら沖田くんのバズーカ10連発をくらう土方さんを山崎さんは顔を引き攣らせながら柱の影から見つめてる。
確かに発砲する沖田くんの顔も真っ赤だけど被害にあってる土方さんも丸焦げで最早どっちが病人だかわからない。
「っなまえ!お前おせーよ!!」
「すいません、途中でピカチュウに遭遇しちゃって。捕まえるか迷ったんですけど可愛くてつい」
「完全にGOやってんじゃねーか!」
「じゃあ土方さん、早速お約束の叙々苑にもGOしましょ」
「叙々苑なんて約束した覚えねえよ、つーかお前まずはあいつをなんとかしろ!」
そう言って土方さんが指差した方を見ればそこではさっきまで暴れまくっていたはずの沖田くんが地面で完全に伸びていた。
「…うわっ、ほんとすごい熱。…これきっと地球産のウイルスじゃないですよ」
体温計にありえない数字表示されてるもの。
「んなこたァわかってんだよ、こんな高熱だつーのにバカみたいに襲いかかってくるし」
「それだけ土方さんへの鬱憤が溜まってるんじゃないんですか?」
「ほんと一言余計な奴だな。とりあえず、俺ァこれから市中見回りだから総悟を頼む」
「だって。ザキさん頑張れ」
「だってじゃなくて。俺も仕事あるんだからなまえちゃん頑張って」
「私もこれから仕事!ジム行ってバトル!」
「本業に力を入れろ!お前それでも医者か」
ゴミでもみるかの様な冷たい二人の視線に、「わかりましたよ」とため息をついて。土方さん達はそれぞれ持ち場へと戻って行った。
残された私はとりあえず布団に横たわり苦しそうに呼吸する沖田くんを見る。
…普段無茶ばっかするからこんな酷くなるんだって。
「自業自得」
沖田くんの熱いおでこに一発デコピンを食らわせてから水枕を用意して身体の汗を拭く。ほんとは一番に持ってきた薬を飲ませたいとこだが本人の意識がない状態じゃ無理だ。
仕方ないから沖田くんの意識が戻るまで私も少し休憩して、そんでもって沖田くんの目が覚めたら薬飲ましてジム行って叙々苑行って……、
「おい」
「…んっ、」
「早く起きねェとスマホぶっ壊すぞ」
恐ろしい一言が聞こえて勢いよく飛び起きる。
声のした方を見れば沖田くんが呆れた目で私を見ていて。
「ああ、やっと目覚めた?」
「それはこっちの台詞でさァ。なにやってんだやぶ医者」
「誰がやぶ医者だ。わざわざ看病しにきてやったのに」
「とてもそうは見えなかったけどねィ」
涎、と指摘されて袖で口を拭ったら今度はありえねえとドン引きされた。
少し休憩のつもりがどうやらガチで爆睡してしまったらしい。
「で、熱はどうなの?さっきよりは楽になった?」
「そもそもこんなもん寝てれば治りまさァ」
「じゃあ最初から大人しく寝てなさいよ、あんなに暴れまくってたくせに」
「それは土方の野郎がやぶ医者を呼んだって言うから」
「だからやぶ医者じゃないちゅーの!」
てかそもそも私の事でもめてたんかい。確かに前々からツンケンツンケンしてるなとは思っていたがそんなに私が来るのが嫌だったんかいこのクソガキは。
「帰ってほしいなら帰るけど、せめて薬だけは飲んで。これは医者としてお願いする」
「つーか腹減った」
「作れって?」
まだ熱は高いだろうに食欲はあるようだ。でも私が料理なんか出来るはずもないから女中さん呼ぼうと考えていると沖田くんが言った。
「お盆でみんな帰省してるから誰もいやせんぜ」
「…私作れないよ?」
「卵粥のネギ抜きお願いしやさァ」
そう言って強制的に部屋からぽいっと追い出された。さっきまであんな弱り切ってたくせに起きたら起きたらで悪魔かあいつは。
ぶつくさ文句をたれながらも叙々苑の為だと必死に堪えて勝手場へ。
昔お母さんが作ってくれたお粥を思い出しながら勘で作ったら悪魔が食べるに相応しい真っ黒な謎の物体が出来上がった。
「……………」
「食べなよ、お望みだった卵粥」
「それは死ねって言ってるんですかィ」
「作らせたの沖田くんでしょ!!」
「お粥も作れねえ女とか、一生結婚出来やせんぜ」
「いいから黙って食えやい。なんなら食べさせてあげようか?」
ニヤリと笑って沖田くんの顔を覗きこもうとした瞬間、鋭い目付きで睨まれ顔面に枕が飛んできた。
また熱が上がってきたのか、さっきより沖田くんの顔が赤い気がするのは気のせいだろうか。
「……くそまじいんだけど」
「そう?ありがとう」
「褒めてねえや」
でもなんだかんだ文句言いながら完食はしてくれた。かなり時間はかかってたけどね。
もう夕陽も沈み始め辺りも暗くなってきた。土方さん達はなかなか戻ってこない。そして私もいい加減帰らないとなんだけど。でもその前にジムと肉。
「沖田くん。今薬飲めそう?てか本当はかなり飲んでほしいけど」
「…………」
「無理なら一週間分持ってきたから、夜にちゃんと飲んでね」
身支度を整えながらそう言って畳に置いてあるスマホに手を伸ばした時、先に伸びてきた手に私の可愛いあいふぉんは奪い取られた。
「お前、自分とこの薬飲んだことありやす?」
「私医者だから風邪ひかない」
「バカだからの間違いだろィ。くっそまずくてすっげー苦いんでィ」
「だからって飲まないとかなしね、というか」
さっきから沖田くんフラフラしてる。なんか喋るのもやっとって感じ。
やっぱり夜になるにつれまた熱上がってきてんじゃん。
「おい」
たった今ボロクソに言ってたその薬を沖田くんは少量の水と共に一気に口に含んだ。そして私の後頭部に手を回し引き寄せられて唇が重なる。
驚く間もなく隙間から流れ込んできた苦い粉薬が溶けた水に眉間に深い皺が寄った。
「んな、ちょっ、…!!」
唇を離す時、最後に下唇を甘噛みされたのは気のせいだと思いたい。
「わかりやしたかィ、普段この薬でどれだけの患者が苦しめられてるか」
「っそういう問題なの?違うでしょ!」
確かに半端ない苦さだったけど、もうちょいなんとかしようとか考えたけど。
「でも、いつもより甘ったりィ」
そう言って沖田くんは力尽きた様に布団に倒れこんで再び眠りについた。
あんたに出した薬なのに半分以上私に飲ませてどうすんの。本当何がしたいのこのクソガキは。
「っ、全然甘くなんてないし」
熱で沖田くんの舌が馬鹿になった、…そういう事にしておこう。断じて、キスのせいではない!
露草
前 もどる 次