初夢は正夢になる、なんて話を子供の頃に聞いた事があった。


「迷信だろ」

「でもそういうの信じたい方が人生楽しいじゃないですか」


今年は手間を惜しまずコタツを出した。
面倒だし実家への帰省は後回しにしちゃったから大晦日は一人で過ごすつもりだったけど、まさかの熊谷先輩が泊まりに来てくれて。
先輩もここ数年は実家には帰ってないらしく、今回もはち太くんだけ地元の福井に帰ったそうな。

コタツテーブルに置いてある蜜柑に手を伸ばしパクパク食べながらそんな話題を切り出せば、隅に山積みになった皮と私を交互に見て、色んな意味で呆れたような顔をした先輩もまた蜜柑に手を伸ばした。


「先輩も食べるんじゃないですか」

「お前と違って俺はまだ一個目」

「もし初夢でおしるこ食べる夢見たら明日作ってくださいよ、そしたら正夢になるし説立証ってことで!」

「おしるこ食いたいだけだろそれ、流石にこれ以上は太るぞ」

「着痩せするタイプなんでそこは上手く誤魔化します」

「俺は服着てない姿見るから言ってんだよ」


蜜柑を食べていた手が止まる。
コタツの中で向かいの熊谷先輩の足が私の太ももに触れて、器用に指先で素肌をなぞられビクリと肩が跳ねた。


「冬なのにこんな短いの履いて寒くねぇのか」

「っこのルームウェア、気に入ってるし…それに先輩が、」


…太もも、好きじゃないですか。
語尾が掠れるくらい小さくなってしまった。
エッチの時、よく熊谷先輩がそこを撫でている事に気づいてしまったから。それもあってこの部屋着を新調したとこまでは黙っておくけれど。


「でも、そういうなら痩せるまで先輩の前では脱ぎませんから!」


せめてもの反撃のつもりでそう言って最後の一つの蜜柑を口に入れたら先輩の足が更に深くまで伸びてついに足の間に割って入ってきた。


「っちょ!ちょっと、」

「その気にさせればいい話だから別に問題ねぇよ」

「そんな簡単にはなりません!」

「なら試してみるか」


先輩の足先に力が込められる、一瞬冗談かと思ったがその目は本気だった。
日付が変わるまで後数十分、本当ならカウントダウンでもしながら初めて二人で過ごす年越しを盛大にお祝いするはずだったのに。

結局、熊谷先輩のスイッチを入れてしまったら最後、今年も敵わないまま年は明けた。







「おい、流石にそろそろ起きろよ」

「…んぇ、今何時…?」

「もう昼、初詣行くんだろ」

「え、昼?」


熊谷先輩の言葉に一瞬で頭が覚醒した。
勢いよくベッドから飛び起きると昨晩、なんやかんやあってシャワー浴びて、熊谷先輩のシャツだけ頭から被って爆睡した私とは裏腹、先輩は既に身支度を整え、ベッド周りに散乱してた私の下着やルームウェアも綺麗に片付いていた。


「すいません、すっごいよく寝ちゃって…」

「別にいい、元は俺のせいでもあるし」

「あ、自覚はあったんですね」

「あんま調子乗んなよ」


ムニっと例の如く頬をつねられ、「早く支度しろ」と言われた。いつもながら地味に痛い。
「ひゃ〜い」と間延びした返事を返しつつ、ベッドから抜け出して水を飲みにキッチンに行くと、すごく甘い良い匂いがした。


「え!おしるこ!作ってくれたんですか?」

「誰かさんが起きないし暇だったからな」

「熊谷せんぱぁい…」


おしるこ食べる夢なんて結局、見なかったのに。
ダメだ…こんな風に甘やかされるとより好きになってしまう、でもって先輩のいう通りほんとにどんどん太ってしまう。

とはいえ食欲には敵わず、お腹の虫が大きな音を立てたので早速コンロの火をつけ温め直そうとしたらぐいっと後ろから腰を引かれた。


「帰ってからにしろ、んで早くちゃんと服着ろ。風邪引くぞ」

「先輩、なんかお母さんみたい…」

「あ?」

「そいえば熊谷先輩は、どんな初夢見ましたか?」


おしるこを見て昨日の事の発端になった話を思い出し、首を少し捻って先輩を見たら目が合って…すぐにふいっと逸らされた。


「言うほどの内容じゃない」

「え、でもその反応は気になりますよ!」

「そういうお前はどうなんだよ」

「私?私はー…」


言われて少し口角が上がる。夢って、よほど印象にない限り目覚めたらすぐに消えてしまうものだけど。

今日のは多分、私的にはずっと忘れないくらいにはよかった内容で。


「先輩の家で、先輩と猫ちゃんと遊んでました」

「普通だな」

「でもこれはすぐに正夢に出来るじゃないですか」


結局、そういう日常が私は一番好きだから。

「やっぱり説立証ですね」と笑って熊谷先輩を見上げたら不意に一瞬、口を塞がれた。



「お互い正夢になりそうでよかったな」

「へっ、」


なに、今の。


「ど、どどういう意味ですかそれ!」

「やっぱりお前が太るって話」

「ぜったい嘘!」


熊谷先輩の見た夢の内容は詰め寄ったけどやっぱり教えはもらえなくて。これからも多分、こんな感じで翻弄され続けるんだろうけど。

どうか今年も、良い一年になりますように。


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露草