それは無茶振りです




地下鉄で新大阪駅に着いて、時間を確認する。
予定より、少し早くに着いてしまったが、水無月さんを待たせてしまうよりもいいと、俺は北改札を抜けた。

昨日、同じクラスの水無月さんから突然「天喰くんも、大阪にいる?」と連絡が入って、彼女も今インターンで大阪に来ている事を知った。
なんの用事か聞いたところ、「時間があればご飯でもどうかな?」と言った誘いで、断る理由もないが、同じクラスとはいえ何故あまり話をしたことのない俺なんかをご飯に誘うのかわからず、ぐるぐると考え込んでいると、いつの間にか横に来たファットにひょいと俺のスマフォを奪い取られる。
今日の仕事は終わったとはいえ、事務所で私用の電話はまずかったか?と震えていると勝手に「プロヒーローのファットガムです。お嬢さんは明日、何時から時間空くんですか?お昼?奇遇やな、彼も明日の昼には新幹線で帰る予定なんや」と約束を取り付けられてしまった。

「なんで、そんな勝手な事を...」
「いや、相手の声漏れとったからな。助けたくなって」

ファットは、たいしたことではない。と言った風で「せやから、明日はお昼に新大阪行くんがサンイーターの仕事やで」と言って、何事もなかったように自分のデスクでたこ焼きを食べ始める。
彼女の事は殆ど知らなくて、勿論好みの食べ物なんて思いつかない俺は、昨夜慌ててミリオに連絡をとった。
ミリオ曰く、「俺も彼女の好きな食べ物は知らないな。でも、彼女から連絡きたなら彼女に何が食べたいか聞いて、一緒に決めればいい。環なら大丈夫だ」なんて励まされた。大丈夫な気は、残念ながらしない...。

「天喰くん!」

地下鉄新大阪駅の近くに、手頃な店がいくつかあるからそこに行ったらええ。と教えてもらったので、案内板を見て下調べをしていると、聞き慣れた声が俺を呼んだ。
振り返ると、小さなキャリーケースをゴロゴロと転がして水無月さんがこっちへ近づいてくる。

「もう来てたんだ、ごめんね」
「大丈夫。俺も来たところだから」
「来た時は、こんなところがあるなんて気付かなかった」
「俺も、大阪は何度も来てるけどここは初めて来た」

「そうなんだ」と水無月さんは、ふにゃりと笑う。

「天喰くんは、何食べたい?」

案内板を見ながら、どう話を切り出したらいいかわからず固まっていると、彼女から何がいいか聞かれてしまった。

「水無月さんは、なにかある?」
「うーんとね...、ここのお肉美味しそうかなって。天喰くんは、お肉大丈夫?」
「そこでいい」
「じゃ、いこー」

カウンターメインの店に行くと、愛想のいい店員が水無月さんの荷物を預かって、俺たちを奥の席へ案内する。
水無月さんは、にこにこしたままメニューを見て「ステーキ丼がある!これにしようかな」というので、俺も同じものを頼む。俺の分は、肉2倍で。

「なんか、急に呼び出しちゃってごめんね」
「別に、構わないけど...。なんで、俺なんかを誘ったんだ?」
「用事があって、ミリオくんに連絡したら天喰くんも、今大阪って教えてもらって。天喰くんとお話ししてみたいなって思ってたし、折角だからご飯も誰かと一緒だと楽しいし...」

さっきまで、にこにこしていた水無月さんの表情が、みるみる曇って行く。
俺は、彼女にそんな顔をさせたいわけでもないのに、何を言ったら水無月さんが喜ぶかわからない。

「昨日の電話、なんか途中でファットガムに取られちゃって、驚かせたよな」
「ちょっとびっくりしたけど、大丈夫だよ。天喰くんがお世話になってるプロヒーローだよね。どんな人?」

水無月さんは、また目をキラキラさせて俺の話を催促する。
俺は、上手く話せる自信はなかったが、ファットの事や事務所であった事を話す。
彼女は、あいづちを打ちながら小さなことも聞き漏らさないように俺の話に耳を傾ける。

「お待たせいたしました」

話も、落ち着いて来たところで、カウンター越しに丼を手渡される。

「お肉だ!お肉!」

水無月さんは、子供のようにはしゃいで写真を撮る。

「天喰くん、今日は一緒にご飯食べてくれてありがとうね」
「俺なんかでよかったら...」
「そういえば、この後はまだ用事あるの?」
「ファットから、食べた後はそのまま帰っていいって言われた」
「じゃ、じゃあ、一緒に帰ってもいいかな?天喰くんの話、もっと聞きたい」
「...水無月さんの話を、聞かせてくれるなら」






(先日 大阪へ行って来ました)




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