君は偉いな
「おはよう」
「おはよう、水無月さん」
私は、彼の前の席に座る。
北くんは、不思議な人だ。
いつも同じ時間に同じ行動をする。
ルーチンワークを淡々とこなして行く。
掃除当番やなくても、ゴミや埃が気になれば掃除をする。
挨拶もちゃんとする。
尾白くんが言うには、ちゃんとすることは彼の儀式らしい。
「今日は、なんで早いん?」
「うーん、早く目が覚めたから...?」
それに比べて、私は適当だ。
やりたい時にやりたいことをするし、気が向いた時に動く。
ルーチンワークなんて、期限までに片付ければええと思っとるし、同じ時間に同じ事をちゃんとやるなんてでけへん。
「そうか」
北くんは、そう言うと机の上に1限目の準備をする。
「北くんは、息苦しない?」
「息苦しい?」
「ちゃんとやる、ってこと」
「別に、気にならへんな」
「なんで?」
「ずっと、そうしとるから」
その自信がどこから来るのか、やっぱり私には理解でけへん。
毎日、ちゃんと生きて努力して、頑張って...。
もしそれで失敗したり、アカンかったらって思うとどこかで手を抜いて逃げてしまいたくなる。
「でも、それは俺がちゃんと出来てへんかったって事やろ。いつも通りやっとったら、大事な時もちゃんと出来る」
バレー部では、キャプテンをやっているがきっとそれは、北くんが今までをちゃんとやってきた結果なんやろうな。
「北くんみたいに、結果が出れば私もそう思えるかな」
「結果出るのに、時間かかったけどな」
大きな失敗こそしてへんけど、いつか必ずうまくいく。
そんな風に言われても、そんなんわからんやん。って叫んでしまいたくなるけど、北くんに言われたらなんも返せんくなる。
「北くんは偉いわ」
「なにがや」って顔をして北くんは私を見る。
「ほんまにちゃんとせなあかん事は別として、周りに北くんのちゃんとするを押し付けてこんとこ」
北くんの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
「私も、ちゃんとせなあかんな」
うんうん、と勝手に納得をする。
「そういえば」
「なに?」
「水無月さん、宿題やったか?」
「まって、知らない」
「知らんはずないやろ、同じ授業受けとるんやから」北くんが少し、呆れた顔でノートを開く。
「なんか、先生言っとったかも」
「水無月さんは、ちゃんとせなあかんな」
「スミマセン...。しかも、よくわからないんで教えてください」
「しゃーないな」
北くんの綺麗に書き込まれたノートを教科書に、私は授業が始まるまで個別指導を受ける。
北くんみたいに、ちゃんと出来るのはまだまだ先になりそう。
(ちゃんと出来るってそれが凄い)
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