私の声で君は笑った?




誰かの声が聞こえて目が覚める。
大木にもたれていた背中は痛いしお尻も痛いしで、今すぐにでも立ち上がって教室に帰りたかったのだけれど、聞こえて来た会話の内容が「好きです!」なんてもんだから私は木の向こう側にいる人に見つからないように、自分の個性が隠密向きでないことを呪いながら、じっとしているしかなかった。

日差しを避けて、校舎と木の間で寝ていたことはどう考えても災いとしか言えない。静かに静かに顔を上げるとピカピカに磨かれた窓があって、私が姿を隠している相手の顔が見える。

女子生徒の方は同じ普通科で隣のクラスの子。男子生徒はまさかのヒーロー科。雄英は広くて人数も多いけれど、流石に真ん中を境目に赤と白の目立つ髪色なんて、噂の有名人しかいないと思う。

「いや、お前のことなんて知らないし、断る」

風が吹いて、木の葉がガサガサと音を立てる。

覗き見なんて趣味じゃないんだけどなぁ...。と思いつつも、ここから少しでも動こうもんならあの2人にすぐに見つかってしまうのだから仕方がない。元々、先にここで昼寝をしていたのは私なんだ。

「とっ...友達からでもいいの」
「期待されて、友達ごっこに振り回されるなんてごめんだ」

個性の氷だけじゃなくて、意外と性格も冷たいんですね。なんて驚く。とは言っても、別に彼のことなんてヒーロー科に推薦で入学した、半冷半熱の個性ってことくらいしか知らないんだけど。てか、見た感じからそんな笑ったり騒いだりするタイプにも見えないし。個性は関係ないか、ごめん。

最初に断られてから、声が震えていた女の子はもう泣くのを堪えられなかったのか、ぽろぽろと泣き始め、校舎のドアに向かって走り去って行った。

彼女には申し訳ないが、これで私もこの背中とお尻の痛みから解放されるかと安堵したのは束の間、有名人、轟くんは帰るどころかその場を動こうとしない。

「...っくしゅ」

突然鼻がむずむずして、うっかり出てしまった自分のくしゃみに驚く。顔を上げて窓を見ると、轟くんは驚いた顔でこちらを見ている。

まずいまずい、非常にまずい。慌てて「みゃぁお...」と猫の鳴き真似。私の個性は、声帯模写。その辺の猫の鳴き真似なんてお茶の子さいさい...。

「1年か?」

今度は、窓ではなく声のした左上を見る。

「1年生...で...す」

眉間にシワを寄せた轟くんと目が会う。
目と目が会う瞬間、好きだと...なんて巫山戯ている場合ではない。

「私が元々ここで昼寝をしていたわけであって、覗いてやろうとかそんなつもりはなかったの」

轟くんは、ため息をつく。
怒ってはいないらしい。

「猫のモノマネ、上手いな」
「えっ?ありがとう...?私の個性なんだけど」
「個性?」

「声帯模写」と轟くんの声を真似て答える。
「なるほど」と納得した顔をする轟くん。

「普通ここは、なんだ猫か。って去って欲しかったんだけど、もしかして猫すきなの?」
「好きもなにも、こんな警備の厳しい雄英に猫がいると思うか?」
「ちくしょう!」

雄英の警備は猫すらも侵入できないってか!校長があれだもんね!

そんなやりとりをしていると、チャイムが鳴る。慌てて、時計を見ると13時10分。よかった、まだ予鈴だ。
ゆっくりと立ち上がって、背筋を伸ばす。

「大丈夫、別に君たちの話を言いふらすつもりはないので」

「では、さらばだ。少年よ、プルスウルトラ!」とオールマイトの声で言って私は教室に向かう。





翌日、私の声帯模写の話を轟くんから聞いたのであろうA組の人が私のクラスに来てあれこれいろんなヒーローの声真似をさせられ、A組が来たことと私の声真似で大騒ぎになってしまった。
個性を使うことは構わないし、交友関係も広がった。楽しかったことは楽しかったけど、なんでこんな大騒ぎになってしまったのかを一緒に来ていた轟くんに聞くと「人の話を盗み聞していたからな、これくらいで許してやるよ」とのこと。なんとなく、腑に落ちないけれど、そう言った轟くんの口元が少し、少しだけ笑っていた...ような気がしたので良しとする。






(彼の笑顔がみたい)






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