螺旋



話がしたい。
たった、6文字のメッセージを読んで俺は心が冷えるのを感じながら「わかった。今なら家に居る」と返す。


それが、数時間前。
換気扇の下で、自分の吐き出した煙がふよふよと浮いては消えていくのを眺める。
ワンルームの狭い部屋で、いくらそっぽを向いていても視界の端でジュンが俯く姿がチラつく。
顔を見ねーように、目を合わせねーように「そういや、課題終わったか?明日提出だったろ」と無理矢理会話を作ろうと、はぐらかそうと凌いでも、静かな空気が冷めていくのを止めることはできねぇ。


「わかれよう」

それが、数十分前。
そのまま、どれだけの煙が消えていったのか。
いつも以上に増えていく灰。
元々、ひとりでいることも苦手じゃねーし、大学とボーダーと交友関係も広い方だ。
独り身だって悪かねぇ。と頭を切り替えることに必死になっても、頭に浮かぶ楽しかった思い出と笑い声。

小さな箱が空になって、俺は煙ではなく溜息を吐き出す。
ようやく、換気扇の下から移動してジュンが帰った後のテレビ前に座る。
この前撮った映画でも観るかと、リモコンを操作する。
録画画面に残る、俺の趣味とは全く合わない番組名を観て、淡い期待を一瞬抱くがすぐに頭を振る。
忘れようと映画を観るが、どんだけ集中しようとしても、重ねた思い出に上書きはできなくて。
自分を作ることもせず、等身大でそのまま過ごしていたが、それが大きなわがままになっていたんだろうなと後悔に襲われる。

どうして間違えたのか、どうしてすれ違ったのか。
どんだけ考えても、俺の気持ちが壊れて溺れていく音しか聞こえない。

俺は、いったいどうすりゃよかったのか。
あの瞬間から、俺という人間はもう、過去になっちまったんだな。
いっそのこと、そのまま傷つけてモノにしてしまえば、とも思うがそこまで考えて、ようやく自分の目尻に、冷たいものが溜まっている事に気付く。

どこで間違え、どこですれ違い、離れていったのか後悔するが、溢れた感情に答えなんて出ない。

愛ってなんだ?


「んなもん、わかっかよ!」





(螺旋/スキマスイッチ)






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