災厄毒素



突然現れた水無月さんは「弟子ができた!」と騒ぐ。

「弟子?下僕?下っ端?」
「サイドキックって言いてぇのか!」
「そうそう、そうとも言うね!」
「つか、オレは認めてねぇ!」
「まぁまぁ、そう言いなさんな。ブラザー」

彼女がトレーニングルーム連れてきた、と言うよりかは運んで来た少年は体育祭で1位になっていた、話題の1年。
爆豪勝己。

「君が暴れるじゃない?その隙に、あたしが動けなくするじゃない?完璧よね!」

彼女が自由で勝手なのは、私たちにとってはもう3年目で慣れたことではあるが、彼にとっては突然現れた災難だと思う。

「てか、テメーの個性は何だよ!動けねぇ」

口でこそ、乱暴に叫ぶ爆豪くんだけど、身体は指ひとつ動かせずに右腕だけを彼女に掴まれて、ずるずると文字通り引きずられている。

「ヴェノム。毒素だよ。さっき、噛み付いたでしょ?あの時に、ぶすり」
「クッソ、あん時か!!!」

一体、出会い頭でどんな災厄に見舞われたのか。
水無月さんを知る人はみんな、心の中で彼に「どんまい」と気持ちを送る。
そんな中、爆豪くんの指が、ピクリと動く。
私は見逃さない。

「あ」
「あぁ!?」

動ける事に気がついた爆豪くんは、両脚を上げて下ろした反動で起き上がる。
その後は、一瞬の出来事。
彼女は年齢こそ下ではあるが、身長も体重も自分より上の爆豪くんに組み敷かれ、両手を押さえつけられた。
私を含め、トレーニングルームにいた人全員が、固唾を飲んで見守る。

「ありゃー、形成逆転か」

両手首を、爆豪くんの右手で押さえつけられているのに、彼女はけろりとした顔で言う。
側から見ても、鼻と鼻がぶつかりそうな、これが恋愛ドラマで誰もいない場所ならば、ドキドキしてしまいそうな、そんな距離なのに2人の間にはムードなんてない。
爆豪くん、利き手は右だっけか。
だったら、本気なんだろうなぁ、なんて呑気に思う。
彼の左手から火花がバチバチと音を立てる。
あ、でも、個性を左手で出しているあたり、彼なりの手加減なのかもしれないなぁ。

「相澤せんせー!」
「あぁ!?」

水無月さんの声に反応して爆豪くんが振り返る。
かぷり。

「ああああ!?」

彼女は、彼の視線が扉の方に向けられた隙に首筋へ噛み付く。
爆豪くんの力が抜けて、彼女の上に覆いかぶさる。

「うそうそ、相澤先生は職員会議だよ」

語尾に星マークでも付いていそうなテンションで言う。
よいしょ、と彼の下から這い出てきて、ポンポンと埃でも落とすように自分のお尻を叩いてから動けない爆豪くんの背中に容赦なく座る。

「あたしさ、卒業したらすぐに事務所を構えるからさ。そしたら、ウチにインターン来てよ!優遇しちゃう。そのまま、眷属になってよ」
「それを言うなら、サイドキックっつってんだろ!」




(爆豪の成長が1番楽しみかもしれない)






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