exotique
都内屈指のお金持ち校、氷帝学園。
今日も、クラスメイトは「ごきげんよう」と挨拶を交わす。
嘘やけど。
「ごきげんよう」は大袈裟に言いすぎやけど、実際この学校にはお坊ちゃんやお嬢様も多いし、それぞれ礼儀や作法、マナーなんかも叩き込まれとるから、時折そんなことなかった自分の世界とのギャップに驚く事も多い。
跡部なんか、その中でもぶっ飛んだ存在やしなぁ。
「ん?忍足じゃん」
午後の部活を終えて岳人と一緒に帰ろうとしたとこで、用事できたから、ちょっと待ってろ。と言われ、サロンで本を読んどったら現れたんが、同じクラスの水無月さん。
先述のお嬢様とは、言い方が悪なってしまうけど、程遠い、クラスでもちょっと異質な女の子。
ヴァイオリンよりもギター、紅茶よりもコーラそんな物が似合いそうなタイプ。
「何してんの」
「読書」
「また、ラブロマンス?」
「せやで。水無月さんも読んでみ?おもろいから」
「うわー、座って本を読むってだけで眠くなる」
部活の友人で言えば、跡部や滝や鳳よりも、岳人や宍戸なんかと波長が合うタイプやろな、と思う。
知らんけど。
あいつらと彼女に接点があるかなんて、今年同じクラスになったばかりの俺には分からんことや。
「水無月さんこそ、なにしとんの。始業式は昼前に終わったやろ。もう、夕方やで」
「担任にしばかれてた」
「こんな時間まで?」
「せやせや」
笑いながら、俺の真似をして下手な関西弁で返事をしながら、髪をかきあげる。
現れた耳たぶには、筒状のピアスが光る。
「ピアス、開けたんかいな」
「開けたのは、この前の春休み。上手く隠してたんだけど、夏休みの間にノリで拡張したら隠しきれなくてさ。バレてこんな時間までお説教」
「あのくそオヤジ、マジでムカつくわ」なんて言っとるけど、顔はへらりとした笑顔のまま。
「風通し、良さそうやん」
「あっはっは、やっぱ忍足は面白いわ。流石、関西人?」
ふたりきりのサロンに、水無月さんの笑い声が響く。
他の人がおったら、なんやねんと視線を集めたやろうな。
「友達にも不評で、へこんでたけど元気出た」
「かっこええけどな」
「でしょ?やっぱ、忍足は分かる人だわ」
「せやろ」
水無月さんは、俺の向かいの椅子をわざとかっていうくらいガタガタ言わせ、ドサっと座る。
自然と組まれたその脚は、所謂「かっこいい」に分類されるんやろう。
「で、先生にはなんて言って誤魔化しとったん」
しばらく、俺と話し込むつもりでいる彼女に対して、読んどった本に栞を挟んで話しかける。
ちなみに、今日の栞のデザインはたこ焼きやで。
「んー、なんだっけ。おばあちゃんがエジプト人で魔除けのために開けた。だったっけ」
「あれ?おじいちゃんだっけ」と水無月さんは首を傾げる。
いや、悩むとこはそこちゃうやろ。
「なんで、そんな言い訳が通じんねん」
「きりっ!って顔したらいけたよ?」
「いけた、とちゃうやろ」
多分、それは諦めやろ。と口には出さへん。
水無月さんは、そんな言い訳がスルリと通ってしまう事に違和感がないと言った風で、この学園の風紀をかき乱していく。
跡部が、同学年に「困った奴がいる」なんてボヤいとったけど、クラス替えしてすぐに彼女の事やと分かった。
授業はすぐサボるし、基準服も着崩す。ネイルやって、いつもキラキラしとって、メイクにも手は抜かへん。
大声でゲラゲラ笑う姿は、悪い意味やのぉて氷帝には不釣り合いやった。
その、不釣り合いさやギャップがたまらないというお坊ちゃんも多い。
「で、忍足は待ち合わせ?デートとか」
にやり、と笑う水無月さん。
エキゾチックな、彼女に似合う笑い方やと思う。
「ちゃうわ」
「ちぇー。忍足って、女泣かせなんでしょ?」
「は?なんやねんそれ」
「ありゃ?違う?」
俺の知らんとこで、変な噂広まるなや。
「今朝も非常階段のとこで、下級生泣かせたって聞いたけど」
「そんなわけある、な」
「あるんじゃん」
「あるけど、告白を断っただけやん」
「なんで?」
「初めて会うた子といきなり付き合えるか」
「そういうの、いけそうなのに」
「勝手に決めんなや」と反論したところで、足音が聞こえた。
「水無月!なんで、ここに居んだよ」
「よーっす、向日。迎えに来てやったぞ」
「迎えに来た、ってなんだよ。教室行ったのに居ないしよ」
「そりゃすれ違い。ごめんね」
戻ってきた岳人に、水無月さんが何かを手渡す。
「それ、続きで合ってるよね」
「ん?大丈夫だぜ」
確認のために岳人が袋から出したのは、数冊の漫画本。
「つーか、お前ら知り合いだったのかよ」
「マブダチー」
「なんだよ、マブダチって」
「向日、マブダチ知らないの?」
「そうじゃねぇよ」
そんな、やりとりをしながら水無月さんは立ち上がる。
いや、俺ら知らん間にマブダチなっとったんやな。
「じゃーねー。返すの、いつでもいいから」
ヒラヒラと手を振って、水無月さんはサロンを出て行く。
「俺らも帰ろか」
「で、結局、お前らはどういう関係なんだよ」
「どういうって...、マブダチやで」
(氷帝の異端児とかいうベタ設定)
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