高嶺の花とナスカレー



友人から、気になる人がいる。と言われた。
「へー、そう」と、適当に返事をしたら「友達なんだからもっと、関心持てよ!」などと怒られたが、オレからすればそんなことはどうでもいい。

「あーっ!ほら、あの人。見て、いや、見ろって!」

食堂で昼飯を食ってる最中に、こいつは突然声をあげて券売機の方を指差す。
あの人って、どの人だ?と思ったが、そういえば気になる人がいるとか言ってたな。それか。と自己解決してから、オレの昼飯を中断させた馬鹿が指差す方向に顔を向ける。
C級隊員がわらわらといる中で1人目立つ女子、個人総合ランク上位のアタッカー、水無月さんの姿があった。

「まさかだけど、水無月さんは高嶺の花過ぎじゃねぇか?」
「えっ、知り合いなのか!?」
「いや、お前の方が知らないのかよ」

友人に呆れつつ、オレは水無月さんの行動を眺める。
個人総合ランク上位の女子も、食堂で普通に昼飯食うんだな...って、どう考えても偏見が過ぎるな。これは。

「なぁ、じゃあ、隣にいる奴は知ってる?」

何を食べるのか、決めたのであろう水無月さんが財布を覗いている間に、彼女の横にいた男が紙幣を券売機に滑り込ませた。
そして、赤いランプが点いたボタンを押す。
此処から、券売機までそこそこ距離はあるし、昼時で人も多いのに水無月さんのであろう「えっ、ちょっと!」という声がオレの耳にまで届いた。
彼女のことが気になるという、友人の目にはどう見えているかは知らないが、どう見てもリア充じゃねえか。滅びろ。

「B級上位隊の生駒。てか、お前本当に知らないのかよ」

友人はへらりと笑うが、有名な上位隊員の顔も知らずにボーダー隊員だなんてこいつ、個人ランク戦とかB級ランク戦とか全くみてないのか?と不安になる。
せめて、生駒の方は同じB級なんだ。覚えてくれ。あいつらが上位にいる限り、ランク戦で当たるなんてこと当分ないけど。

「生駒...生駒...」と思い出そうと呟く友人に「同じ大学の同級生だぞ」と助け舟を出す。学部は違うけど。

一方、あっちのふたりはというと、もう声は聞こえないものの、受け取り口へ向かう水無月さんが生駒に対して何かを訴えているように見える。

「うーん、思い出せないや。でもまぁ、水無月さん?は今日もかわいいな」

本当に、こいつの頭はポンコツすぎやしないかと、心配になりながらラーメンをすする。

「あのふたり、何を話しているんだろう...?仲いいのかな。てか、おれ今彼女の名前を知ったと同時に失恋した?」
「知らん」

友人の事を適当にあしらいながら、受け取り口を見ると水無月さんがまだ、生駒に対して何かを訴えているように見える。
一方、生駒の方は相変わらずの表情で彼女が何を言おうともどこ吹く風といった様子だ。
時折、頷いたり返事をしている感じ、ちゃんと聞いてはいるみたいだが。
少しして、おばちゃんがふたりのトレーにそれぞれカレー皿をのせる。
券売機の時点で察していたけれど、やっぱり同じもの食うのかよ。此処までくると、本当にリア充なんじゃないか?

ラーメンも食べ終え、片付けの為に立ち上がろうとすると、友人に腕を引かれバランスを崩し、オレは再度椅子に座る。

「いや、まだだ。もう少し、彼女を見ていたい」

知るか。オレがラーメンはスープまで飲む派でよかったな。残ってたら溢れていたぞ。てか、まだ見てたいって変態か。腕が痛いんだが?後で覚えていろよ。蜂の巣にしてやる。と、言う。
が、友人は水無月さんに釘付けで聞いちゃいない。
マジで、個人戦で木っ端微塵にしてやるからな。


(えっ、ちょっと!奢ってくれるのは嬉しいけど、ナスカレーはないでしょ!?ナス嫌いなのに!)
(いや、ナスカレーはウマいからいっぺん食うてみって)






(食堂のカレーってなんか美味しい)






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