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草木を掻き分けて出てきたのは、まだ幼い顔立ちの男の子三人組。ふわふわした茶髪の眼鏡の男の子と、猫目の大きな瞳の男の子、二人に比べて背が低くふくよかな体型の男の子。その三人が利吉さんの姿を見て此方に駆け寄ってくるのを見つめながら、私はキョトリと首を傾げた。利吉さんはこの三人と知り合いなのだろうか。

「利吉さ〜ん!お久しぶりです!」
「今日も山田先生の所に奥さんの伝言を伝えに来たんスかぁ?」
「毎回大変だね〜。」
「あ、あぁ、久しぶりだな。いや今日はそうじゃなくて…、じゃない!お前達、何でこんな所に…。」

「「「…あ゙、」」」

「『……?』」

嬉しそうに話し掛けてきた三人組は利吉さんにそう問われると、ハタッと固まった。その様子を不思議に思っていると、再び三人組が出てきた場所から何かが複数飛び出してくるのが分かった。その飛び出してきた何かを目にした途端、私達は目を見開いてしまった。そしてそれと同時に、三人組の男の子達は揃って声を上げた。

「見つけたぞ、餓鬼共!!」

「「「そうだった!!山賊に追われてるんだったーーー!!!!」」」


「はあぁっ!?」
『(ぇえええっ!?)』

そんな大事な事、忘れるものだろうか。それ程利吉さんに会えた事が嬉しかったのかな。よく分からないけれど、とにかく今はかなり危ない状況なのにはかわりない。ぐっと身構えるように身体に力を込めて警戒すれば、利吉さんが再び私を背に庇う。

「ったく、お前達はホント面倒事を運んでくるな…!」
「「「ごめんなさ〜い!!!」」」
「はぁ…お前達は花ちゃん、彼女と一緒に下がってろ!」
「「「はい!」」」

この場に似合わず元気な声で揃って返事をすると、男の子達は私の元へと駆け寄ってきてそっと腕を引いた。

「お姉さん、こっち!」
「少し離れないと、利吉さんの邪魔になるから。」
『(え、あ…うん、そうだね。)』
「………?お姉さん、何で喋らないの?」
『(!…あ、これは…。)』
「あ、もしかして怖くて声が出ないんじゃない?」
「そうなの?大丈夫だよ、お姉さん!利吉さんがあっという間にあいつら片付けてくれるから!」
「それに、俺達も付いてますから!」
『(……えっと、ありがとう…。)』

ニコッと笑顔を浮かべて私を気遣ってくれた三人に、私も小さく微笑み返す。声の事を別の意味で勘違いしているみたいだが、今はそれを訂正する暇はない。落ち着いてから話せばいいだろうと思考を切り替えて、私は利吉さんの方へと視線を移す。彼は山賊を三人も相手にしながらも、状況は圧倒的に利吉さんの方が押しているようだ。その様子を見て、これなら直ぐに片付くだろうと私は安堵の息を漏らす。
そしてふと、そう言えば何故、この三人は山賊に追われていたのだろうかと疑問が浮かぶ。どんな経緯でこうなってしまったのか気になった私は、隣にいた猫目の男の子へと顔を向けた。

『(――!!!)』
「………? お姉さん?」

その瞬間、私は男の子の後ろに大きな人影が迫ってきていた事に気付いた。どうやら他にもまだ山賊は残っていたようで、その山賊は刀を高く振りかぶって此方へ近付いてくる。私は男の子に後ろの山賊の事を必死で伝えたが、やはり声が出ないせいか男の子はただ不思議そうに首を傾げている。

『(どうしよう…!!?)』

そう思っている間にも山賊は既に男の子の背後まで迫ってきていて、山賊は更に刀を高く振り上げた。

「死ねぇ、餓鬼っ!!」

「なっ!? ぅ、わあぁぁあっ!!!」

「!!? きりちゃんっ!!!!」
「きり丸っ!!!!」
「なっ!? しまっ…!!!!」




「うわあぁぁああっっ!!!!!!」




『(―――っ!! いや…っ!!!!)』

その光景が、あの日の光景と重なって見えて私は声を上げた。そして気付けば私は、その男の子を庇うように抱き締めていた。

その時はもう、無我夢中だった。

ただただ、あの時のように目の前で誰かが傷付けられて――殺されてしまうのが恐ろしかった。怖くて恐くて、ただその恐怖に脅えて無意識に身体を突き動かしていた。


『(あ゙あぁあっ…、…っ!!!!)』


「……お姉…さん……?」

『(―――っ、だ、いじょ…ぶ…っ…。)』

私の腕の中で元々大きかったその瞳を更に大きく見開いて、男の子は小さく声を溢した。ゆらゆらと揺れているようなその瞳に、私は安心させるように言葉を紡ぐ。けれど、恐らく分からないだろうから私はニコリと微笑んで見せた。ドクドクと溢れ出す血液と焼けるような痛みに気付かない振りをして、私はもう一度男の子を守るようにギュッと抱き締めた。でも直ぐに、私は身体中から力が抜けていくような感覚に陥り、力なく私は地面へと倒れ込んだ。

「っ!!! お、お姉さんっ!!!お姉さんっ!!!!」
「「お姉さんっ!!?」」
「花ちゃんっ!!!」

ドサッと自身が倒れ込む音を聞きながら、私はぼんやりと投げ出された腕を見つめる。次第に瞼が重たく感じてきて、意識までもが遠退いていくのが分かった。やけに遠くで皆が私を呼ぶ声がしていたけれど、それすらもプツリと、意識と共に途切れていった。



end.

−−−−−−−−
花ちゃーーーんっ!!!!!
誰かーー!!!
誰か救急車呼んでーーー!!!!