(1/1)




「お姉さん!大丈夫で「もう起きてて平「怪我…!怪我はどうなんですか!?やっぱりまだ、痛「気なんですか!?」

『(……ぁ…、えっと………。)』

男の子達の登場に私がきょとりと目を瞬かせていたら、三人は一気に私の側まで近付くと心配そうな表情で聞いてきた。だが三人とも同時に言葉を発していた為、誰が何を言っているのかちゃんと聞き取れなかった。その表情から私の事を案じてくれているのだろうとは予想はつくのだが、如何せん内容が理解出来ない。思わず苦笑を溢し戸惑っていれば、流石に見ていられなかったのか利吉さんと茶髪の男性が男の子達を私から引き剥がしてくれた。

「こらお前等、落ち着け。一人ずつ話しなさい。」
「まだ彼女は目覚めばかりなんだから、一斉に話し掛けないの!」
「「「あ、ご、ごめんなさい!」」」

そこまで強くはないものの、二人に注意を受けてハッとした男の子達は慌てて私に謝ってきた。叱られた事にしゅんと落ち込んだ様子を見せる三人に、私は何だか笑みが溢れた。そして気にしていない事と、寧ろその気持ちは嬉しかった事を伝える為に私は三人の頭を順に撫で微笑んで見せた。私の笑みを見て平気だと言う事が分かったのか、少しホッとした様子で三人は顔を明るくした。

「良かった…お姉さんが目を覚まして…。」
「僕達、ずっと心配で心配で…。」
『(………、ごめんなさい。それから、ありがとう。)』

眼鏡を掛けた男の子と背の低い男の子の言葉を聞いて、私は少し眉を下げながら謝罪と感謝の言葉を口にした。しかし男の子達から見れば、私はただ口をパクパクと動かしているだけであるから、二人は不思議そうに此方を見つめている。一人喋らずにそんな私の事をじっと見つめていた猫目の男の子が、ポツリと当然な疑問を投げ掛けてきた。

「…ねぇお姉さん、何で声、出さないんスか?」
『(!ぇ…あ、そっか…。)』
「まだ怖さが抜けないんですか?大丈夫ですよ、お姉さん!もう此処に居れば山賊に遭う事はないですから!」
「そうですよ!忍術学園に居れば安心です!」
『(ゃ、あの、違くて………って、え…?)』
「先輩達も居ますし、何より先生も沢山居ますから!…………?、お姉さん?」
『(ぇ、……え?)』

再び声の事を勘違いされ本当の理由を説明しようと口を開き掛けた私は、男の子達のある言葉に驚いて固まってしまった。今、聞き間違いでなければこの子達が発した言葉の中に、私が目指していた場所の名前が混じっていた筈だ。というよりも、今の発言は間違いなく既に此処が忍術学園であるようだった。なるべく頭の中を整理していくが、やはりそれでも私は若干混乱しているようで助けを求める、というよりは確認するかのように利吉さんへと顔を向けた。すると利吉さんは、肯定するように一度だけ頷いて見せた。

「此処は忍術学園、花ちゃんが気を失っている間に此処へ連れて来たんだよ。」
『(そうだったんですか…。…あ、じゃあこの子達は此処の生徒さんだったんですね。)』
「そう、此方の二人も学園の方達なんだ。新野先生と善法寺くんのお陰で、君を助ける事が出来たんだよ。」
『(ぁ、…あの、助けて頂き本当にありがとうございます…!!)』

ペコリと頭を下げて感謝の言葉を二人に告げると、少しだけ目をキョトリと瞬かせるもすぐに優しく微笑んでくれた。それに少しホッとしていると、私の側に居た男の子達が不思議そうな顔で私と利吉さんを見つめていた。

「利吉さん、お姉さんが言いたい事が分かるんですか!?」
「ん?あぁ、彼女の口の動きを読んでいるからね。」
「えー、凄い!僕達もお姉さんと話してみたいです!」
「君達はまだ一年生だから、読唇術を得るのは当分先だな。」
「そんな〜!」
「ねぇねぇお姉さん、声はまだ出せませんか?」
『(……ぇ、と……ごめんね。)』
「?えーと…?」
「“ごめんね”と、彼女は言ったんだよ。」
「え、何で謝るんですか?僕達別に、責めたりとかしてる訳じゃ…。」

純粋に私と話してみたいと言ってくれた男の子達の瞳に、私は胸が痛んで申し訳なく思った。私の言葉を聞いた男の子達は少し困惑したようにオロオロとし始め、その様子を見た利吉さんが私の方を一瞥した。その視線の意図を何となく感じ取った私は、利吉さんに向けてコクリと頷く。それを確認した彼は、視線を男の子達へと戻すと口を開いた。

「彼女は、声が出せないんだ。」
「え…?どういう事ですか?」
「まさか、あの山賊にやられた怪我のせいですか!?」

利吉さんが一言そう発すると、男の子達はキョトリと首を傾げる。けれど、猫目の男の子だけは何故か辛そうな表情で、とても焦った様子で利吉さんに食い付いた。それに一瞬驚くも、利吉さんは直ぐに猫目の男の子を落ち着かせながら説明をしだした。

「落ち着け、きり丸。その怪我のせいじゃない。それ以前に彼女は既に声が出せなかったんだ。」
「そ、なんスか…?じゃあお姉さんは、元から声は出せないんスか?」
「いや…少し前までは普通に話せていたそうだ。…とあるショックで、彼女は声を出せなくなってしまったんだよ。」
「ショック…?」
「……戦でね、彼女の村は巻き込まれて全てを失ったんだ。その時のショックが原因で、声までも失ってしまったんだ。」
「「「!!!!!」」」

声を失った原因を言うべきか躊躇いを見せた利吉さんは、大丈夫だと口にした私を見て再び言葉を紡いだ。そして本当の理由を知らされた男の子達は目を見開いて、私を振り返った。白い服の、恐らく校医であろう先生と茶髪の男性は、ほんの一瞬目を見開くもそれは直ぐに真剣な眼差しへと戻った。驚いた様子を見せた男の子達は、その後直ぐに私の元へと近寄ると慌てたように声を掛けてきた。

「あ、あの!お姉さん、ごめんなさい!わたし達、凄く無神経な事を言ってしまって…!」
「「「本当にごめんなさい!!!」」」
『(え!? ぁ、えっと…私は別に、気にしてないから…。)』
「“私は別に気にしてないから”って、彼女は言ってるよ。」
「で、でも…!」
『(…私は嬉しかったよ?私と話してみたいと言ってくれた事。その気持ちが、私は凄く嬉しかった。だから、謝らないでほしいな。)』

少し落ち込んだ表情を浮かべる男の子達に、私はそう思った事を素直に伝えた。それを利吉さんが代わりに伝えてくれると、男の子達はそっと私の顔を窺うように見上げてきた。それに私は微笑んで見せると、男の子達は漸くその表情を和らげてくれた。
その表情に安堵していると、不意に何処からか小さな玉のような物が室内に転がってきた。コロコロと音を鳴らして転がる玉に気付いた瞬間、突如それはボンッと激しい音を起てて室内を一気に煙で充満にさせた。それに驚き煙に噎せていると、その煙の中からも誰かが噎せているのが分かった。そして次第に視界が開けてくると、先程までは居なかった筈の一人の老人がそこに居て私は再び驚いてしまった。

「ゲホッホッホッ…!あー、ゴホンッ!ふむ…目が覚めたようじゃの!」
『(………ぇ、と……?)』
「ちょっ!学園長先生っ!もっと普通に入ってきて下さい!彼女はまだ目覚めたばかりなんですからっ!!」
「おー、すまんすまん。じゃが普通に登場しても面白くないじゃろう?」
「面白くなくて結構ですから!!」
「なんじゃ、つまらんのう。」

『(……………ぇ?今……。)』

茶髪の男性が慌てたように突如現れた老人を咎め出す。けれど私は、茶髪の男性が発した言葉が気になり目を瞬かせた。
今、彼が言った言葉が聞き間違いでなければ、このご老人は…。

「おっと、そうじゃ。挨拶をまだしとらんかったの。ワシの名は大川平次渦正、この忍術学園の学園長じゃ!」

『(………ぇえっ!!?)』

ドーンと効果音が付きそうなくらい堂々とした態度で放たれた言葉は、やはり聞き間違いではなかったようだ。突然のこの学園の長の登場に戸惑っていると、学園長先生は更に私を驚かせるような言葉をあっさりと言い放った。

「そしてお主をたった今から、この忍術学園の事務員として認定する!!!」

『(――ぇえええっ!!!?)』

学園先生のそんな言葉に、私だけでなくこの場にいる全員が驚いて目を見開いてしまったのは、仕方ない事だと思えた。


end.