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「失礼します。」

スッと静かに開かれた襖に気付き顔だけ振り向けば、そこには委員会の後輩の姿があった。

『おや、庄ちゃんじゃないか。どうしたんだい?』

今日は特に委員会活動はない筈なのだが、何故か委員会部屋に訪れてきた後輩に私は首を傾げる。

「資料を纏め終わりましたので、名前先輩に確認して戴こうと思いお持ちしました。」
『資料?…あぁ、先日の。何だい、もう仕上げたのか。仕事が早いねぇ。』

一つ下の奴等はまだ手すらつけていないと言うのにな、笑いながらそう溢しつつ私は庄ちゃんから資料を受け取る。ざっと素早く目を通すと、私は手元にある印を軽く押した。

『上出来だよ、ご苦労様。けれど何でまた今日持って来たんだい?明日委員会があるのだから、その時にでも出せば良かっただろうに。』
「いえ、今日じゃなきゃ駄目なんです。」
『うん?庄ちゃん、明日用事でも出来たのかい?』
「いえ、そうじゃなくて…名前先輩は今日、絶対委員会部屋に居るだろうと思いまして…。」
『…うん?』

確かに私は委員会前日、一人委員会部屋へと訪れる事が多いが、それが何だと言うのだろうか。いまいち理由を掴みかねていると、庄ちゃんは私の横へ来てちょんと正座をした。

「名前先輩はいつも一人で、先に委員会の仕事を殆ど片付けてしまうので、お手伝いに来たんです。」
『…あらら、気付かれてたの。』
「皆知っていますよ、鉢屋先輩と尾浜先輩が教えて下さいました。」
『やっぱり?時々、妙に量が減ってる時があったから、何となくそうだろうなとは思っていたが…全くあいつら…。』

こっそり仕事を手伝う二人の姿を思い浮かべつ、私はつい苦笑してしまう。大方、私の事を気遣ってくれているのだろう。だがそれでも大抵は私が資料を自室に持ち込んでしまう事が多いから、殆ど手伝える機会は少ないだろう。あいつらも、くのたまの敷地内に入ってまで仕事を盗る勇気はないだろうからな。

「それは先輩にも言える事ですよ!特に先輩は、一人で仕事を片付けようとするじゃないですか。何故、僕達にはやらせてくれないのですか。」
『うーん…。』

何故、と聞かれて私は返答に詰まった。
別に言えない訳でも、言いにくい訳でもないのだが、何となく躊躇ってしまう。それほど理由は下らないし、それこそ私個人の勝手な行動だからなぁ。

「…僕達は、そんなに頼りないですか?」
『…え?』

ぼんやりと考え込んでいれば、不意に庄ちゃんの小さな声が耳に届いた。紡がれた言葉と少し沈んだような声色に、私は思わず目を丸くさせる。

「確かに、僕と彦四郎はまだ一年生で出来ることは少ないですけど、それでも、少しでも何か手伝いたいんです。」
『…庄ちゃん…。』
「僕達は、名前先輩の役に立ちたいんです。だから、」
『庄ちゃん。』

顔を俯かせて膝の上で拳をキュッと握り締める庄ちゃんの姿に、私はそっと声を掛ける。それでも顔を上げない庄ちゃんに小さく微笑むと、私はポンとその頭に優しく手を置いた。

『庄ちゃん、ごめんね。私は別に、君達が頼りなくて一人でやってる訳じゃないんだよ。どうやら誤解させてしまったようだね。』
「…じゃあ、何故…。」
『それは私が、皆ともっとお話をしたかったからなんだよ。』

そう私が理由を口にすれば、今度は庄ちゃんがきょとんと目を丸くさせる番だった。それに私はハハハ、と苦笑を溢しながら頬を掻く。

『まぁ、正確に言うと、私と鉢屋と尾浜が、一年生ともっと交流を深められるように、と言う考えなんだ。』
「先輩達と、僕達の…?」

小さく首を傾げる庄ちゃんに私は頷く。

『知っての通り、庄ちゃん達が入ってくるまでは、私と鉢屋達の三人だけだった。私が四年に上がると同時に、当時所属していた先輩方は皆卒業されてしまって、それから二年も後輩が一人も入って来なかったんだ。だから後輩が入るのは本当に久方ぶりでね。特に、鉢屋達にとっては初めての後輩になるもんだから、つい時間を作ろうと仕事に手を付けてしまったんだよ。』

苦笑混じりで説明すれば、庄ちゃんは少しの間目をパチパチとさせていた。

『まぁ要するに、これは私の勝手なお節介からの行動なんだ。』
「…そうだったんですか…。」
『誤解させてごめんね、庄ちゃん。』
「いえ、理由が知れたので嬉しいです。それに、尚更お手伝いしたい気持ちになりました!」
『お?』
「名前先輩、良いですか?」
『構わないが…庄ちゃん、友達と遊ばないのかい?せっかくの休みなのに。』
「皆予定があると言っていましたし、僕は今お手伝いがしたいんです。それに、名前先輩ともっと一緒に居たいですから。」
『あらら、そりゃ嬉しい事を言うじゃないか。それじゃ、お言葉に甘えようかな?』
「はい!任せて下さい!」

元気な庄ちゃんの返事にクスリと笑いながら、私は簡単な仕事を渡す。それを受け取った庄ちゃんは、見るからにやる気十分な様子で資料を書き始め、その姿に私はもう一度小さく笑ってしまった。

『今日は庄ちゃんのお陰で早く片が付きそうだ。…あぁ、そうだ。庄ちゃん、お団子は好きかい?良ければこれを終えたら、一緒に甘味処へ行こうか。』
「!はい、名前先輩と行きたいです!」
『ふふ、では頑張ろうか。』

お互いにこの後の事を思い浮かべて微笑み合いながら、私達は早速資料へと向き直った。

あぁ、凄く楽しみだ。







―卒業までの限りある時間を

可愛い後輩と共に…――






(今日の茶請けはこの団子を食べるといい。)
勘(え、この団子って今人気のある甘味処のじゃないですか!)
彦(どうしたんですか、これ。)
(何、昨日庄ちゃんと出掛けてな。その土産だ。)
三(いつの間に…。)
庄(先輩のオススメなだけあって、どれも凄く美味しいですよ。)
(((……何か、狡いなぁ……。)))


end.