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『留三郎さん、いらっしゃい!』

店先に見えた一人の青年の姿に、名前は笑顔で出迎える。留三郎もそんな彼女に笑みを浮かべ、何時もの席に腰を降ろして団子を注文した。店の奥へと引っ込んでいく彼女の背を見送り、留三郎は店内を見渡す。
山の少し入り組んだ場所に位置するここ、甘味処は場所が場所なだけに客入りは何時も少ない。しかもここに来る人は皆常連客ばかりで、滅多に他所からの客は入っては来ない。俺もしんべヱの紹介がなければ、一生知る事はなかっただろう。
それに、彼女とも出逢えなかったかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えていれば、注文した団子を手に彼女がやって来た。

『お待たせしました。…あの、』
「ん?」
『私もご一緒に良いですか?店長さんから休憩を頂いたので…。』
「あぁ、全然構わないぜ。寧ろ話し相手がいなくて、頼もうかと思ってたとこだ。」
『本当ですか?ありがとうございます!』

ホッとしたように笑う彼女の笑顔を見つめ、素直に可愛いなと思う。俺より二つ年下の彼女は、まだ少し幼さを含んだ顔立ちをしているから、そう感じたのかもしれない。だがやはり、何よりも俺が彼女に惚れている事が一番の要因だと思う。
初めて此処へ来た時、俺は彼女の笑顔に、所詮一目惚れと言うヤツをした。
それから何度か、時間を見つけては此処へ赴き彼女との会話を楽しんだ。ただ軽く話すだけで、別にアタックをしているつもりではなかったが、嬉しい事に彼女も俺に好意を抱いてくれていたのだとこの前知った。まさか、彼女から告白されるとは思わなくて、その時俺は滅茶苦茶嬉しかったのを覚えてる。あまりの嬉しさに、返事も忘れ思わず抱き締めてしまったくらいだ。
今思い出しても、それは駄目だろうと自分の行為に恥ずかしくなる。
あ、やばい。今俺顔あけーかも。

『? 留三郎さん、どうしました?』
「あぁいや、何でもない。」

若干赤いだろう顔を隠す為少し顔を背ければ、彼女は不思議そうに俺を見つめた。すぐに平常心に戻すと、俺は笑いながら彼女に話し掛ける。

「次の休みって、何か予定入ってるか?」
『いえ、何もありませんよ。』
「なら、何処か出掛けないか?」
『わ、本当ですか!?是非!』

ぱあっと嬉しそうに顔を変え目を輝かせる彼女に笑いながら、俺は何処に行きたいのかを訊ねた。彼女は少し考える素振りをしてから、では町に、と答えた。

「町か。そういや新しく甘味処が出来たって聞いたぜ。行ってみるか?」
『はい!この間お客さんから聞いて、行ってみたいと思ってたんです!なんでも、見た目がとても色鮮やかな甘味だとか…味も美味しいと評判らしいですよ。』
「へぇ…詳しいな。流石、甘いものが好きで、それで甘味処で働こうとしただけはあるな。」
『う…だって好きなんですもん。』

俺がからかうように言えば、彼女は少し恥ずかしそうに目を逸らして呟いた。それにバレぬよう小さく笑いながら、俺は更に彼女をからかってみる。

「そうだよな。お前甘味の話になると、分かりやすく目を輝やかすくらいだからなあ?」
『い、いいじゃないですか…!別に…。』
「ははっ、拗ねるなよ。」

悪かった悪かった、と軽く言いながらポンと頭を撫でつけて彼女の機嫌を宥める。大人しく撫でられ続ける彼女の顔は、ほんのりと赤く染まっていた。

『…っ、と、留三郎さん、早くお団子食べないと固くなってしまいますよ!』
「ん、あぁそうだな。」

恥ずかしさを誤魔化す為か、彼女は話を逸らして俺に団子を食べるように進める。それに頷き、俺は団子を一本口へと運ぶ。
俺が団子を食べている間、彼女はチラリと俺の方を何度か見てきては視線を逸らし、何処と無くそわそわとしていた。

「どうした?」
『え、いえ…その……、』
「あぁ、もしかして食いてぇのか?ならほら。」
『ち、違いますよ!あの、そういう訳じゃなくて…。』
「…?何だ?」

団子を一本彼女の口元へと向けると、顔を更に真っ赤にして首を素早く横に振った。じゃあ何だ?と見つめれば、彼女は小さな声で問い掛けきた。

『あの…お、お味は如何ですか?』
「? 美味いぜ、やっぱ此処の甘味は味がいいよな。」
『そ、うですか…。』
「あぁけど、何か今日の味は何時もと違う気がするんだよな…。」
『えっ…。もしかして味が薄いとか…?』
「いや、薄い訳じゃねーけど…なんつーか、何時もより甘さが柔らかい?感じがするな…。控えめな感じか。」

此処の甘味は全体的に他よりは甘さは弱めだが、今日のは一段と控えめな甘さを感じた。ほんのりと残る甘さはしつこくなくて、物凄く俺好みの味だ。
そう思った事を口にすれば、彼女はホッとした表情をしていた。

『良かった…上手く出来た…。』
「…え、まさかお前が作ったのか?」
『はい。以前、留三郎さんが甘みの強いのは苦手だとおっしゃってたので、色々と試してみたんです。それで、上手く出来たものを出してみました。』

甘さの加減が難しくて、と小さく笑う彼女に俺は目を瞬かせた。まさか俺の為に団子を作っていたとは知りもしなくて、何だか凄く胸が温かくなっていくのを感じた。
俺は嬉しくて口元を緩めると、団子を手に持ちそれを彼女の口へと放り込んだ。不意をつかれた彼女はびっくりしていて、俺は笑いながら言った。

「ご褒美。俺の為にありがとな。」
『…、…いきなり口に入れないで下さいよ。びっくりしました。』
「悪い、嬉しくてついな。」
『せっかく留三郎さんの為に作ったのに、私が食べたら意味ないじゃないですか。』
「どうだ、味は。やっぱお前だと甘みが足りないか?」
『…そんな事ないです。留三郎さんと一緒にいれば、どんなものでも甘く感じますから。』
「…おま、言った後にそんなに顔、真っ赤にするくらいなら言わなきゃいいだろ…。」
『〜〜っ、ほ、放って置いて下さい…!自分でも思ってますから…っ!』

うー、と恥ずかしくて唸る彼女に思わず顔がにやける。
ホント、可愛いヤツだな。

「甘過ぎるのはどうも苦手だが、こういう甘さは嫌いじゃねーな。」
『…?』

呟くように言えば、彼女は顔を赤くしたまま不思議そうに俺を見つめてくる。そんな彼女に俺は目を細め、愛おしげに微笑みながらこう口を開いた。

「俺も、名前と一緒に居るとなんでも甘く感じちまうって事だ。一緒だな、俺達。」

そう言えば、彼女は一瞬目を丸くして、けど直ぐに赤らめた顔のまま、ふにゃりと照れ臭そうにはにかんでみせた。






――貴方(貴女)が居れば

それは何時でも甘い一時…







(それじゃ、次の休みな。)
(はい!楽しみにし…っ!?)
(じゃ、またな。)
(なっ…え…!?(く、口吸いされた…!?))
((…やべ、俺今顔あけーな絶対。))


end.

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留三郎お前店内で何してんだよ(笑)
少しは自重しろ、場所を考えろ。