第二話

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「そう言えば、山川さんは能力別クラス何処なの?」

転入から六日目の土曜日、登校して来た私が席に着くと、パートナーの心読みくんがそんな事を聞いてきた。(因みに何故か名前を教えてくれないので、皆が言っていたあだ名で呼んでいる)

『能力別クラス?』
「うん、あれ、先生から聞いてない?」
『ぇと…潜在系とか、技術系って呼ばれてるクラスの事、だっけ…?』
「そうそう、それ。何系なの?」
『確か…特別能力系クラスって言われたよ…。』
「特力かー、残念。違うクラスだねー。」
『えっ……心読みくんは何処なの…?』
「僕は潜在系だよー。」
『…そうなんだ……。』

心読みくんと能力別クラスが違った事に、私は少なからずショックを受ける。まだ一週間程しか共にいないけれど、他の人と比べればやはり彼と一緒にいる方が安心するし緊張もしにくくなる。だからこれから初めて行く場所も彼と一緒なら大丈夫だと思っていたのだが、そうもいかなくなってしまったらしい。知らない場所へ一人で行くには、人見知りの気がある私には辛いものがある。一気に不安に押し潰されて落ち込んだ私を見て、心読みくんは優しく励ましてくれた。

「大丈夫だよー、山川さんならすぐに馴染めると思うよ。」
『…そうかな……。』
「山川さんいい子だし、可愛いからいけるよー。」
『ぇ…っ!?』

不意にそんな事を言われてびっくりすると、思わず顔を赤く染めた。そんな私の様子を見て心読みくんはからかうように笑い出す。

「あはは、顔真っ赤だー!可愛いー。」
『…っ、うぅ…か、からかわない、でよ……っ。』

お世辞でも慣れていない言葉に反応してしまった自分が恥ずかしくて、つい顔を下に向けてしまう。その間も心読みくんは笑いながら軽く謝って、私の頭を数回撫でてきた。それにまた少し顔を赤く染めれば再び彼がからかって来て、飛田くんが助けてくれるまで数回同じ事を繰り返した。
赤くなっていた頬が漸く引いた頃、後ろからトントンと弱く肩を誰かに叩かれた。それに振り返ると、真っ白なお面が特徴的な星野くん、皆からはほっしゃんと呼ばれている彼が立っていた。

「(あの、山川さん。僕も特力系なんだ。良かったら、一緒に行こう?)」
「あ、そっか。星野くんも特力系だったよね。」
『ぇ…、い、いいの…?』
「(うん。勿論だよ。)」

星野くんは手に持っている紙に文字を書くと、私を能力別クラスに誘ってくれた。
彼は「天候のアリス」を持っていて、感情面がアリスに影響しやすく、何時もアリス制御面である白いお面を着用している。アリスのせいで常に感情が現れるお陰か普段から喋る必要がなく、話す時は紙に書いて会話を交わしていた。
そんな彼と一緒に能力別クラスまで移動すると、少しだけ待っていてと言われ扉の前に一人残された。星野くんが中へと入ってから数秒後、再び出てきた彼に扉を開けるように促された。それに不思議に思いつつも、ドキドキと緊張で高鳴る胸を抑えながら私はゆっくりと扉に手を掛けた。そっと、恐る恐る扉を押し開けた瞬間、パンッパンッと小気味の良い音が沢山聞こえて来て、私は反射的に体を身構えた。そしてその直後に飛び込んで来た光景を目にして、私は目を丸く見開いた。

「「「ようこそ!!特力へ!!」」」

部屋の中を見渡せば、沢山の人達が笑顔で私を出迎えてくれていた。先程の小気味の良い音はクラッカーの音だったようで、あちこちに紙吹雪が散らかっている。突然の出来事でただポカンとする事しか出来ずにいると、そんな私を見かねてか誰かが軽く私の腕を引いた。

『ぇ…と、』
「うおー、ちっこい子が入ったー!」
「可愛いー!おいでおいでー!」
「あはは!固まっちゃってるよー!」
『ぇ?? …ぁ、え…??』

引かれるがままに中央へと進めば、すれ違い様に色んな人達に話し掛けられる。先程驚いたせいか緊張は解れていたが、やはり人見知り故に中々言葉が出てこない。それに一度に沢山の声を掛けられて、どうすればいいのか戸惑っていると、不意に上から私を気遣う声が掛けられた。

「大丈夫かーおちび。」
『あ、あの…?』
「びっくりしたか?特力にお前が入るって聞いて、サプライズしたんだ。」

その声の主を見上げれば、どうやら私の腕を引いてくれた人だったようで、その人は楽しそうにニッと笑ってみせた。左頬に小さく星のペイント?のようなものを描いており、白いニット帽を被った男の人は、制服からして中等部の先輩のようだ。私はその先輩を見上げながら、小さく首を傾げつつ戸惑いがちに口を開く。

『ぁ…あの…?』
「あぁ、俺は安藤 翼。アリスは影使い、よろしくな。」
「あたしは原田 美咲!ドッペルゲンガーのアリスだよ、よろしくな!」
「俺は殿内 明良、増幅のアリスだ。よろしくなチビちゃん。」
「初めまして山川さん、私は特力系担任の野田と言います。これからよろしくお願いしますね。」
『ぇ、ぁ…わ、たしは、山川 花、です…。ぇと、守護のアリス、を持ってます…。』

いつの間にか私の側に集まってきた先輩達が自己紹介をしてくれて、私も慌てて挨拶を返した。
淡く赤い綺麗な髪と瞳をした美人な原田先輩、サラリと真っ直ぐで長い黒髪の殿内先輩、そして柔らかい声と優しげな雰囲気が似合う野田先生。
皆それぞれ個性的で、とても整った顔立ちをしているせいか、私はまた少しずつ緊張し始めていた。

「守護のアリス…こりゃまた珍しいアリスだなー。」
『は、はい…。』
「あはは、緊張してんのか?だーいじょうぶだよ。此処の奴等は皆面白いヤツばっかだからさ!」
「そーそ!それに俺達のクラスは他より仲間意識が強いんだぜー、家族みたいなもんさ!」
『か、ぞく…?』

緊張していた事を見抜かれてちょっとだけ顔を赤くしていると、メガネを掛けた男の先輩が笑顔でそう言った。その言葉にキョトリと私が首を傾げると、原田先輩が嬉しそうに頷いていた。

「そ!あたし達アリスはさ、卒業まで此処を出れないし、当然外にいる家族には会えないだろ?他にも、色んな事情を抱えたヤツだっている。」
「そんな俺達だからこそ、下手したら本当の家族より一緒にいる時間が多いから、自然と仲間意識が強くなるわけ。」
「しかも特力は人数少ないから余計にな。」
「だから、此処にいる皆は俺達にとっては“家族”なんだよ。」
「そして今日からお前も、この家族の一員さ!」
『…家族……。』

家族と言われて思い浮かべるのは、孤児院の皆。確かに、此処は気軽に外の世界へ繰り出せる事が出来ない。でもそれはこの学園の生徒全員に該当する事で、皆それを耐えて過ごしているのだ。だから自然と団結力が強くなる事は当然と言えば当然で、その気持ちはよく理解出来た。

「これからよろしくな、花。」
『…は、はい…!よろしく、お願いします…!』

当分会える事の出来ない家族だけど、こうして新たな繋がりが、“家族”と言う絆で結ばれる事が何だか嬉しくて、胸がとても温かくなった。自然と緩んだ私の表情を見て、先輩も嬉しそうに笑いながら私の頭をくしゃりと撫で回した。

「お、やっと笑ったなーお前。」
「うん、可愛い可愛い。」
「こりゃ将来が楽しみだなー。」
「おいそこの外道、チビから離れろ。」
「汚されちゃうからあっち行こうなー。」
『ぇっ? は、はい…?』

殿内先輩が私の顔を見てうんうんと頷いていたのを見てか、先輩達が唐突に私を殿内先輩から遠ざけ始めた。その事に戸惑いながらも、わいわいと騒ぐこの光景に何だか笑みが溢れて、私は皆と一緒に笑ってあっていた。


end.