鋼錬→マギ


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※鋼錬→マギにトリップ
※ほぼ殴り書き
※いきなり流血・死表現あり
※唐突に始まります



「名前…っ!!」


…声が聞こえる…。
誰かが、私の名を呼んでる…。
この声は、エド…?


「名前っ、名前っ…!!」


あれ、アルの声までする…。
どうして、二人は私の名を呼んでるの…?
そんなに叫ばなくても聞こえてるって…、

………あれ……?



「っ、馬鹿!!今は無理して喋んなっ!!」


声を出そうとしたのに、声が出ない。
声の代わりに、熱い何かが胸を込み上げてきて、ゴプリと嫌な音を立てた 。
その不快感に思わず吐き出せば、視界に映ったのは真っ赤な鮮血だった。

何で、血が…?


「っ名前!!」


アル…何でそんなに泣きそうな声だしてんの…。
エドも、珍しく泣きそうな顔しちゃってさ…。
血を吐いたくらいで、何て顔してんのよ二人共。


「待ってろ!!直ぐ病院に連れてってやっから…!!」
「だからしっかりするんだっ、名前っ!!」



病院って、大袈裟だよ。
私なら平気………?……、
………あ、れ…?
おかしいな、左腕、動かしてる筈なのに…。
何で視界に入って来ないの?
…何で……………、
………、………あぁ…そうだ…。
そうだよ、何で忘れてたんだろ…。
私、左腕を切り落とされたんじゃない。
それに、左足の鎧機械も壊され、脇腹には致命傷を負ってたんだっけ…。

……人造人間との、戦闘で……。


「おいっ、名前しっかりしろっ!!」


思い出した途端、焼けるような痛みが全身を襲う。
まるで血液が沸騰しているみたいだ。
でも、その激痛は長くは続かなかった。
だんだんと感覚が麻痺してきたのか、あまり痛みを感じる事はなくなってきた。
ただ痺れるような感覚だけが身体中を支配している。
そして次第に意識が混濁していくのが分かった。
きっと、血を流し過ぎたせいで頭が正常に働かなくなってきたんだろう。
直に迎える死を目前にして、こうも冷静にいられる自分に思わず嘲けてしまう。

…でも…そうか……死ぬのか……。

まだまだ、死にたくはないな。
人造人間達の計画を阻止出来ていないし、この子達の未来も、まだ見れていない。
最後まで、側で支えていく事も、もう出来ない。


『………、……………。』


―…死にたくない。

まだ死にたくはないのに、不思議と“死”が恐くない。
何でなのかな…。
今、凄く穏やかな気持ちだ。
自分でも、顔が笑っているのが分かる。
私が笑みを浮かべ出した事に、二人が目を丸く見開いて驚いている。
でも直ぐにくしゃりと顔を歪めて、さっきよりも酷い泣き顔を見せた 。

あーあ、本当に何て顔してんだか。

全くもう、最後の最期まで私に心配事を増やさせないでよ。
でも、しょうがないか。
そんな顔にさせてるのは、紛れもない私自身なんだから…。


『……ェ…ド……、ァ…、…ル……ッ…、』

「名前っ!!」
「駄目だ、無理して喋っちゃ…っ!!」






―――ねぇ、エド、アル……それから、ウィンリィ…。






最後まで一緒に戦えなくて


最後まで側に居れなくて


最後まで支える事が出来なくて


本当に、本当に












『……ご…めん、ね………。』




















「……名前…? おい、おいっ、名前っ!!!!」
「名前っ!! 名前っっ!!!!!」



























「――ッチクショォオオオォオオオォォオォオオオォオオォオオオォオオオオォオオォオオオッッッ!!!!!!!!」






























―――…あつい………。

何だか、意識がふわふわしてる…。
……私、どうしたんだっけ…?
………あぁ、そっか…。

私…、死んだんだ。

それじゃあ、ここは死後の世界ってヤツなのかな…。
…何か不思議……。
死んでしまった後も、ぼんやりとだけどこうして自我があったり、体感があったりするんだな。
てっきり何もかもが、死んだら終わってしまうのかと思ってた。
これから、どうなるんだろ…。
全然想像もつかないや…。

………それにしても、暑いな…。





『……っ………。』

あまりの暑さに、私は重く閉じられていた瞼をゆっくりと押し上げた。そこから射し込む眩い光に一度瞼を閉じかけて、手をかざしながら再び瞼を押し開く。徐々に目が明るさに慣れてきて、指の隙間から覗く綺麗な青色をぼんやりと眺めた。

『………、空……?』

漸く眼前の景色を認識してから、私はポツリと呟いた。
死後の世界にも、空があるのか。
まだ若干ぼんやりとしている意識で、そんなどうでもいい事を考える。暫くそのまま真っ青な空を眺めてから、私はふとある違和感に襲われた。その違和感を探りつつ、強い日射しを手で覆い隠すように動かす。
そこでハタ、と私はある事に気付いた。
さも当然のようにある“それ”に、私は目を見開き驚愕する。

『……何で………?』


―――何で、左腕があるの…?


あまりにも当たり前すぎて気が付かなかった。だけど、私は確かにあの戦闘で左腕を失った筈だ。
なのに何故、左腕があるのか。
暫し呆けたようにじっと左腕を見つめてから、私は更なる違和感に気付いた。その違和感を確かめるべく、私はそっと自身の脇腹に手を添える。

『…傷が、ない………。』

私が死ぬ事になった脇腹の致命傷が、傷どころか痕さえ残っていなかった。
言い知れぬ感情を抱いて、思わずガバリと上体を起こす。
そうした事で、私は左足の機械鎧も元通りになっている事を知り、更には目の前に広がる景色を目にして益々眉をしかめた。

『(…砂漠……?)』

先程から感じていた異様な暑さの正体は、砂漠にいたからなのか。かろうじて私が倒れていた場所は小さなオアシスだったようだが、それでも砂漠の真ん中に位置しているだけあってとても暑い。

『(…此処が、死後の世界…?)』

見渡す限り広がる砂漠は、確かに地獄に見えなくもない。元より天国になど逝けるとも考えていなかったから、例え此処が地獄だとしても構いやしない。だがそれ以前に、“死後の世界”とやらをどんな所かも考えたことはないし、ましてや“神”と言う存在自体信じてなどいなかった。
だから、今起こっている事全てが、どうにも信じ難かった。

『(…私は本当に、死んでるのか…?)』



――私はあの時、確かに死んだ。


それだけは、それだけは解っている。
……だけど。

手に掴む砂の感触や、頬を掠める暖かい風、ジリジリと肌を焼きつけるような灼熱の日射しに…、ドクリと、規則的に脈打つ左胸の鼓動。
それら全てが、あまりにもリアルすぎて。
この現状に、どう受け取ればよいのかが解らない。

『(………此処は、“何処”なんだ………?)』

本当に、此処が死後の世界と言うヤツなのだろうか。だとすれば、私はこれからどうすれば良いのだろう。
どうしていけば、良いのだろう。
ただぼんやりと、とりとめのない思考の中で、私は不意にある事を思い出す。

『(そうだ……使えるのか?)』

キョロリと周りを見渡してから、私は近くに生えていたサボテンに近付いた。そして、両手を一度合わせてから、棘に注意しつつそっとサボテンに触れる。すると、バチリと音を立てながら青白い光が放たれ、一瞬だけその光に包まれた。眩い光が徐々に収まっていくと、其処に生えていた筈のサボテンは姿を変え、一杯の水が現れた。

『出来た……。』

錬金術が、使える。
その事実に、益々解らなくなってきた。
果たして、錬金術は死んだ後でも使えるものなのだろうか。
それは些か、可笑しくはないか。
死後の世界でも、生前と何ら変わらない状況でいるだなんて、まずあり得ない。だが別に、私は死後の世界での理を把握している訳でもない。ましてや、その理を知り得る事など、生きている限り不可能なのだ。だから、もしこの現実が、全てあの世の理に敵っていると言うのであれば、私はそれを受け入れる。
けれど何故か、不思議と私の中では“此処は死後の世界ではない”と、確信に近いものが強く根付いていた。

『(…仮に、生きていたとして……此処は何処だろうか?)』

見渡す限り広がる砂漠は、永遠と果てまで続いているかのように錯覚してしまう程、何も見えない。

『(砂漠……だとしたら、此処はアメストリス郊外…。)』

アメストリスの隣には、巨大な砂漠が存在している。その砂漠の向こう側、東の方にはシンと言う国があった筈だ。もしこの砂漠がそうだとしたら、自ずと進むべき方角は決まってくる。だがそれは、本当に此処が“私の知る砂漠”だったらの話だ。それよりも遠い、別の国周辺に存在する砂漠ならば、どの方角に進むべきか解らなくなる。

『……………、』

そもそも、何故私は砂漠に居るのだろう。
どうやって飛ばされたてきたのか。
死ぬ間際に、“何か”が起きたのだろうか。

『(錬金術で、別の場所に転送するだなんて、聞いたことがない…。)』

錬金術はあくまでも“化学”だ。
おとぎ話のような魔法でもない限り、物質を移動させる事は不可能。
だとしたら、やはり此処は死後の世界になるのだろうか。
なら何故、私は生きている?
この全身で感じる五感も、脈打つ左胸の鼓動も、何もかもが全て、まやかしだとでも言うのだろうか。
そもそも、“死”の定義とは何なのか。
心臓が停まったら?肉体を喪ったら?精神がなくなったら?
それら全てを、亡くしたら?

――だったら、私は生きている?




『――…あー…、もうヤメだ。』

ハァと深い溜め息を吐いて、空を仰ぐ。これでは何時まで経っても堂々巡りから抜け出せない。答えの解らぬ問いに時間を割いていては無駄だ、考え事等何時でも出来る。
それよりも今は、すべき事が他にあるじゃないか。

『(取り敢えず、街を探そう…。)』

そこで情報を集めて、これからの形振り方を決めなくては。
だって私は、生きてるんだから。
だったら直ぐにでも、私は戻らなければならない。あの子達の側で共に戦い、少しでもその背にある重荷を減らす為に。

あの子達が、幸せになれるように。




『…待ってて、直ぐに行くから。』



だからどうか、それまで…――






そうして踏み出した視界の端で、小さな鳥のような光が羽ばたいていたのを、私は一瞬見た気がした。


end.