Voice主→海賊


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※突発ネタ
※voice夢主が突然海賊世界にトリップしちゃうお話
※内容ぐだぐだの殴り書き




―――潮の香りがする…。
ふと、暗闇に沈んでいた意識が浮上していくのと同時にそれを感じた。香りを認識すると、次第に穏やかな波の音と鳥の鳴き声なども耳に入ってきた。ゆっくりと瞼を押し上げれば、そこには見慣れない天井があった。

『(……?………、)』

まだぼんやりとした意識のまま、私が今何処に居るのかを考える。目覚める前、何をしていたのか記憶を巡らせながらそっと体を起こした。
…確か私は、海に来ていた。
食堂のおばちゃんに頼まれて乱太郎くん達三人と一緒に、第三協栄丸さんの元へお魚を頂きに来たのだ。お魚を用意して頂く間、私達は近くの岩場で遊んでいたのだが、だんだんと天候が悪くなり海が荒れ始めた。小雨だが雨もぱらついてきたので戻ろうとした時、私は雨に濡れた岩場に足を滑らせ後ろへと倒れ込んでしまった。

『(――!…そ、うだ…私、彼処から海へ落ちて……。)』

最悪な事に、直ぐ後ろは海だったせいで私は成す術もなくそのまま海へ落ちてしまったのだ。意外と高い位置から落ちる瞬間、私へと必死に手を伸ばすきり丸くん達の泣きそうな表情が、嫌に鮮明に脳裏へ焼き付いていた。

『(…っ、皆…っ…!)』

その瞬間を思い出すと、私は慌てて寝床から飛び出した。目の前の扉を勢いよく開け外へ出れば、眼前に広がる海に目を奪われた。

『(………ぇ……?)』

目の前に広がるのは、確かに海だ。
たが、“それ”は私の知らない景色だった。

『(…どういう…こと……?)』

山に囲まれていた筈の海が、大きな岩肌に囲まれていて、綺麗だった砂浜は何処にも見当たらない。

『(此処は、何処……?)』

見知らぬ景色に動揺を隠せず、たまらず不安に押し寄せられる。ふらふらと海際まで歩き、海を覗き込むようにペタリと座り込む。水面に反射して映るその表情は、酷く情けなく泣きそうに歪まれていた。
それを見て益々不安に駆られた私は、そんな自身の表情を見たくなくて両手で顔を覆い隠した。

『(――っ…!……どぅ、しよう……っ!!)』



「――そんなところに居ては、風邪を引くぞ。お嬢さん。」

『――っ!!』

混乱し何も考えられなくなっていたその時、突然背後から声が掛かり私は思わず体をびくつかせた。そして恐る恐る振り向くと、其処にはとても変わった特徴的な髪型をした男性が立っていた。まるで花のように整えられた髪型の男性は、ゆっくりと私に近寄ると座り込んでいた私に手を差し出した。

「まだ目覚めたばかりで潮風に当たるのは体に悪い。中に戻りなさい。」
『(……、………。)』
「…あぁ、私はクロッカスと言う。これでも医者をしている。」
『(…………、)』
「聞きたい事が色々あるだろうが、まずは中に入ろう。話はそれからだ。」
『(………、……コクン)』

戸惑いながらも頷きを示すと、私はそっとその手を取って立ち上がった。そうすると、男性――クロッカスと名乗った男の人は小さく笑みを浮かべながら優しく歩き出した。
聞きたい事が、沢山ある。
まだ混乱している頭の中で少しずつ整理しながら、私はクロッカスさんについていった。




「――さて、まずは何から話そうか…。」

中へ戻ると、クロッカスさんは温かい飲み物を作って私に差し出した。湯呑みの中を覗けば、何やら茶色い液体が湯気を発てている。見たこともない飲み物に驚き少々躊躇うが、其処から仄かに甘い香りを発てていたのでそっと一口含んでみた。
すると口の中に優しい甘さが広がり、不思議と心を落ち着かせた。
味は以前一度だけ口にした事のある南蛮の、確か…ちょこれいと、だったか、その味に似ている気がした。その甘味に自然と顔を綻ばせていると、私の様子から落ち着いた事を窺ったクロッカスさんはそう話を切り出した。

「…まずは、そうだな。私が君を見つけたのは、昨日の事だ。昨日、アイツがやけに私を呼ぶのでな。気になって外へ出れば、君を何処からか運んで来たアイツがいたんだ。」
『(アイツ…?)』
「…あぁ、アイツと言うのはラブーン…クジラの事だ。」
『(えっ!? ク、クジラって…。)』

“アイツ”が誰の事か分からず首を傾げると、クロッカスさんはさらりとそう答えた。てっきり他に人が居るのかと思っていたばかりに、私はかなり驚きを隠せなかった。

「恐らくこの近くで、漂流していた所を連れて来たのだと思うんだが…君はどうして海に?船が難破してしまったのか?」
『(……、…ぇっと……。)』

何と答えるべきかを考えながら私はメモ帳を取り出そうとして、はたと手を止めた。何時も手にしていたメモ帳は今回、海小屋に預けている荷物の中に置いてきていた事を思い出した。
それに気付きどうしようかと焦っていれば、私の様子に疑問を抱いたらしいクロッカスさんが不思議そうに声を掛けてきた。

「どうした?」
『(あ…えっと…あの、すみません、何か書くものを貸して頂けませんか…?)』
「……声が……そうか、ちょっと待っててくれ。」

出来る限り分かりやすく声が出ない事をジェスチャーで伝えれば、クロッカスさんは直ぐに勘づいて書くものを用意して下さった。

『(私は知り合いの元へ訪ねた海辺で、誤って岩場から海へ落ちてしまったんです。…あの、此処は一体どの辺りなのでしょうか?)』
「此処はグランドラインの入り口である“双子岬”だ。」
『(ぇ…? と……?)』
「…?どうした。」

現在の居場所を尋ねて返ってきた答えに、私は直ぐに理解する事が出来ずに首を傾げた。その様子に不思議そうに此方を伺うクロッカスさんに、再び尋ねてみた。

『(ぇと、何て…?)』
「グランドラインの双子岬だ。」
『(…………、)』

もう一度尋ねてみたが、やはり聞き覚えのない地名に私は困惑する。
ぐらんどらいん?双子岬?入り口ってどういう事…?
頭に沢山の疑問符を浮かべていると、クロッカスさんも考え込むように顎に手を添えた。

「海辺から転落……だとしたら相当な距離になるのだが…船からの転落ではないんだな?」
『(は、はい…そうです…。)』
「…………、」

戸惑いつつ私が頷き返すと、クロッカスさんは更に眉間に皺を寄せて考え出してしまった。そんなに考え込む程の答えだったのかと不思議に思い、私はそっと声を掛けた。

『(あの…?どうしました…?)』
「…あぁ、いや。もしそれが本当だとしたら、君が助かったのは奇跡としか言いようがなくてな。」
『(ぇと…?そう、なんですか?)』
「ここはグランドラインだ。島と島の間には、様々な気候の変化や急激な天候の変化がある。ましてや海王類のいる海の中で、無事でいられる確率は0に等しい。はっきり言って有り得ん。」
『(………、)』

未だぐらんどらいんが何なのかは分からないが、この海が“普通”とはかけ離れているのだと理解は出来た。そんな危険な海を無事に漂流した私は、本当に奇跡としか言いようがない。
その話を聞いて今更ブルリと体が震えた。

「君はどの島に住んでいたんだ?」
『(…島?ぇと…日本、ですが…。)』
「ニホン?…聞いた事がないな…。」
『(え…。)』
「この近辺に、そんな名の島はない筈だが…。」

クロッカスさんの言葉に私は戸惑いを隠せなかった。日本を知らないそんな遠い場所まで、私は流されてしまったのだろうか?
どうしようと顔を青ざめさせていると、クロッカスさんはふと私の服装を指摘してきた。

「そう言えば、君の格好は“ワノ国”の者と似ているな…。」
『(わのくに…?)』
「だがワノ国は“新世界”にあるしな…。」
『(しんせかい…??)』

再び聞き慣れない言葉が浮かび上がってきて、私は首を傾げた。此処に流れついてからと言うもの、知らない言葉ばかりで話についていけない事が多い。どうする事も出来ない私は、考え込んでいるクロッカスさんを待つ事しか出来なかった。

「…これ以上は特に情報も出てこないだろう。とりあえず今日はこのくらいにしよう。君もまだ安静にしていた方がいいだろうしな。」
『(あ、はい…。)』
「これから色々情報を集めて、ちゃんと君を送り届ける。だから、そう不安にならなくてもいい。暫くは此処でゆっくりして行きなさい。」
『(…はい。ありがとうございます。…これから暫く、お世話になります。)』

小さく頭を下げながらそう告げた私に、クロッカスさんは一度優しく頭を撫でてくれた。顔を上げた私に、そう固くならなくてもいいと笑う彼に、私も少しだけ表情を緩めた。
解らない事ばかりで正直不安ではあるが、絶対に皆の元に帰りたいと言う想いだけを胸に、私は頑張れるような気がした。



end.