第二話

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「あの、伊作先輩。」
「何だい乱太郎?」
「六年生に、その…不思議な雰囲気を持った学級委員長を知ってますか?」
「え?何?不思議な…??」

今日は伊作先輩と私とで保健委員会の当番の日だった。
先輩と二人で薬草の整理をしていた時にふと、この前の事を思い出して隣で作業していた伊作先輩に声を掛ける。

「うーん…ちょっと分かんないな。」
「そうですか…。」
「どうしたんだい、一体。」
「この間、は組の皆で遊んだ時に会ったんです。その時サッカーをしていて、ボールが木に引っ掛かっちゃって取ろうとした時、その先輩が取って下さったんです。何か、喋りが少し訛っていて、雰囲気が独特な感じで…。」
「訛ってて独特な雰囲気の六年生……ねぇ…。」

やはり特徴だけ伝えても思い当たる人はいないのか、伊作先輩は首を傾げていた。けれど、少し間を置いてから思い出したかのように小さく声を上げた。

「あぁ…一人当てはまりそうな奴はいるかも。」
「本当ですか!?」
「会った事はないんだけど、六年ろ組の学級委員長が“変わり者”だって噂が昔からあるんだ。」
「噂、ですか?」
「うん、何でも彼はろ組の生徒以外と殆ど関わりがないらしくて、何時も知らぬ間に何処かにふらりと消えちゃうんだって。だから大抵の人が彼を見た事ないからそんな噂があるんだ。」
「そんな人が居たんですか…あの!その人の名前って分かりますか?」
「確か…清水 駿河って名前だったよ。」




『ぅえっくしょいっ!!』

ズズッと鼻を啜る。別に寒くなんかないんに、何や鼻がムズムズしよった。何や、誰か俺の善くない噂でもしとんのか。
今日も今日とて俺はふらりと宛もなく散歩しとった。今俺が居るんは裏裏裏裏山の中やったと思う。ホント考え無しに歩いとったもんやから、えらく学園から遠くなってしもた。やっぱあれやな、多少は考えてから散歩した方がえぇな、帰るんめんどい。でもまぁ、考え無しやからこそ散歩は楽しいしやめられんのやけどな。そもそもやめるつもりないし。
にしても、ホンマよう歩いたな俺。何がビックリかって、いつの間に学園の外に出たんやっちゅー話や。それに気付かん自分にもビックリやわ。よくもまぁ小松田さんに捕まらんかったなぁ。あ、いや、追っかけてこんっちゅー事はサインしたんやっけ?ん?…あかん、記憶が曖昧すぎる。とうとう歳か、俺も。いやちゃうか、散歩が日課の時点で俺はじいさんやった。ほならじいさんはそろそろ帰る時間やな、帰ろ。

『おん?』

くるりと方向を学園へと変え歩き出して直ぐ、俺は足を止めた。
何や、近くに気配を感じたんやけど、二つ程。
気になった俺は気配を消して木の上から様子を伺ってみた。すると、ガサガサと草むらを掻き分けて出てきたんは学園の生徒やった。色からして一年と二年。
なしてこないなトコに下級生が居んねん。こないな場所まで来る物好き俺くらいやで。あぁ、あとこへんトコの委員会も来そうやな。ちゅーかあいつら、正にこへんトコの後輩なんちゃう?遠目から一度だけやけど見掛けた時居ったな、そういや。
見覚えのあった二人の様子から察するに迷子なんやろう思た俺は、静かに二人の目の前に降りたった。

「「うわあぁぁああっ!!?!?」」
『ぉお、良いリアクションするなぁ。』

なっはっはっとカラカラ笑うと、チビ二人は目をぱちくりさせながら俺をガン見しとった。
何や、そない驚かせてしもたか。

『すまんなぁ、驚かせたか。』
「ぅ、え…?ろ、六年生…?」
『何やお前ら、迷子っぽいから声掛けたんやけど。お前らはこへんトコの後輩やろ?』
「こへ…?…あ、七松先輩の事ですか?」
『おん、そや。』
「は、はい、そうです…。」
『やっぱなぁ。一回見掛けた事あるんよ。あぁ、俺はこへと同じろ組に在籍しとる友人なんや。今日はたまたまこっちまで散歩しとったきに、お前ら見掛けてなぁ。』

俺がこへの友人であると分かったからか、チビ二人はホッとしたように警戒を解いた。今は別にえぇし、まだまだ成長途中やから仕方ないけど、そう簡単に人を信用したらあかんでぇ。
それだけまだ純粋な証なんやろうけどな。

『丁度帰るつもりやったさかい、一緒に学園まで行こか。』
「ほ、本当ですか!?」
「あ、ありがとうございます…!僕達、七松先輩達とはぐれて困ってたんです!!」
『ほな行こか、そろそろおばちゃんの料理も出来る頃やろ。』
「「はい!!」」
『ん、えぇ返事やんなぁ。』

流石体育委員会やなと笑うと、俺はのんびりと歩き出した。俺の両隣にはチビ二人が並び、何となく手ぇ繋ぎながら山ん下る。
ちゅーか、二人から自然に繋いできよった。
何や、懐かれたんか?え?ちゃう?
知っとる。

『にしても何や、こへは何時もこんな場所まで走っとんのか?』
「はい、そうです。僕達は着いていくのに必死ですけど、それでも七松先輩はまだまだ体力が余裕みたいで、委員会が終わっても一人で走ってます。」
『にょほー、想像に難くないな、こへなら』
「先輩は散歩と言ってましたけど、何時も此処まで来るんですか?」
『いんや、たまたまや。考え無しにフラーっと歩いとったら此処まで来てん。何時もは大抵学園内をほっつき歩いとーよ。』
「そうなんですかぁ?でも僕、先輩を見掛けた事無いです。」
「僕も無いです。」
『まぁ、学園言うてもあそこも広いかんなー、見掛けんでもおかしくはないやろなぁ。』

へらりと笑えば、ほやんとした雰囲気の二年生が首を傾げて俺に質問してきよった。

「先輩はお散歩が好きなんですかぁ?」
『んー、そやなぁ。散歩しとる時は何も考えずに済むさかい、気が楽でいいんよ。散歩に限らず、のーんびりぼーんやりしとんのが好きなんよ。』
「僕も、のんびりするの好きです。」
『せやろなぁ、見るからにほやっとしとるしな。』
「僕も、息抜きにのんびりするのは好きです。心が落ち着きますよね。」
『お、何や大人びた物言いやなぁ。息抜きて、何かしとるん?』
「はい。戸部先生に剣術の稽古をつけてもらっているんです。」
『ほー、そらまた凄いなぁ。あの先生からは教わる事が多いやろ。』
「はい!とても勉強になります!!」

二人はニコニコと笑顔を浮かべながら俺との会話を楽しんでくれとるようや。良かった良かった、知らん先輩と一緒やとやっぱ居心地悪いかんなぁ。少しでも緊張が解れてんのなら充分や。

「おい。待ちな餓鬼共。」
『待たん。』
「そうか…ってふざけんな餓鬼!!通す訳ねぇだろ!!」

ほのぼのとした空気に割って入ってきたんは、草むらから現れた山賊達やった。俺達の進路を塞ぐように山賊達は立ちはだかっとった。何やせっかく良い雰囲気やったのに邪魔すんなやアホ、空気読めウスラトンカチ。

『ふざけんなはこっちの台詞やボケ、せっかくほのぼのしとったんに台無しじゃドアホ。』
「ぁあ!?」
「せ、先輩!!煽っちゃ駄目ですって!!」
「山賊が凄く怒ってるんだなぁ…!!!」
「舐めた口聞きやがって!!お前ら、掛かれ!!」
「「うわぁあ!!せ、先輩…!!」」
『お前らに構っとー時間はないっちゅーねん。ほな、さいなら。』

青筋を浮かべた山賊達が襲い掛かって来よったと同時に、俺はべっと舌を出すと煙玉を地面に叩きつけてから二人を両脇に抱え木に飛び登った。そのまま木づたいに飛んで移動し、学園まで一気に走った。

『!! こへー!!!届けもん!!』
「ぉお!! 駿河!!」

あっちゅう間に学園に着くと、丁度門に居ったこへに二人を引き渡した。周りには他の体育委員会なんか、数名その場に居ったが構わずに簡潔に事の詳細をこへに伝えると、俺は再び来た道を戻り出した。

『ほな、学園長に報告頼むな。』
「えー!私も行きたい!!」
『アホ、あんなん一人で充分や。今度手合わせ付きおうとるさかい、我慢しぃ。そんじゃ頼んだでぇ!』
「分かった!! 駿河!!金吾とシロ保護してくれてありがとなぁー!!」

俺はそんに手ぇ上げて答えっと、素早くそん場から姿を消した。


「せ、先輩!!一人で大丈夫なんですか!?」
「ん?駿河か?何、心配は要らん!!駿河は強いからな!!」
「そうなんですかぁ?」
「私の知る限りでは、六年で一等の実力者だと思うぞ!!」
「ぇえ!?一等って、勿論七松先輩を抜かして…のですよね??」
「いや?あいつは私より強いぞ?」
「「「「(七松先輩より…!??)」」」」




『ぶえぇっくしょいっ!!ズズッ…んー何や、ホンマに風邪でも引いたんかな?』

ぽりぽりと頬を掻いた俺は、そん場で小さく首を傾げた。そん足元には、完璧に延びとる山賊達の姿があったとかなかったとか…。



end.