第三話

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『…モグラや、モグラがおる。』
「おやまぁ、清水先輩。」
『はて…綾部によう似たモグラや。』
「おやまぁ。」

どーも皆さん、冒頭から緩ーい感じで始まりました、六年ろ組学級委員長の清水 駿河や。なんや物っ凄く久しぶりに思えるんは、俺の気のせいか。まだこの話三話目に入ったばっかりやで……あ?裏事情話すな?そらスマン。
っと、そやそや、話し進めな。

『なんや、今日も蛸壺掘りしとんのか。精が出るなぁ。』
「先輩も今日もお散歩ですか。飽きないんですか。」
『お前さんが蛸壺掘るんと同じや。』
「そうですか。」

会話になってるんかなってないんか微妙な会話を交わしながら、俺はしゃがんで綾部の作業を眺める。
いやぁ、いつ見ても綺麗な掘り方しよるなぁ綾部は。流石天才トラパーと言われとーだけあんなぁ。

「今日は見学ですか。」
『ん、せやなぁ…。』

綾部の無駄のない動作に感心しながら曖昧に応え、黙り込む。それきり俺等ん間にゃ会話が交わされる事はなく、綾部が蛸壺を掘る音だけが響き渡っとった。
どのくらいそうしてたんか、いつの間にやら綾部は蛸壺を完成させとったらしく、そん中で座り込んどった。その際、人一人分が入れるスペースを空けときながら。そして綾部が徐に顔を上げ、何かを言うでもなく俺をじっと見つめて来よった。俺はそん様子にきょとんと目ぇ瞬かせてから、ふっと小さく笑みを浮かべてそん中へと降りたった。

『何や、よう分かっとんなぁ綾部は。』
「先輩が見学する時は、必ず蛸壺の中に入りますからね。」
『居心地が良いんよ、綾部の掘るん蛸壺ん中は。』

よっこらせ、とおっさんくさい掛け声と共に俺は綾部の隣へ腰を降ろす。そん中から仰いだ景色は、綺麗な円を縁取った小さな青空が拝められた。

『うーん、いつ見てもええ景色やんなぁ、こん中は。』
「先輩だけですよ、そんな事言うの。」
『せやろなぁ。』

カラカラと笑いながら、ゆっくりと流れゆく雲を眺める。まるで此処だけが世界と切り離されとるような、のんびりとした時が過ぎる感覚は中々ええもんや。

『勿体ないよなぁ、ホンマ。』
「…?」
『みーんな、こんな絶景を知らんと生きてくなんて、ホンマ損しとーわ。』
「………。」
『綾部はええなぁ、いっつもこん絶景を一番はよー独り占めできんやからなぁ。気分最高やろ?』
「…はい。とても気持ち良いです。」
『ははっ、やっぱなぁ。』

こればっかは蛸壺掘りの特権やなぁ、と笑う俺を綾部はじっと見てきよる。そん視線に気ぃ付きながらも、俺は空から目を逸らさんと綾部に話し掛けた。

『何や、どないしたん?じっと見てきよってからに。』
「先輩は、変わってますね。」
『んー?』
「僕の蛸壺を見て、怒るどころか褒めたり、中からの景色が良いとか、勿体無いとか、僕を羨んだりとか…他の人とは全然違っていてとても変わってます。」
『んー、ホンマの事言うとるだけなんやけどなぁ。』
「…本当に、先輩は変わっていますね。」
『はは、そうかぁ。俺は変わっとるか。』
「でも、変わってる先輩は嫌いじゃないです。」

そう言われて少しだけ綾部へと視線を向ければ、綾部は小さく笑みを浮かべとった。それに俺は口元に弧を描き、どっこらせと立ち上がる。そん際、綾部におっさんみたいだと言われてわろうながら、俺は外へと飛び出した。

『ほな、俺は散歩に戻るわ。ありがとさん。』
「…いえ。また来て下さいね。」
『おん。気ィが向いたらな。』

ほなな、と手を振りながら俺は再び散歩に戻る。後ろからはザクリと土を掘る音が聞こえてきて、綾部も蛸壺掘りを再開させたんが分かった。
そん音をBGMに空を見上げれば、トンビが空高く飛んどるのが目に映った。

んー、今日もえぇ天気やんなぁ。








『おやまぁ、モグラや。モグラがおる。』
「……だれ?」
『おやまぁ、良く見れば一年生じゃないか。』
「………?」
『何しとるん?』
「…蛸壺、掘ってる。」
『なーる。楽しいん?』
「…うん。とても。」
『ふむ………ていっ。』
「わっ…、」
『ほー…なこーからはこんな景色なんやなぁ。』
「…………。」
『えぇなぁ、絶景やんなぁ。』
「え…?」
『ん?』
「…怒らないの?」
『怒る?何でやねん。』
「だって…みんな、危ないから止めろって…。」
『何でや、ここは忍の学園なんやで。罠の一つや二つ、危ないなんて言っとったらやってけへんやんか。寧ろ、鍛える為にはあった方がええやん。』
「……でも、」
『それに、こんな絶景が見れるんやで。何や勿体のーない?』
「…。」
『こんなに綺麗なんになぁ…。皆、こんな景色知らんなんて人生損しとーわ。その点、お前さんは得しとーな。しかもいっちゃん先にこん絶景見れるんや、羨ましいなぁ。』
「…!」
『えぇなぁ、蛸壺掘りの特権やなぁ。』
「…………。」
『あ、そや。お前さん、名前なんちゅうん?俺は清水 駿河言うねん。三年ろ組や。』
「…綾部 喜八郎。一年い組。」
『綾部言うんか、しかもい組!凄いなぁ自分。』
「別に、凄くはない…です。」
『なっはっは!そかそか!…お?あかん!そろそろ時間や!ほな綾部、またな!次おうたらまた蛸壺ん中入らしてくれな!』



「……………、」



「………変な先輩。」



「(…でも、凄く嬉しかった…褒めてくれた。)」



「(変わってるけど、いい人…。)」






『んー、今日もえぇ天気やんなぁ。』









「先輩、あの時と同じ事、言ってた…。」

ザクリ、ザクリと土を掘りながら綾部はポツリと呟く。そしてふと、その手を止めて綾部は上を見上げた。そこから見える景色はあの時と同じで、でも同じじゃない。昔よりもずっと、この瞳に映るその景色は綺麗に映って見えた。

「…絶景、か…。」

確かに此処からの景色は綺麗だと思うけど、先輩が言う程絶景とまでの景色かは分からない。
分からないけど、先輩が言うその言葉が凄く嬉しかった。

「…………、」

見上げれば円形に縁取られた青空。
その景色を暫し見つめてから、綾部は再びその手を動かし始めた。
そしてその顔に、小さな微笑みを浮かべながら。



end.

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綾部とのほのぼの?