5センチの空中散歩
野薔薇ちゃんはお洒落だ。
高専に入る前から都内住みの私よりよっぽど流行りものに詳しくて、でもミーハーでもなくて、選ぶものもセンスがいい。
高専なんて狭い世界で出会わなかったら、きっと仲良くなんてなれなかっただろう。呪力をもって産まれたことを初めて神様に感謝した。
彼女と私は一年でたったふたりの女子だから、よくお出かけの誘いをかけられる。真希先輩を何度も誘うのは申し訳ないらしい。勿論断る理由なんて無くて毎どこへだってついていくものだから、パンダ先輩に犬のようだと笑われた。
先月は野薔薇ちゃんがサンダルが欲しいと言ったので、立川まで出て靴屋さんを巡った。
彼女は考えるのにけっこう時間を使う一方で、これと決めた時は一瞬だ。
その日も、色んなお店を覗いても決められなかったので一旦お昼休憩をとって、その後最初に入ったお店で5分もしないうちに運命のものに出逢ったらしい。
かかとの高い、大人っぽいサンダルを身につけた彼女はとてもかっこよくて、付き添いだけのつもりだったのに私も買うことにした。
「野薔薇ちゃんとお揃いがいいなぁ、」
「早苗はそそっかしいんだからペタンコにしとけば?」
「そんなぁ、」
「それに、私に合わせた物がアンタにも似合うとは限らないでしょ。」
なんて言われたけれど、どうしてもかかとの高い靴が欲しくて、野薔薇ちゃんに選んでもらった5センチヒールのストラップサンダル。野薔薇ちゃんのに比べると、ちょっと幼い感じがする。でも、お揃いにして無理に背伸びするより、こっちの方が私らしい気がする。流石野薔薇ちゃん。
「脚が綺麗に見えるのって7センチじゃないの?」
「アンタの脚は元から綺麗だから何履いてもいいの。」
自分の脚が綺麗だなんて思ったことないけど、野薔薇ちゃんにそう言われたらそんな気もしてきて、その夜からはおざなりだった脚のケアも念入りにするようになった。
私の「かわいい」は、彼女につくってもらったもの。
お洒落をしたら、真っ先に野薔薇ちゃんに会いたくなる。好きなものは、野薔薇ちゃんと共有したくなる。
今日も野薔薇ちゃんとお出かけ。彼女に選んでもらった靴で、彼女に教えてもらったメイクで、だいすきな彼女の隣を歩く。
「野薔薇ちゃん、今日もかっこよくてかわいいね。」
「ありがと、今日の早苗もかわいいわよ。」
ああ、わたし、貴女といる時がいちばんしあわせ。
ほんの5センチだけだから、こんな浮かれ気分も許してね。
5センチの空中散歩
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