こたつむりのななみ
「七海〜ミカン切ったよ〜」
大晦日。
生憎と七海は今日も仕事だったが、私の方は休みがとれたので年越しの準備はなんとか出来た。
七海が買ってきた良いミカンを切り、お皿に乗せて、リビングのこたつむりさんに声をかける。
七海は帰ってきてシャワーを浴びてから、ずっとそこにいる。大きな背中を丸めてぬくぬくしていて、すっかりこたつから出る気はないらしい。
「ありがとうございます……」
ソファもあるしわざわざこたつを買わなくても、と思っていたけれど、こたつむりと化した七海を眺めるのは楽しい。今年買ってよかったものベスト5には確実に入るだろう。みかんの乗った皿とお手拭きをこたつに置いて向かいに座る。
「フォークいる?」
「ください、」
持ってきたデザート用のフォークを手渡す。皮が薄いから手で食べるよりフォークを使った方が食べやすいとネットに書いてあった。
「わ、これすごく甘い、美味しいね。」
「そうですね、香りもいいです。」
「ゼリーみたいにプルプルしてる、すご、」
「いくらでも食べられますね。」
七海のグラスが空になっていることに気づいた。とにかくこたつから出たくないらしい。
「お酒お代わりいる?」
「すみません、お願いします。」
普段こういう細かいところに目がいくのは七海の方なので、いつものお返しが出来ているみたいで嬉しくなる。
スコッチでトワイスアップを作ってリビングに戻ると、七海が私をじっと見つめていたことに気づく。
「はいはい、おまたせ。そんなにじーっと見てなくてもお酒は逃げないよ〜。」
「ちがいます、」
「ん?」
「キッチンに立つあなたを見るのが好きなんです、」
「ぇ、ぁ、そうなの。……私あんまり料理しないけど、」
「たまに見るのがいいんです。……幸せのかたちをしているので、」
キッチンにいる頻度なら七海の方がよっぽど多いと思うけど、確かにキッチンに立っていると目が合うことが多かった気がする。こたつでとろとろとしている七海からじゃないと聞けないことだったかもしれない。
もぞもぞとこたつに戻ると「何をにやにやしてるんですか」と拗ねた顔で言われてしまったので笑みが一層深まる。だって、七海がかわいい。
「年越しましたね。」
「……あ、そうだね。」
「今年もよろしくお願いします。」
「はい、今年もよろしくお願いします。」
こたつむりのななみ
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