「おまえの顔が見たくてさ」
絶対忙しいと思っていたから特に声もかけなかったのに、五条さんは大晦日の夜に私の家を訪ねてきた。ご実家に帰らなくていいのだろうか。
「仕事納めとは??って感じ。最強はツラいね〜」
などとへらへらしているものの、遅くまで仕事でとびまわっていたであろうことは分かるので、労ってあげることにした。
とはいえ一人暮らしの年越しなんて気合いの入ったものがあるわけでもなく、乾麺の蕎麦にめんつゆ頼りのつゆ、それにお惣菜屋さんの海老天を乗せただけの年越し蕎麦しか五条さんに出せるものがなかった。たまたま2本セットの海老天を買っておいてよかった。
「……よし、じゃあ一年頑張って大晦日にも仕事してきた五条さんに私がご奉仕してあげます!」
「えっまじ、ぜひおねが」
「えっちなやつじゃないです! ほらソファにうつ伏せになって!」
ぶつぶつ言いながらも大人しく従う五条さんの腰の辺りに座り込み、広い背中に手をつく。ぐ、ぐ、と体重をかけて圧していく。
「っく、あ〜〜、いいね〜〜」
「五条さんおじさんっぽいね。」
「ハァ!? このGLGのどこがおじさんだって?!」
「ほぼ三十路の立派なおじさんですよね。顔も性格も10代の頃から全く変わってないのが怖いけど。」
「オマエだってそんなに歳変わらないだろ!」
「ハイハイ大人しくしましょうね五条センパイ〜〜」
「ぐえっ、ちょっと! こういう時だけ先輩扱いすんのやめろよ!」
背中が広いし凝ってるのがよく分かるのでマッサージのしがいがある。愉快になってぐいぐいやっていると、いつの間にかテレビの番組が変わっていた。
「あ、年越しましたよ。」
「……彼女に乗っかられて年越したんだけど。」
「ヘンな言い方しないの!」
「はいはい、今年もよろしくね、早苗。」
五条さんがうつ伏せから横寝に体勢を変えたので、出来た隙間にもぐり込む。
「……今年もよろしくお願いします、悟さん。」
狭いところでくっついているものだから、ぬくぬくとして眠気がやってきた。
「……きょう、きてくれて、うれしいです……。」
「……オマエは眠い時かわいいよな、」
そのあとに続いた小さな呟きの意味を理解する前に、眠りに落ちた。
「おまえの顔が見たくてさ」
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