注意・錆兎生存if
薄暗い早朝、狭霧山の麓の小屋から
1人の少女がひょっこり顔を出した。
腰に真剣を携え、冷たい手を擦り合わせ、白い息をはぁっと吹きかけた。
私は、鱗滝さんに引き取られた孤児の1人。
育てである鱗滝さんは強くて優しくて厳しく、女子である私にも差別なく修行に付き合ってくれる。
私より先にこの小屋に居た2人はもうすでに最終選別に合格し、鬼殺隊となっている。
山の中にも日が差してきた頃、素振りをしていると後ろの茂みを掻き分ける音がした。
「今日もしっかり鍛錬に励んでいるな」
「ただいま」
新品の隊服を身に纏う懐かしい2人がこちらを見ていた。
「錆兎!義勇!おかえり!」
2人は汗を拭う●に歩み寄るとポンポンと頭を撫でた。錆兎と義勇の手が●の頭の上で重なる。初めはムッとしていた2人も慣れたものでそのまま撫で続ける。
「偉いぞ!」
「もう!また子供扱いしてる!私同い年なのに」
「ははは」
髪の毛がくしゃくしゃになったところで、少し2人に剣術を見てもらった。完全に日が昇ると、3人一緒に小屋へ戻った。
「ところで今日はどうしたの?任務は?」
「うん」
「まあな」
何やら曖昧な返事しかしない2人に、●はうん?と顔を顰めた。●は山を降る2人の後ろを歩く。少し前は同じくらいだった身長が、拳一個分くらい越されている気がする。
「錆兎!義勇!ちょっと待って!ここに立ってみて」
●は手を上下に振り、ここに、と必死に表現して見せる。
不思議に思いつつも錆兎と義勇は●の指す場所に並んで立った。●は並び立つ2人の眼前に、つま先が触れ合う程近くに立った。自分の頭の上に手を乗せて何やらゆっくり動かしている。
2人の口元と●の額の高さが同じくらいで、少し動けば額に口付けできる距離に●がいる。錆兎は、頬を染めながらも真っ直ぐ前を向いていたが、義勇はふいっと顔を逸らした。
目の前で胸を高鳴らせる2人に気付かず、●は手を動かして2人と自分の身長差を確かめていた。
「やっぱり……」
「ゴホンッ…な、なんだ?」
「………」
「私より大きくなってる。2人とも。こんな短時間で」
「そんな事か」
「普通は正面じゃなく、背を合わせて比べるんだぞ」
「錆兎、義勇、●」
小屋の方から3人を呼ぶ鱗滝の声が聞こえた。
「はい!」
3人は一斉に小屋の方角に走り出した。
勢いよく地面を蹴る音が重なる、懐かしいこの感じ。数ヶ月前、共に暮らしていたときも毎日3人で同じ方角に走り出したっけ。いつも2人の背中が視界にあるのは私が1番後ろを走っていたから。
私も早く、鬼殺隊になりたい。
2人と同じ鬼殺隊に!2人に追いつく!もちろん身長も。
3人は鱗滝が用意した朝食を、並んで美味しそうに平らげた。●は片付けを終え、それぞれの前にお茶を用意した。
2人に、いつまでここに居られるのか聞こうと●が口を開いた瞬間、錆兎が話し出した。
「鱗滝さん、●。話があります」
あぐらをかいていた錆兎は、正座し拳を膝に乗せ、スッと背筋を伸ばした。その表情はいつもより数段真剣に見える。
「うむ…、何だ。ワシと●にか」
「はい、お二人に」
「●も、ここへ座れ」
「は…い」
鱗滝に言われ、●は慌てて急須を置くと、自分の分のお茶の前に正座した。目の前の義勇は静かに●を見つめていた。
「で、何だ。話とは」
「はい」
錆兎はすーっと息を吸い込み、深呼吸する。自分を落ち着かせているようだ。
「●を、俺の妻に迎えたいのです」
「……ほう」
「…………」
「…………」
「えっ……?」
その場に似合わぬ、間抜けな声が出た。
3人が驚いた顔で錆兎を見つめて動かない。
「俺は鬼殺隊になりました。毎日が死と隣り合わせであり、修羅の場です」
「…そうだな」
「だからこそ、いつ死んでも悔いがないように、俺は自分の思いに正直であることにしました」
「そうか」
「自分の思いに正直に…か」
側で話を聞いていた義勇が、突然錆兎と同じように座り直した。
「錆兎のお陰で俺も…目が覚めました」
「義勇…?」
義勇は、思考が追いついていないのか口が半開きになっている●を、真剣に見つめる。
「俺は●と夫婦として…、共にありたい」
「…………」
「…………」
「………えっ?」
頬を赤く染める義勇から出た言葉に、錆兎含む3人が驚いて義勇を見る。錆兎もまさか、という表情をしている。
「ずっと俺は…●が好きだった。多分、錆兎よりも早く●を好きになっていたと思う」
「愛情に、先も後もない。俺は真剣なんだ」
「俺も冗談で言っているんじゃない」
「ゴホンッ……うむ。2人の気持ちはよく分かった。重要なのはワシの意ではなく、●の意志だ」
「………」
「鱗滝さんに俺たちの証人になって頂きたく、同席をお願いしました」
結論が出るのか甚だ疑問だが、鱗滝は頷いた。
「●」
「●」
名前を呼ばれ、ドギッと心臓が鳴り変な汗が出る。
目の前には、正座しこちらを真剣な表情で見つめる錆兎と義勇。2人の表情は背比べしていた時と全然違って、とても冗談とは思えない。
私は今から、この2人のどちらかを選ばなければならないの?そして、選んだ方と人生を共に…?
●は、膝の上の拳をぎゅっと握った。
手汗もすごい。
視線が…2人からの視線が熱い。そして痛い。
空気すらもピリピリする気がする。
●はどちらかを選ぶ事より、今すぐこの場から逃げる方法に頭を働かせていた。
「あっの、私…ちょっと1人で外に……失礼しますっ!」
そう言うや否や、●は外へ向かって勢いよく走り出した。
昼間でも、冬の狭霧山の空気は冷たい。
だけど今の●には、それすら感じない。
錆兎と義勇が2人揃って自分に求婚…など、誰が夢に見ただろう。うまく呼吸ができないのは、きっと狭霧山のせいじゃない。
「2人とも…本気…?私、選べないよ…」
けれど、忙しい鬼殺の仕事の合間を縫って自分への思いを伝えてくれた2人に、何の返事もしないのは誠意的じゃない。
うーん………。
「●…。困らせてしまったな」
錆兎は少し肩の力を抜いて、●の出て行った方角を見つめた。
「錆兎、ありがとう」
錆兎は目を閉じ自分に礼を言った義勇を驚いて見やる。
「錆兎が、思いに正直に…と言ってくれたから、俺も●に気持ちを伝えられた」
「……そうか」
2人はフッと笑い合った。
「まさか義勇も●を…とは驚いた」
「俺は薄々気付いてた。錆兎は分かりやすい」
「いつかは伝える気でいたからな」
鱗滝が新しいお茶を淹れてくれた。
急須から湯呑みに熱いお茶が注がれる。
「これで●が、どちらを選んでも恨みっこなしだな」
「ああ」
鱗滝は2人の底なしの友情にほっと息をついた。
***
茉莉様リクエスト
『錆兎生存ifで、鱗滝さんの養子ポジション夢主』
『2人に同時に告白(プロポーズ)を迫られる』
『選べない夢主と呆れる鱗滝さん』
茉莉様、リクエストありがとうございました!
呆れる鱗滝さん…が小説内でかけてない気がしますが…(^^;;
リクエスト小説は書いていて本当に楽しい。
自分では思いつかない小説が書けます。
この小説に反響があれば、選択式で両者に落ちる続編を書こうと思います。
読んでくださりありがとうございます。
2020.11.11