運と命の展開図

色々注意…(キャラ崩壊、流血、自論など)






ベベン…ベン…

世にも奇怪な対なる男女〜男は万を食い殺し〜女は万の命を繋ぐ〜悪鬼となるか癒鬼となるか〜虚しくはあれど運命は既に定まりて…

ベベンベン……

「…….」


数年前……


「これでもう大丈夫」

●が童の頭を撫でて、優しく笑いかけた。童は怯えるような表情で●の顔をじっと見ている。

「あ、ありがとう…」
「もう怪我しないようにね」
「…うん……」

童は治療終えて、外で待っている母親の元へ急いだ。

「大丈夫?お医者様にちゃんとお礼言ったかい?」
「うん…でも、あの医者のお姉ちゃん…手当てをする時、眼が赤くなるんだ…ちょっと怖いよ」
「きっとそういう御力なのさ。どんな怪我でも病でも、一瞬で治して下さるのだから、眼が多少赤くたってきちんと感謝しないとね」
「うん……でも、怖いよ」
「そう言わんの。お父の千切れた腕さえも元通りにして貰っただろ。さ、早く帰ってお父と畑仕事するよ」

●は平安貴族の姫であり、医者であり、鬼でもある、三つの肩書きを持つ女だった。看病していた無惨に鬼にされ、医者である●に目覚めた血鬼術は、幸運にも人を治し癒す術だった。その術を使えば、腹は減るがどんな病でも怪我でも瞬時に治すことができた。術を使う時はどうしても瞳が赤く染まってしまい、子供や年寄りからは奇怪な目を向けられることが多かったけれど、●は治療が出来ればそれでも良かった。

「●…」
「無惨様、お目覚めですか」
「こちらへ来い」

無惨は●の腕を強く引き、胸の中に抱き込んだ。

「術を使って腹が減ったろう…私を欲してみよ」

●は人を殺せないし、食べたくとも食べられない事から、無惨から血を貰って腹を満たしていた。

「無惨様、少しお耳を寄せて下さい」

2人きりのこの部屋で内緒話でもするのかと疑問に思いながらも、無惨は背を丸め耳を●の口元に寄せた。●は近くまで来た無惨の頭を撫で、抱きしめた。


「………猫扱いするな」
「今日も人を喰らわずにいて下さいました。無惨様…感謝します」
「…………」

●は無惨の唇に触れるように口付けた。無惨は●の後頭部に手を回し深く口づけ、自らの唇を噛み切って血を●に飲ませた。無惨の手が●の着物の合わせから侵入しようとした瞬間、外からドンドンと扉を叩く音がした。

「放っておけ」
「怪我人かもしれません」

離そうとしない無惨の腕からすり抜け、●は扉の方へ向かう。

「今開けます」
「………」

不機嫌そうな無惨を他所に
●が扉を開けると、お役人が2人立っていた。

「ここに奇妙な術を使い、万病を癒す女が居ると聞いた。その女を出せ」
「治療しているのは私です」
「そうか。お前に出頭命令だ。この国の為に働いてもらう。拒否権は無い。国の役に立ち、認められれば、何でも望みを叶えられよう」
「望みを……?」

役人と●が話していると、部屋の奥に居た無惨が突然役人の胸ぐらを掴み上げた。

「貴様…何様のつもりか。出頭命令だと……?」
「くっ、は、離せ!」
「無惨様!乱暴はっ」
「………」

無惨は●に言われ、パッと手を離した。


「ご、後日迎えに来る!その時までに身支度を整えよ」


そう言うと、役人は逃げ帰って行った。

「赴く必要はない」
「…そう…ですか…」

無惨は●を強く抱きしめた。

「●……私から離れる事は許さない。私は…●さえいれば、他の何も要らぬ」
「無惨様、お子は……欲しいとは思われませんか?」
「いらぬ。●さえいればいい。我が子であろうと、役人であろうと私達の仲を引き裂くものは許さない」
「………」

私はどちらかと言えば、愛しいお方の子供が欲しい。例え生まれて来る子が鬼の子としても、私は………。


●は1人、布団から抜け出して着物を羽織った。無惨はまだ布団の中で寝息を立てている。

●は自分のお腹を優しく撫でて優しい声で話しかけた。

「お前の父上は…お前を望んで居られないのかもしれない…」

無惨様は、お子が宿っている事を知れば、当然要らぬと仰るだろう。……陽にも当たれず、無惨様が居なければ腹を満たす事も出来ない私が、この子を守れるのだろうか。
●は静かに涙を流した。


『国の役に立てば、何でも望みを叶えられよう』

「この子の為に….」

●は立ち上がり、簡単に荷物をまとめると、夜が明ける前に産屋敷を出た。

「無惨様……」

屋敷を振り返り、悲しそうに愛しい人の名を呼ぶと●は暗闇へと消えた。

●が向かうはこの国の主が住まう城。

「来たか。お主が●だな」
「はい。…初見から失礼なのですが…殿様、お国のお役に立てば、望みを叶えて下さるのですか?」
「うむ。金でも何でも望むがよいぞ」
「…私は日の光に当たることが出来ません。夜間、日中は日陰であれば何でも…何でも協力致します。なので…お願いがございます」
「なんだ」
「私に宿る命を、お許しいただき、お助け下さいませんか」
「…お主は子を宿しているのか。…ふむ。分かった。国の為に尽くせばお主にも子にも不自由無い暮らしを約束しよう」
「ありがとうございます」
「聞けばお主は、名のある貴族の娘だそうだな。私の息子の嫁に貰うもひとつか……。まずは安心して子を産み育てよ。子は国の宝である。お前の功績次第では、腹の子も世継ぎとして大切に扱ってやろう」
「はい……感謝いたします…」


●は日の当たらない北側の小さな部屋を貸し与えられた。使われていなかったと思われるその部屋は、昼間でも薄暗く、まるで牢獄のような雰囲気だった。

●はその部屋で、負傷した兵士を次から次へと治療していった。間も無く絶命するであろう程の出血を伴う怪我すらも、一瞬のうちに治して見せた。

「これで、大丈夫です」
「うおお!痛くない…痛くないぞ!!」
「良かったあ、お父!ありがとうお姉ちゃん!ありがとう!」

兵士の子どもと思われる童が、嬉し涙を流しながら父親に抱きつく。

「出血量が多いので、しばらくは安静にしていて下さい。次の方どうぞ」

治療する度に感謝される事は、医者としてとても嬉しい事だった。だが、鬼としての自分は力を使い過ぎて飢餓状態が酷くなり、鮮血を見るたびに今にも食らい付きたくなる。それでも●は、子の為に功績を残したくて、血鬼術を酷使した。●の中で、人間の医者としての思いと、鬼としての欲望が戦っていた。


「噂の通り、見事なものだな」
「殿様…」
「これで我が兵力も持ち直すだろう」
「殿!我が軍との交戦を直前に、敵陣兵力全滅のと報せ!」
「何?」
「目撃した兵士によりますと、赤い眼をした男が突然現れ敵陣兵士を皆殺しにしたと…」


赤い眼……!?

側で兵士の伝達を聞いていた●は、驚いた顔で立ち上がった。



数刻前ー

「●…」

無惨は目を覚ますと、隣に居るはずの●が居ないことに気付き、急いで屋敷中を探し回った。●の姿はどこにも無く、置き手紙が1枚置いてあった。

『無惨様、お元気で』

無惨の心臓がドックンと嫌な音で鳴り、耳まで揺れている様な感覚が襲う。無惨は手紙を握り潰すと、外へ出た。その瞳は赤みを増し、血走っている。


「●……」


私は、人間に最初から何一つとして与えられなかった。
家族の愛も、皆が持っている健康な身体さえ与えられず、あの医者は、私から人間であることを奪い、「鬼」にした。
やっと手に入れることができた愛しい女1人でさえ、私から奪うか……人間。許さない。


無惨が城へと歩み進めるその道中に、鎧を付けた兵士と出会った。

「何やつ!この国の男は皆殺しにせよ!」
「……返せ」
「かかれ!殺せ!」

無惨は向かって来た兵士の間をすり抜け、腕を振る動作も見せない速さで、次から次へと兵士をなぎ倒して行く。

「うああっ!」
「ぐう!」
「武器も持たぬ人間に何を手こずる!行け!」

「返せ……!!!」



無惨は一瞬の内に、そこに居た敵兵を地面に這わせた。血の付いた両手で、馬に跨る兵士に歩み寄り、無惨は血走った赤い目で睨み付けた。

「き、貴様ァ…!!」
「この私から奪った………何処にいる。返せ」
「この国の民は女子どもさえ皆殺しだ!お前も、お前が探す者も全員殺す!」

無惨は血管を浮き上がらせ、怒りのまま兵士を引き裂いた。


「何処だ………●……」


無惨は兵士が地面に横たわる中、1人血の滲む手をぶら下げて立っていた。


ーーー


「ふぅむ。一人で敵兵を全滅か…」
「は、目撃した兵によりますと、何かを返せと何度も呟いていたそうです」
「味方であれば心強いが…敵であるなら脅威。殺すしか」
「殿!至急お知らせ致します!戦地へ向かいました我が軍、全滅との報せ!」
「何!?」
「殿!赤い眼の男が、我が城方向に進行中との報せ!」

次々と伝達を伝えに来る兵士達の顔は、恐怖が浮かんでいた。それもそのはず。何百もの兵士達がたった1人に倒されている。

「これぞまさしく鬼の仕業よ。全軍かかれ。私が出る」
「と、殿!」
「殿様!」

側で兵士達の報告を聞いていた●が、国の主を呼び止めた。

「貴様!殿に向かって」
「よい。話せ」
「私を、その戦場にお供させて下さい」
「何?女子であるお主をか?それに、お主は身重であろう」
「最前線にお連れ下さい!私が…!」

私が黙って屋敷を出たせいで、無惨様が暴れ、人を殺しているのならそれは私が殺したも同然。今の無惨様に私の言葉が届くかは分からないけれど……お止めしなければ。

●はお腹を優しく撫でた。

「2人で…お父上を止めましょう。母が必ず守ってみせます」
「………」

●は慣れない馬に跨り、前を見た。自分の目線より遥かに高い馬上から見る景色は、とても綺麗だった。

この景色の先に無惨様が……


「赤い眼の男、発見!構えろ!」

軍が戦場に向かおうとすると門の前に、着物から滴り落ちる程の返り血を浴びた、無惨の姿があった。

「……無惨様…!!」

●は馬から降りると、駆け足で無惨の元へ向かう。無惨の血走った赤い瞳には●は映っていない。

「無惨様!」
「返せ……!●を」

極度の飢餓状態である無惨が、片膝を付くと●は胸の高さにある無惨の頭を優しく撫で、抱き締めた。

「無惨様……私はここです」

無惨は●に抱き締められ、●の香りを身体中に取り込んだ。

ああ……●……。
ここに、確かにいる…触れられる。

正気に戻った無惨は、目を閉じ●を強く抱き返した。身体と身体の間に、空気すらも入り込ませない程に強く、強く。

「い、いけません!お腹にはお子が……あっ」

言葉が出かかって、●は急いで口を塞いだ。無惨は●を離し、瞳を見つめた。

「子だと?…子がいるのか?」
「…………」

●は覚悟を決めて、コクリと頷いた。
無惨様は、要らぬと言っていた子の存在を知ってどうするつもりだろう。

●は拳を包むように握り、来るであろう言葉を待った。


「私の…子か?」
「はい……この子は私たちの、生きた証です」
「…………」
「無惨様、私はこの子が例え鬼の子としても産み育てるつもりです。無惨様が要らぬと言うのであれば、例え一人でも」
「……鬼は人の様に生きられない…。産まれても苦い道を歩むだろう」
「幸か不幸かはこの子自身が決める事です。私達の物差しで測ってはなりません。……少なくとも、鬼になろうと私は今、幸せです」

●は屈託のない笑顔でそう告げた。

「…無惨様は幸せではありませんか?」
「…………」

無惨は何も言わず、再び●を抱きしめた。

「要らん……子など」
「…………無惨様…」

●が諦めたように、悲しそうに無惨の背中に手を回し抱き返すと、その背中は震えていた。

「無惨様………?」

無惨は●の肩口で、誰にも見られないように、一筋の涙を流していた。それに気付いたのは、●ただ1人。

与えられず、奪われてばかりの人生。
与えられないのが当たり前過ぎて、子どもなど望むまい…そう決めていた。

無惨の瞳から流れ出るのは、随喜の涙だった。


それからほどなくして、国同士の戦は終わった。





「●、座っていろ。私が」
「あ、ありがとうございます…」

お腹の大きくなった●を、無惨がぎこちなく気遣う。

事を終えて、無惨が●の隣に座ると、●は立ち上がり無惨の頭を撫で、抱きしめた。

「ありがとうございます、無惨様…」
「猫扱いするな…。子が覚えては困る」
「ふふ、そうですか?」

●は花が咲いた様な笑顔を無惨に向けた。


ベベン…ベン…

女あっての保てた理性〜鬼と化し、暴れ狂ったその男〜鎮められるはただ1人〜

ベベン…

「枇杷のお姉ちゃん。鎮められるのは、もう1人じゃないよ」
「…ベベン」
「私も父上を宥められるもん」

悪戯そうに笑う赤い目の少女はふんっと胸を張った。

「お前が鬼の子…」ベベン
「人のこと鬼の子って呼ぶ人間の方が、鬼より鬼だね」
「………ベベン…」




***
七味様リクエスト。
七味様ありがとうございました!
『朝の病』続編ということでしたが、一応前話を読まずとも分かる様に書いたつもりです。
『子どもを登場』…ほぼお腹の中に居ましたが、登場ということで、お許しください。(汗)
七味様が以前無惨は猫トラと仰っていましたので猫的なセリフ(?)を入れてみました。
本編で1人暴れまくった無惨ですが、兵士目線だったので省略した無惨目線が↓

ーーー

無惨がとどめを刺そうと相手の首をかっ切ろうとした瞬間

『無惨様、人を殺してはなりません』

●の言葉が、無惨の脳裏を横切った。
無惨は狙う場所を首から肩口に変え、そのまま切り裂いた。

「ぐああっ」

赤い血が吹き出るが、急所を外した。もう向かって来ることはないだろう。

人を殺めては…●が……悲しむ。


ーーー



実は人を殺してはいませんでした。という……。
正気を失っている無惨に声が届くのか謎ですが、載せておきます(汗)
絶対に泣かなそうな無惨が涙を流す表現がキャラ崩壊かな?と注意書きを設けておきました。

ベベン、ベン……
枇杷の弾き語りは、人間の鳴女さんにお願いしました。ご協力ありがとうございました。

後々いじくるかもしれませんが、これで清書とさせて頂きます。
読んでいただきありがとうございました♪
2020.04.13

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