「ちょっと、何をするんですか」
「静かにして」
蝶屋敷へ荷運びを頼まれた男が、屋敷で働く女の着物の合わせから手を入れ込む。女は嫌な顔をしながら抵抗するも、するりと入って来た男の手に、直に胸を触られる。
「い、嫌っ!やめて!そういうのは花街でして下さい」
親に売られ、元々花街で働いていた女は、慣れたように男の手を振り払う。
「ここの屋敷の女はみーんな可愛いけど、みんな俺より強いからさぁ。お前も同じくらい可愛いけど、弱いんだよねぇ」
そう言う男の手が、懲りずに女の太腿を撫で上げる。合わされただけの着物は簡単に左右に開き、白い脚が露わになる。白昼堂々好きでもない男に身体を触られ、ゾクリと背中に寒気が走る。
「だから!ここはそういう場所では」
女はまた男の手を叩き、そのまま足で股間を蹴り上げようとする。
「この屋敷にはたくさん支援してるでしょう?ご褒美くれてもいいんじゃない?」
「…………」
その言葉に、振りかぶっていた脚が止まると男の手が再び着物の合わせから侵入して来る。
「しのぶ様っ…カナ」
「おーい、●!いるかー!!」
割と近くから聞こえた自分を呼ぶ声に、●は大きな声で助けを求めた。
「いのす!んぐっ」
男は叫び出そうとする●の口を素早く掌で押さえつけ、言葉を遮る。
「シーだってば」
「●!ここに居たのかよ!……お前ら何やってんだ?」
●に襲いかかる男の背後に、任務から帰ってきた伊之助の姿があった。伊之助からは男の手が何をして何処にあるのかはきっと見えていない。
「い、いや!これは…その…」
男は焦ってぶつくさ言いながら急いで帰って行った。
「何してたんだ?知り合いか?」
「いつも荷運びしてくれる人だよ。今日はなんかおかしかった…かな。ありがとう伊之助」
「うおお!お前、見えてるぞ!」
「えっ、わ!ごめん!」
焦る伊之助の指差す先に、●の豊かな谷間が覗いていて、急いで着物の合わせを直した。
「………」
「………」
無言が苦しい…。
咄嗟に伊之助を呼んでしまったけど、何か説明した方がいいのかな……。
でも、伊之助は山育ちだからきっと知らない。男女の性事情とか……だから大丈夫。何をされてたかとか、きっと分からないよね。
「お願い。誰にも言わないでね……」
「…お前、あいつが好きなのか?」
「そんなわけ無いよ」
ハハ…と力なく笑う●は、荷運びの男が運んで来た食料や水を屋敷の中に運ぶ。
「これを運ぶのか!俺もやるぜ!!」
●は、任務帰りだと言うのに重い荷物を次々と屋敷の中に運び込む伊之助に見惚れていた。
「すごい…」
「●…、荷物が届いた様ですね。ご苦労様。伊之助君、がんばってくれてますね」
「しのぶ様、お帰りなさいませ」
「鬼殺隊支援者の方がご好意で届けて下さる物資。大切に使わせていただきましょう」
「………」
様々な物資を無償で分けてくれる支援者の方の存在は大きい。足りていない訳ではないが、いつ何人の負傷者が来るか予測出来ないこの屋敷では、水も食料も薬も多くあった方がいい。
私のせいで支援が無くなったら…と思うと嫌な事をされても強く言えない…。近づかないように軽くかわしていくしか無い。折角しのぶ様のお陰で花街から抜けられたのに、迷惑をかけるわけには…。
しのぶが●をじっと見つめるので、●は焦って視線を泳がせる。
「…何かあったのですか?」
「いえ!何も…」
「そうですか。まあ、伊之助君が居ますから大丈夫ですね」
「は、はい……?」
伊之助は軽い傷を手当てされた後、ベッドが並ぶ大部屋に1人で横になっていた。
「…………」
あの時…●とあの男は何をしてたんだ?
男の手元は隠れて何も見えなかった。
●は脚も、乳もあんなに見せびらかしやがって。あんな男に!見せてやがった!!?
何もしてねぇわけねぇ!
「猪突猛進!!」
伊之助は猪の被り物を取ると、女性用の花柄の着物を着て帯を締め、外に出た。体を締め付ける着物に不快感を感じながら、辺りをキョロキョロ見渡すと、さっきの男が2度目の荷物を持って来る所が見えた。伊之助は黙ってその男に近づく。
「あれ?こんにちは。…これまた可愛い子だ」
「…………」
伊之助は全く害の無さそうな男を見つめる。
「ちょっとこっちに来てくれないかな、荷物があるんだ」
男は伊之助の手を引いて、人気の無い建物の陰に連れ込んだ。そこに荷物があるようには見えない。
「…本当ここの屋敷の子は可愛いね」
そう言うと、男は伊之助の柔らかな頬を撫でた。
頬から全身にゾクリと気持ちの悪い感覚が走って、伊之助の額には青筋が走る。
頬を撫でても声ひとつ上げない伊之助に、男はこの子ならいけると思ったのか、着物の上から身体を撫で回す。
「結構いい身体してるね。鍛えてるのかなあ?この屋敷の子は強い子多いもんねぇ」
「………」
伊之助は俯き、湧き上がる怒りと不快感に必死に耐えていた。肩はぷるぷると震えて、拳は血が滲みそうな程強く握られている。男はそれを、怖くて怯えているのだと判断した。
「あの子は柔らかかったなあ…そう、●ちゃん?」
男の口から出た●の名前に、ブチッと音を立て伊之助の堪忍袋の尾が切れた。
「テメええぇ…」
「えっ?君、声……」
「●にこんな気色悪い事してやがったのかああ!●、●と気安く呼んでんじゃねぇぞコラァァァ!!」
「わあああっ」
伊之助が、不快な花柄の着物を剥ぎ取り、鍛えられたいつもの姿を見せると、男は慌てて逃げて行く。
「待てコラてめーーー!!」
「ひいぃっ」
「あら、伊之助くん…と、支援者の方ですね。いつもありがとうございます」
「あ、はは、いえいえ」
「伊之助くん。まだ怪我が治っていませんよ。部屋へ戻って下さいね」
しのぶが伊之助を宥めていると、その隙に男は屋敷の外へ逃げて行ってしまった。
「あっ!待てコラァ!!」
「まあまあ」
抑え切れない怒りに、伊之助はドスドスと音を立て屋敷の廊下を進み、●を探す。
「●ーーー!!!」
湧き上がる感情が、そのまま伊之助の口から飛び出た。
「わっ!ビックリした。はい。ごはん」
伊之助がもんもん考えている間に、いつの間にか料理の乗ったお盆を持った●が側にいた。
「飯!じゃねぇ!テメェ、●!さっきの男に乳触らせたのか!」
「ええ!?」
「言わねーなら!屋敷中を大声で滑走する!」
「やめてっ、やめてやめて!」
●は仕方なく、初めから全て話した。
支援者の方であること、彼にされた事、それを
無碍には扱えない事…
「伊之助の食べるこのごはんも、半分はその方が届けてくれた物だよ」
伊之助は黙って●の持って来た美味しそうな食事を見つめる。いい匂いの湯気が出て、すぐにでも減った腹にかきこみたい。
「たまに包帯や薬もくれる。それに私は花街出身だからあんなの慣れてる。大丈夫」
「ふざけんな!そんな飯いらねぇよ!…こんなもん!」
伊之助は、手当てされた腕の包帯を乱暴に剥ぎ取る。
「あ、ああ!取ったら駄目だよ伊之助!」
「あンの男!!ぶっ殺す!!」
「待って待って、駄目だよ!支援が無くなったら」
「駄目駄目うるせえ!お前の身体が見返りなら、それはもう支援じゃねぇだろ!」
「…それは…」
確かにそうかもしれないけど…。
「俺はお前があの男に触られんのは嫌なんだよ!権八郎にも、紋逸にも触らせたくねぇ!」
「伊之助…」
「お前は嫌じゃねぇのかよ」
伊之助の瞳が真っ直ぐ●を見つめ、●の瞳からは我慢していた涙がぽろぽろ流れ出た。
男の人に触られる事なんて花街で慣れてた。だから大丈夫だって…我慢してれば終わるって耐えてた。だけど、伊之助に出会ってから、それだけじゃ耐えられなくなった。
「私、伊之助にしか、触られなくない」
「な…」
伊之助は驚き、真っ赤な顔で●を見た。
「あ」
●は慌てて自分の口を塞ぐ。心の中で呟いたつもりの言葉が、声となって口から出ていた。その恥ずかしさから、●の顔も真っ赤に染まる。謝らないと…と思った瞬間、●の身体は、伊之助に抱きしめられていた。
「伊之助…」
「なら俺にしか触らせんじゃねぇ!絶対だぞ!」
ひと回り大きい伊之助の身体に包まれ、とても温かい。●も伊之助の背中に腕を回して抱き返し、肩口に顔を埋めた。肩の素肌と頬が触れる。
「うん…。あったかい…」
2人の居る部屋の扉の前から、足音がひとつ離れて行く。
「さて、こちらは一件落着ですね。あとは…」
「こんにちは」
「はっ、こんにちは。今日は荷物が多くてですね」
しのぶは本日3度目の荷物を運びこむ男に微笑みながら声をかけた。
「いつもご苦労様です。助かります」
「ええ、いえいえ!」
「…この所、この辺りで無差別に女性だけを狙う鬼が出るそうですね」
「…そうなんですか?恐ろしい事だ」
「伊之助くんのお陰でハッキリしたんです。…狙うのは力の弱い女性のみだそうで。残念な事に、私に勝負を挑みに来てはくれません」
荷物を抱える男の額に、汗が滲む。
「そ、そりゃあ大変だ」
「…もし、そんな鬼の所業を見つけたら教えて下さい。その様な鬼は…」
ふと、男を見据えるしのぶの顔から微笑みが消え、顔には影が落ちる。
「鬼殺隊の名にかけて、成敗しなくてはなりません」
「ひっ、いいいっ」
男はその場に荷物を置いて、一目散に逃げ帰った。
「鬼殺隊は人は斬りません。安心して下さい……て、聞こえていませんね」
それから支援物資は何故か量を増した。
***
匿名様のリクエスト伊之助。
リクエストありがとうございました!
もはやリクエストとは…?となるくらいリクエスト内容と違う物語になってしまいました。
甘裏とのリクエストでしたが、あまり甘く無い上に伊之助との絡みも少ない…。
後日談としてどこかで甘いの書けたらいいなと思ってます。
不正解だらけの答え合わせを。
@蝶屋敷か藤の花の家紋の家の夢主。◯
A伊之助を思い自慰行為中、本人登場。●→自慰行為が書けず、変態男投入。
B伊之助の性の知識が無いと思い込み普通に過ごす。△?
C伊之助は性の知識も普通にあるが、知らないふりをする。●→女装して調べるに変換。
Dお互いに両思いだが、気まずくてお互い気持ちを伝えられない。●→夢主の口から出ちゃった。
E最後は両思いになる。◯
匿名様、2つしか合ってませんでした!
ごめんなさい〜!!全て私の力不足です。
なにはともあれ、読んで頂きありがとうございました!
2020.04.23