あれから、1週間程経過した。


彼は以前と比べて大分気分が落ち着いて来ているようだった。


「明日、夕食を食べに行かない?」


テレビに向けていた視線を僕へとずらしハニカミながら言う。


彼がそんなことを言うのは珍しかった。


いつもは僕の料理が食べたいと外食は滅多にしないのに…。


僕がなんとも言えないような顔をしていたからか、彼は焦ったように言葉を発する。


「ああ、君の料理が決して食べたくない訳では無いんだ。…この前は情けない姿で君に迷惑を掛けてしまったから」


と恥ずかしそうに笑う彼に僕は気にしなくても良いのにと笑う。


彼は変な所で律儀な人だ。


「でも、折角連れて行ってくれるなら僕、洋食が食べたいなあ。ピザとパスタが食べたい」


「そんなに食べられるのかい?」


「んー食べられないかも。どっちにしようかな…」


真剣に悩む僕に彼は楽しそうに笑う。


「もう、僕が真剣に考えてるっていうのに笑うのは酷いよ」


少し大袈裟に怒って言えば、彼は更に笑い声を大きくした。


「ごめん、ごめん。君があまりにも可愛過ぎるから…ピザとパスタを食べたいなら俺がどちらかを頼むから半分ずつ分けよう」


「いいの?」


「勿論だよ。君が望むのならなんでも」


「魔法使いみたいな事を言うね」


「俺は君の魔法使いになりたいからね」


君は俺の唯一だから。


そう言って僕の髪を梳く。


僕は何て言えば良いのか分からなくて、曖昧に笑った。


βがαと付き合うのもおこがましいというのに、唯一だなんて滅相もない。


彼は本当の唯一を知らないから、そんなことを簡単に言えるんだ。


「…本当にそうだったら良かったのに」


口に出した言葉にハッと我に返る。


「何か言った?」


「何でもない。ただ、幸せだなあって思っただけだよ」


そんな我が儘を言ったら彼を困らせるのは分かってる。


「君はやっぱり可愛いなあ。俺の自慢の恋人だよ」


「君の方が自慢の彼氏だよ」


本当に僕には勿体無い。


きっと楽しい日になるはずの明日が待ち遠しくて、僕は彼の胸に顔をうずめた。